「......もう、歯磨き、してないのに...」
名前の抗議の言葉もどこか甘く感じた。
まぁあんなことした後だし、それも当然だろ。
こいつがキスが好きだってこと分かってる。
俺とするキスが好き、だったら更に可愛いんだけどな。
こいつにとっても俺が初めての男なわけだから現時点では間違いなくそうなんだろうけど。
「(あーー俺以外の奴にとか想像しただけでムカついてきたからもう考えんのやめよ)」
キスでふにゃふにゃになって身を預けていた名前を抱き上げ靴を適当に脱がせて俺も靴を脱ぎ玄関に上がった。
今俺が向かう場所なんて一つしかない。
俺の部屋、俺のベッドの上。
「っ、あ、青峰くんっ!そ、な、っなんで、ベッ...!?」
「...足、力入んねーんだろ?立ってることすら無理だったじゃねーか」
ゆっくりとベッドに寝かせる形で降ろしてすぐに腰の両側に膝をつき跨って逃げ道を無くした。
「なっ、あっ、青峰、くん...っ!」
「だったら、ここで寝っ転がってればいい」
慌てて起きあがろうとする名前に覆い被さって俺よりずっと小さな手をしっかりと指を絡めて上から抑え付けて。
するともう大人しいもんだ。
「...本気で嫌だってならやめるけど...?」
まぁこれは俺も嫌な奴だなって分かってる。
この状況でそんな風に言われてこいつが“嫌”なんて言う筈がないこと分かって言ってんだから。
でもまぁ___
「…お前のそういうとこズルイよな...あのくらいで簡単にふにゃふにゃになって...俺のこと煽ってさぁ...」
「っ、ふ、ふにゃ、ふにゃ...?」
なんだこいつ、このリアクション、もしかして自覚なかったってことか?
ますますタチが悪いな。
「ふにゃふにゃじゃ不満か?じゃあなんて言えばいいんだろうな」
耳元に顔を寄せて、くすぐるように囁いた。
「とろとろ?ふわふわ?...それとも...やらしい反応?」
すると悲鳴のような小さな声を発して___
「〜〜っ、ばっ、ばか…っ!」
恥ずかしくて暴れる名前の手を解放してやればその手は俺を殴るでも押し退けようとするでもない。
俺のシャツをぎゅっと握っただけだった。
その手が、可愛くて。
その仕草が、たまらなくて。
「...やっぱ可愛いな、お前...」
本当はずっと触れ合っていたいって本気で考える。
バスケをやっている時は唯一そういうことを考えない、でもそれ以外の時間最近俺はいつもこいつのことばかり考えている気がする。
グラビア雑誌に載っているような女とは真逆なタイプなのに、でも俺にとっては1番___
「...今日、お前に甘えてもいいか?」
こんなこと言ってるの黄瀬に聞かれたらまた笑われんだろうな。
でもこいつは笑わねぇって知ってっから。
寧ろそういうの喜ぶって分かってる。
一瞬きょとんとした顔をしたけれど既に柔らかく笑っているから。
多分母性本能っていうの?そういうのがこいつの中にはあるんだと思う。
「いいよ。...青峰君が私に甘えてくれるの、すごく嬉しいから...寧ろもっと甘えてほしいって思ってる」
名前はそう言って俺の顔に触れた。
俺よりずっとちいせぇ手、なのに妙に安心感がある。
自然と発される言葉がいつも俺の心を緩ませる。
「...そっか。なら今日はお言葉に甘えさせてもらうわ」
唇で優しく名前の鎖骨のあたりに触れる。
そこからはもう止まらなかった。
ベッドの上で絡み合う指、重なる体温。
触れる度に溢れる声、互いを隔てる距離がどんどん無くなっていく。
「(俺みたいな男と付き合ってなきゃ名前はまだこんな風に女になってなかったんだろうな)」
罪悪感、なんて言うつもりはないけど。
今更清い関係に、なんて無理だし。
なによりもう名前もガキみたいな恋愛に戻れない気がする。
「(まぁ俺なんてめちゃくちゃガキだけど)」
これだけ我慢が出来ないのだから、それくらい自覚はしてる。
元々周りよりこういうことへの興味とか性欲は強いという自覚はあったけれど、でも___
「…やっぱお前のことすっげぇ好きだわ」
