砂糖漬けみたいな恋

「どうしたんスか、怖い顔でスマホを睨み付けて」

「...なんでもないよ」

根拠のない噂話、きっと実際に彼とまともに話したことのない女の子が繰り広げる嘘ばっかりの彼の話。
それはくだらない人達がただ面白おかしく話しているだけだということは分かっているのにそれでも苛立ちは抑えられなかった。
忙しい彼と二人きりですごせる時間は限られているというのに彼の前で不機嫌な顔なんて見せたくない。

「涼太君だっこして」

「はいはい、喜んでっスよ」

普通に抱きしめてくれればいいと思って言ったけれど彼は私を膝の上に跨らせる形で乗せて抱きしめた。

「...こ、この体勢はちょっと恥ずかしいよ」

「えー?でもこの方が名前ちゃんの顔がよく見えて俺は嬉しいんスよ」

彼はほら、と顎に手を添え上を向かせてそのまま私にキスをした。
その動作があまりにも自然な動作でおこなわれるものだから私は気持ちの準備をする余裕がない。

「...涼太君っていつも、...なんかずるい...」

彼の胸元に顔を押し付けてぎゅーっと抱き付くと彼は私の頭を撫でながら今度は頭にキスをした。
そして今度は横髪を耳にかけられてそこにキスをされた。

「余計なものは見ないで今目の前にいる俺だけ見ててくれたらいいんスよ」

耳元で優しくそう囁いてもう一度そこにキスをして。
彼の優しい声色に思わず身体が震えてしまう。
脳が揺れるような甘い声。
私にだけ聴かせてくれるその声に身も心も蕩けてしまいそうになる。

「誰に何を言われても別に気にしないっスよ。
まぁ名前ちゃんに俺のこと嫌い、なんて言われたらショックで立ち直れないかもしれないっスけど」

「そんなこと絶対に言わないよ!」

彼の胸から顔を上げ私が彼の言葉を食い気味で否定すると彼は分かってると言って笑った。

「冗談っスけど、...まぁ仮に言われたとしても絶対に後で好きって言わせてみせるから、大丈夫っスよ」

彼はそう言って顔を上げた私の唇を塞いだ。
先程より長い、長いキス。
唇が離れてようやく終わったかと思った頃、私の唇を彼の舌がぺろりと舐めた。

「っ、涼太君っ...!」

後ろから頭を押さえられ再び塞がれた唇。
今度はもっともっと深いキス。
唇を割って入った彼の舌が私の舌を絡めとってそのままちゅっと音を立てて吸い付かれた。

再び離れた唇と唇の間に銀色の糸が伝ったのを見た私は恥ずかしさのあまり思わず唇を手で拭ってしまった。

「今更こんなので恥ずかしいがるなんて、もしかして俺が興奮するって知っててわざとやってるんスか?」

「っ、ちがっ...!」

彼は私の首筋に顔を埋めてそこに唇を寄せた。
そこにチクリの一瞬鈍い痛みが走る。
彼が何をしたかなんて分からないほど初ではない。

「すんません、...跡、付けちゃったっス」

彼は謝りながらそこを舌でなぞって再び吸った。

「っ、み、見えるところはだめだよっ!」

彼の頭をぐいぐい押してそう伝えると彼は顔を上げ私の額に自身の額を優しく押し当てた。

「じゃあ、今から見えないところにいっぱいキスしてもいい?」

至近距離で彼の綺麗な目と視線が交わって、そのままもう一度キスをされて。
私はもうその問いかけにただ首を縦に振る以外の選択肢は残されていなかった。

「可愛い...そんな顔俺以外に見せちゃダメっスよ」

再び触れた唇のその柔らかさにどんどん身体から力が抜けていく。
そんな私の背を彼はしっかりと支え深い深いキスに身体はどんどん熱くなって、本当に堕ちてしまいそうだ。

「ベッド、連れて行ってもいい?」

彼の大きな手がいやらしく太ももを撫でて。
返事をする代わりに彼の首に抱き付けばふわりと私の身体が宙に浮いた。
わざとなのかなと思うくらいゆっくりと運ばれて柔らかなベッドに下ろされて彼は私の上に覆い被さりにっこりと笑みを浮かべた。
それはいつもの愛想の良いそれではない、少しギラギラとした、男の人の、欲望を孕んだ目。
そんな目で見つめられればもう私は抗うことも出来ずにただ彼の腕に抱かれることしか出来なくなってしまう。

「俺がどれだけ名前ちゃんのこと好きかってこと、たっぷり教えてあげるっスよ...」

そんなのもうとっくに伝わってるよという言葉は飲み込んだ。
だって何度だってそれを噛み締めたいから。
私だけが知っている、私にしか見せない彼のその顔が大好きだから。


end