「ねぇ、リコちゃん」
「んー?なに?」
ウィンターカップに向け練習はどんどんハードになっていく。
その間再び実力テストや学園祭を挟むのだからスケジュール管理は少し大変なようで。
夏の敗北を味わった後だ、課題は多いのだからそれも仕方がない。
リコちゃんもお昼を食べながら予定を組んでいたのだけれど少し難航していて、でも私がお弁当を食べ終わる頃には答えがまとまったようでそれをノートにスラスラと記入し終えると終わったー!と大きな声で言ってパタンとノートを閉じた。
そして疲れた頭を労うように甘いカフェオレをごくごくと飲んだ。
そこで私が声をかけたのだ。
「リコちゃんってえっちしたことある?」
一仕事終えたリコちゃんに私が唐突にそんな質問を投げかけるとリコちゃんは正面に座っていた私の顔に向かって飲んでいたカフェオレを盛大に噴き出した。
「...冷たいよ、リコちゃん...」
ハンカチで顔を拭きながらそう言うとリコちゃんは今のは私が悪いと言いながらも自身のハンカチも使い一緒に私の顔を拭いてくれた。
「...で、なんなのよ、さっきの...」
リコちゃんははつらつとして竹を割ったみたいな気持ちのいい性格をした女の子だけれどこういう話はあまり得意ではない。
知っていたからこそ今まであまり話題に上げたことはなかったのだけれど今はそんな気遣いも出来ないくらい私に余裕がない。
「この前ね、テツヤ君に私だけ気持ちよくしてもらったの」
「......え、えー、っと...?」
リコちゃんの顔は面白いくらい急激に赤みを帯びていく。
元々可愛いのにりんごみたいになったリコちゃんはもっと可愛い。
そう思ってつい真っ赤な頬を指でつつけばその手を叩かれてしまった。
ちょっとだけ痛かった。
「この前うちに来た時、多分テツヤ君がそういう気分になってね?でもゴム、持ってないからって。ちょっとだけ練習してみますかって」
「ちょっとやめてやめて生々しい!あんたねぇ〜!そんなの聞かされて今日からどんな顔で黒子君と接しろって言うのよ!」
リコちゃんはそう言って両手で顔を覆ってしまった。
リコちゃんは耳まで真っ赤になっている。
さすがにまずかったかと思って申し訳ない気持ちになったけれど、リコちゃん以外でテツヤ君の事を相談出来る人なんていないから困ってしまった。
だからと言ってこれ以上リコちゃんに迷惑をかけるわけにはいかない。
「ごめんねリコちゃん、さっきの話やっぱりいい。変なこと聞いてごめんね」
「...名前が変なこと言うのなんてもう慣れっこよ。...まぁなんとなく何が聞きたいかは想像がついたけど残念ながら私にそういう経験は無いからあんたの悩みを解決してあげることは出来ないと思うわ、悪いけど」
優しいリコちゃんにもう一度ごめんねと言って空になったお弁当箱をお弁当袋へとしまった。
明日はテツヤ君とお昼を食べる日だ。
やっぱりこういう事は当事者である彼に相談するべきなのだろうと思った。
彼はどんなつまらない話だって私の話ならちゃんと聞いてくれる人だから。
その対象が彼であったならば尚更きちんと考えてくれると思う。
そんな事を考えながらその日の昼休みを終えた。
「テツヤ君はえっちなDVDとか持ってるの?」
翌日のお昼休み、私がそれを訊ねた時テツヤ君は昨日のリコちゃんと同じような反応を見せた。
さすがに飲み物を吹き出すようなことは無かったけれど気管に入ってしまったようでゴホゴホと咽せてしまった。
「大丈夫?」
慌てて彼の背中を摩ると彼は大丈夫ですと言ったけれどやっぱり少しの間咳は止まらなかった。
ようやく収まった頃一度コホンと咳払いをした後どうしたんですかと私に訊ねた。
「色々勉強したくて...前は私がシてもらうばっかりだったから。本番の時、用にって色々調べたんだけど...でも漫画とかだといまいちよく分からない部分があって」
「...あの、......お気持ちは本当に、嬉しいのですが...」
彼は複雑そうな目でこちらを見て口を開いた。
大人しく彼の言おうとしていることを聞いていると彼の頬がほんのりと赤く染まった。
「...最初は僕に任せてもらえませんか?
その...すみません、僕もけして慣れているわけではないですし不安な気持ちもあると思うのですが...」
「不安なんてないよ。でも私ばっかりってのがなんか嫌で...私もテツヤ君に気持ちよくなってほしいって思っただけで...」
こういうことに限らずいつも私ばかりが良い思いをさせてもらっているから彼にも何かで返したくて。
こういうことはある意味分かりやすくていいかなと思ったのだけれどそれはやんわりと断られてしまった。
彼にそれを借りようと思ったのは彼がどんな女の子、どんなシチュエーションのものを好んで観ているのか興味がわいたから、という好奇心の意もあるのだけれど。
そういう理由だったら観せてくれるのだろうか。
「じゃあお任せするけどでもそれとは別にえっちなDVDは観てみたいから貸してくれる?
それか一緒に観たい」
「...駄目です。お貸し出来ません、というか僕持ってないんで...だからそもそも無理なんですよ」
彼の言葉を聞いて今時そんな男の子がいるんだろうかと思ってしまった。
本来まだそういうものを買える年齢ではないし持っていなくても別におかしな話ではないのだけれど、でもなんやかんや皆どこからかツテを使って手に入れていると聞いたことがあったから...まぁネットで見た情報だから真偽は分からないのだけれど。
でもじゃあ彼は1人でする時どうしているんだろう。
それが気になったけどさすがにそれを本人に聞くことは出来なかった。
「わかった。ごめんね、困らせるようなこと言っちゃって」
「いえ...その...お役に立てずすみません...」
彼が謝る必要なんてないのに。
いつも本当に優しいから、彼は。
彼に抱きついて大丈夫だよと言えば彼も抱きしめ返して頭を撫でてくれた。
本当に気持ちがいい。
彼の手にはなにか不思議な力でも宿っているのではないかと思うくらい、ほんとうに心が落ち着く。
だからまた前みたいに沢山触ってほしいって家に帰って夜布団に入ると毎日のように考えてしまう。
「私ばっかり幸せで、いつかバチが当たりそう」
「そんなわけないです。というか僕だって幸せですから、名前さんだけにバチが当たるなんてあり得ませんよ」
彼が私を本当に好きでいてくれているということはよく分かる。
それくらい大切にされている。
先に好きになってくれたのは彼の方だけれど、多分彼が私に抱いていたイメージと実際の私は全然違っていた筈なのにそれでも全部受け入れて私を愛してくれている。
そんな彼が本当に好き、大好き。
「...大人になってもしテツヤ君が私以外の女の子、私以上に好きな子が出来なかったらお嫁さんにしてね」
それがいつまでも約束されるものでもないと分かっているからそう言った。
こういう事を言われるのは重いって本当は分かっているのだけれどつい口から出てしまった。
「そんな寂しいこと言わないでください。
これから先何があるかなんて分からないから絶対的な約束は出来ません。でも少なくとも今の僕は名前さんとこれから先もずっと一緒にいたいと思っているんですから」
そんな私に帰ってきた言葉はただただ優しいもので。
本当にどうしてこんなに優しい人が私を好きになってくれたんだろう。
「テツヤ君、ちゅーしてもいい?」
私がそう訊ねると彼は返事をする代わりにキスをしてくれた。
この関係がずっと続くように、一生愛してもらえるように。
可愛くて素敵な女の子になりたい、と。
それを心の底から願った。
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