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「ただいま、テツヤ君」

「おかえりなさい、テストお疲れ様でした。
手応えはどうでしたか?」

「まぁまぁ、多分目標は達成出来たかなって感じ」

合宿から帰った翌日、私は模試を受ける為部活を休ませてもらった。
その帰りに部活終わりの彼と待ち合わせをして久しぶりに2人でマジバに寄った。
彼はいつも通りバニラシェイクを、私はストロベリー味のシェイクとポテトを注文した。
身体は動かしていないというのに一日テストを受けていた為凄くお腹が空いていた。
家に帰れば晩御飯があると分かっているからよくないとは分かっているのだけれどいざ店内に入りこのお店独特その匂いを嗅いでしまっては最後、その誘惑に打ち勝つことは出来なかった。

「...私もリコ先輩にお願いしてメニュー作ってもらった方がいいかな」

「メニューって、トレーニングの、ですか?」

彼は少し驚いた顔をしてそう訊ねた。
まぁ彼にそういう話をしたことは無かったから、私がそういったことを気にするタイプだとは思っていなかったのかもしれない。

「まぁトレーニングって言うか...太らないようにっていうか...」

今まさに高カロリーな揚げ物を甘いシェイクで流し込んでいる人間が口にするのは躊躇われるような内容。
それを彼が私に指摘するようなことはないとは分かっているのだけれどだからこそ、だ。
まぁそう思うのは私が今自分がやっていることの罪深さを自覚して罪悪感を抱いているからなのだろう。
そんなことを考えていると彼は優しく微笑んで口を開いた。

「それならカントクよりも僕が協力出来ますよ」

「テツヤ君が?」

はい、と言ってテーブルの上にあった私の手を包み込むように握ってじっと私の目を見つめた。

「...ばか」

そんな彼が何を言おうとしているか気付いてしまった私は彼の手の項をつねった。
彼は痛いですと言いながらもとくにダメージを受けた様子はない。

「名前さんに素っ気なくされると寂しいです」

「テツヤ君がこんな場所で変なこと言おうとしたのが悪い」

黙っていて、と彼の口にポテトを差し込むと彼は素直にもぐもぐと食べた。
そしてもう一本、と口を開けたので先程と同じように彼の口にポテトを運んであげた。
こういうところを見ている分には可愛くていいのだけれど、最近の彼はちょっと男の子すぎるというか...わざとやっているのではないかってくらい私を混乱させるようなことばかり言う。

「大丈夫ですよ。変わらず可愛いままですから」

彼はそう言って先程私がしたのと同じようにポテトを私の口元へと運んだ。
テストで疲れた身体に油分を吸ったポテトの美味しさが染み渡った。

「...テツヤ君って体重とか気にしたことあるの?」

「そうですね...小学生の頃は痩せすぎだって言われた事があって暫くご飯の量を増やされ困りました」

それは私が今抱えているものとは真逆の答えだった。
まぁ昔はそれほど運動もしていなかったしそれで食も今よりずっと細かったのだからそれはそれで不健康だと言われてしまっても無理はない。
世の中には太りたくても太れないことに悩む人もいると聞くし一概にやっかみのような感情を持つのはよくない、と理屈では分かっているのだけれど。
やっぱり少し羨ましいと感じる気持ちはある。
まぁ今の彼はとても健康的な身体に成長したのだけれど。

「テツヤ君昔よりだいぶがっしりしたよね。
大人の身体付きになったっていうか...」

そこまで言って気まずくなって彼から視線を逸らした。
彼の身体をまともに見たのなんて彼と身体を重ねるようになってからだから。
それまでは普通に華奢な男の子というイメージを持っていたことを思い出したから。