自分が、は勿論だけど何より名前を喜ばせてやりたいって、満足させてやりたいって考えるようになったのはそういうことだと思う。
「...私も青峰君のこと...大好き...」
「青峰君、私そろそろ帰らなくちゃいけないから...」
「...ん、しゃーねぇな」
俺の家はまぁ男ってのもあるだろうけど親も放任主義?ってやつで...いや、俺が守らないからそうなったんだろうけど、まぁ別に仲が悪いとかじゃねぇけど。
でも名前は女だし多分親も真面目なんだろうな。
門限が設けられている。
たまにこうやって会えても2人きりで過ごせる時間は限られている。
だからこそすぐこういうことになっちまうのちょっと罪悪感を覚えたりもするんだけど、でもなかなかやめられないからちょっと困ってはいる。
俺は適当な服に、名前は制服に着替えて軽く髪を整えて帰り支度を済ませた。
名前を家まで送る帰り道、自然と俺の腕に手をかけられる、それが凄く幸福に感じる。
「次の練習試合の日、丁度模試と被ってて応援行けないんだ...」
「そっか。まぁぜってー勝つから、名前もテスト頑張ってこいよ。試合はまたすぐあるしな」
まだ2年だけど俺と違って名前は既に受験を視野に入れて勉強しているらしい。
つくづく俺とは違う。
「青峰君は気になる高校とかないの?」
「まぁバスケ部が強いとことか?今年も全中優勝いけるだろうしそんで来年も優勝すりゃあ推薦とかで行けるとこに行くんじゃね?」
普通の受験で俺が入れる高校なんて少ないだろうし。
俺にとってはそんなことより全中優勝の方がよっぽど楽に出来るって前にテツに話したらちょっと呆れられたけど。
名前は俺の成績も知っているしバスケしてるとこも何度も見てるから俺のそれを聞いても納得していた。
「...もし私が青峰君と同じ高校行きたいって言ったら...迷惑?」
「なんで俺が迷惑って思うんだよ。いいじゃん。まぁ俺がすげー頭悪い学校しか入れなかったらさすがに申し訳なくなるだろーけど」
その手の学校は多少荒れてたりするだろうし。
そうなったら別の高校を選ばせたい、と思う気持ちもあるけど同じ学校がいいって気持ちもあって正直複雑ではあるんだけど。
「運動部が強い高校って結構学力も高いところ多いから大丈夫だと思うよ。だって青峰君のバスケ凄いもん。きっと3年になったらスカウトとか沢山来るんじゃない?」
「だといいな。...万が一高校離れてもお前とは別れるつもりとかないからな」
きっと俺より名前に合ってる奴は他にいるんだろうけど、でももう俺のもんになったこいつを手放す気も更々ない。
「...青峰君に飽きられないように頑張るね」
こいつに飽きるとか思われてんのはちょっと納得いかねぇけどこういう謙虚なところも名前の可愛いとこなんだと思うからそれを否定せずに頭を撫でた。
「じゃあ、また明日な」
「うん、また明日ね、青峰君!送ってくれてありがとう!」
名前を家まで送り届けて俺も来た道を引き返した。
途中ストバス場の側を通ってコートに忘れられたぽつんとあったボールを見つけ俺は自然とコートに入っていた。
そしてそのボールを手に取り2、3度ボールをドリブルした後そのボールをゴールへと放った。
それはいとも容易にゴールリングをくぐって地面に落ちその場で何度かバウンドした後やがて俺の足元へと転がった。
「...ずっとバスケ、やっててぇなぁ...」
テツも一軍に上がって、黄瀬も加わって、多分すげぇ面白いチームになってる。
バスケが楽しくて仕方ない。
さつきには昔からバスケ馬鹿って言われて、それを否定したこともなかった。
そんな俺が名前みたいな真面目な女子と付き合って今こんなんなってんだからほんと人生ってわからねぇよな。
「...同じ高校、か...ま、なんとかなんだろ!」
これからも変わらずずっとこんな日々が続くと信じていたこの時の俺はきっとまだまだガキだったんだろうな。
変わらないなんて保証はどこにもないのに。
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