「まぁカントクにだいぶ鍛えられましたからね。帝光の練習もハードでしたし」

多分彼は私が今気まずい気持ちでいることにも気付いている。
でもそれには触れずに気付かないフリをしてくれた、それに安堵した。
でも彼は続けて言葉を発する。

「そうでした、今夜僕の両親帰りが遅いんですけど」

突然変わった話題、彼はにっこりと笑って再び渡しにポテトを食べさせた。

「気にされているようですし今日食べたポテトのカロリーは今日のうちに消化しておきませんか?」

本当に変わった。
もうあの頃のほっぺにキスをするだけで嬉しそうに微笑む彼はいない。

結局こういうことになってしまうのだ、今の彼といると。
でも、なんていうか...ダイエットの為だとかそういう事じゃなくて。

「...いいよ」

疲れた身体と心を癒したい、それは彼の望んでいることとも合致するから。
恥ずかしいとは思っているけれどやっぱり好きな人と抱き合っていられるのは幸せなことだから。

「断られると思ってました」

「...別に...いや、とかじゃないから...私だって...」

素直にそう言うと彼はまだ残っていたシェイクを勢いよく一気に飲み干した。
そしてすぐに立ち上がった。

「帰りましょう、今すぐに!」

彼の勢いに少し引きつつも残り2本となっていたポテトを食べて自分の分のシェイクを飲み干した。
Sサイズのポテトにしておいて良かったと思った。
私が立ち上がり鞄を肩に掛ける間に既に彼はトレイを片付け帰りましょうと言って私の手を握った。
なんだか逃がさないと言っているような、そんな握り方だったことに苦笑いを浮かべてしまった。
本当に素直というか猪突猛進というか。
行動力があるのは昔から変わらないと、そう思った。










「絶対Sサイズのポテト半分以上の消費量だったと思う」

「ならいいじゃないですか、僕は今凄く幸せでお互い良いことしかないです」

彼はそう言って私の頬に手を添えキスをした。
深いものではなかったけれど何度も何度もするものだから恥ずかしくなって顔を背けようとすると腰をぐいと抱き寄せられて今度は深いキスをした。
お腹にあたる彼のモノが再び硬くなったことには気付かないフリをした。
だってさすがにもう無理だと分かっていたから。
私の体力も、時間も。

「テツヤ君、そろそろ服着ないと...」

「...分かっています。でももう少しだけ...」

私の身体を抱きしめる腕に力が入る。
まだこうしていたいと、額に、瞼に、頬にキスをして、耳へと唇を近付ける。

「...ダメだよ、テツヤ君」

私が手で耳を押さえてそう言うと彼はなんとも言えない表情を見せた。

「ダメって言われると寧ろしたくなるって、前に言いませんでしたか?」

そう言って耳を押さえている私の手にキスをして、その手を剥がされてしまった。
そしてその手はベッドに縫い付けられてしまう。
再び唇を寄せ耳元で優しく囁いた。

「今日の貴方も、本当に素敵でした」

耳朶に優しく歯を立てて、そこをぺろりと舐めて、吸って。
情けない声が漏れた。
そんな私を見下ろす彼は目を細めた。

「昔からずっと大好きだった筈なのに身体を重ねる度にますます貴方に夢中になってしまって、困ります」

今度は胸元に唇を近付けてちゅっと音を立てて吸って、胸元に顔を埋めた。

「またちょっと硬くなっちゃいましたね、ココ」

胸の先端を摘んで楽しそうな顔でそう言った彼の顔を押し退けた。

「もうっ!帰るから!」

彼は自身の顔を覆う私の手首を掴みそのまま手のひらをべろりと舐めた。
驚いてその手を引こうとしたけれどそれは途中で止められて、その手は再びベッドへと押さえ付けられた。

「...もう少しだけ、こうしていてください」

深い、深い口付け。
私を愛しむような、彼の想いがそのまま私に流し込まれているような、そんなキス。

本当に、私の幼馴染だった頃の小さかった彼はどこに行ってしまったのだろうか。
今はもうすっかり大人になってしまった彼に私は抗う事は出来ない。


end