「こっちってこんなに寒いの!?」
「内陸の盆地だからね。おそらく同じ気温でも東京より寒く感じるんじゃないかな」
私があまりの寒さに悲鳴をあげると彼は私の首に自身が巻いていたマフラーを巻き直してくれた。
気持ちは嬉しいのだけれどこれでは彼の方が冷えてしまう。
「ご、ごめん、いいよ。征君が風邪ひいちゃう!」
慌ててマフラーを彼に返そう首から外そうとしたけれどその手を掴まれそのまま握られてしまった。
「俺は大丈夫だから、使ってくれていて構わない」
そう言ってにこりと笑いかけてくれた。
その笑顔にどきりと胸が高鳴ってしまった。
だって彼のこんな笑顔を見たのは随分久しぶりのことだから。
「...来年は優勝、してね...」
「ああ勿論、そのつもりだよ」
彼はそう言って私を抱き寄せて額にキスをした。
あまりに自然にやってのけるのだからこっちが恥ずかしくなってしまう。
「昨日はもっと凄いことをしたのに、そういうところは変わらないね」
「っ、そ、それとこれとは別なの!」
本当は京都には日帰りで来るつもりだった。
でも会いに行くというと彼が即座にホテルを予約して往復の新幹線の切符を送ってきたのだ。
それは2泊3日の日程で、高校生で泊まりで県外に行くだなんて親にどう言い訳しようかと悩んでいると母の方から気を付けていってくるのよ、と言われてしまった。
既に彼が私の母に外泊の許可を取っていたのだ。
一体どんな理由を作り母を納得させたのかは私は知らない。
なんとなく聞くのが怖かったし下手な事を言ってやっぱり駄目だと言われてしまうのも怖かったから。
彼は寮暮らしだし1人でホテルに泊まるのかと思っていたのだけれど当然のように彼も同じ部屋に泊まり...まぁそんなことになればもうする事はするわけで。
「俺は後で名前に暖めてもらうから大丈夫だよ」
「い、今暖めてあげるから!」
お願いだからそれ以上言わないでと彼の口を塞ぐとそのまま私を抱きしめられた。
「ならそうさせてもらおうかな」
そう言って私の手を剥がすと今度は唇にキスをした。
一連の流れがあまりにもスマートに行われるものだから拒む事もできない。
...別に拒みたいわけじゃないのだけれど、一応外だし、私はともかく彼の知り合いにも会ってしまうかもしれないから。
「俺といるのに他の事で頭がいっぱいなようで少し寂しいな」
「...征君のこと考えてるの」
その言葉は嘘ではない、でも少し違う。
多分彼もそれに気付いている筈だけれどとくにそれを追及したりせずに彼の肩に顔を埋めている私の頭を撫でてくれた。
「夕食は予約してあるんだけれどそれまでどこか行きたい場所はある?」
「...2人でいられるならどこでもいい、かな...」
多分1番困らせる回答だと分かってはいるけれどそれが私の本心だった。
ただ彼に会いたくて京都まで来た私は特に下調べもしていなかったから、よくある有名な観光スポット的な場所しか知らない。
そういう場所に行くのも悪くはないのだろうけど多分ゆっくりは出来ないだろうし。
でも一つだけ思い付いた、行きたい場所。
「征君の学校って見られる?その...外からだけでもいいから...」
「どうとでもなると思うけれど、そんなところでいいのかい?」
彼の問いに頷くと彼は柔らかく笑いそれを了承してくれた。
電車に乗って移動している間も彼は私の手を握ってくれていた。
車内で乗り合わせた同い年くらいの女の子がちらちらと彼を見てなにか内緒話をしていた。
彼は顔が整っているから、きっとそういうことなんだと思う。
中学の頃から女の子に凄くモテていたしきっとそれは今でも変わらないんだろうなと思う。
「どうかした?」
他人から向けられる視線に気付かない程鈍感な人ではない。
まぁある意味慣れてしまっていてもはや気にならなくなっている可能性はあるけれど。
「征君のこと私が1番好きだから、ね...」
見た目だけじゃない、私が1番彼の良いところを知っているんだ、なんて。
そんなこと張り合ったって仕方ないのに。
彼は一瞬キョトンとした顔をしたあと困ったような笑みを浮かべた。
突然変な事を言って困惑させてしまったのだろうかと少し不安になった。
でも否定するのも謝るのも変な話だし、と何も言えずにいると彼は私の耳元に顔を近付けて私にだけ聴こえる声で囁いた。
「...今はあまり可愛い事を言わないでくれ。すぐにでもホテルに連れ帰りたくなってしまうから」
その彼の言葉に顔が一気に熱くなった。
彼の方を見ると至近距離で目が合って優しい笑みを返された。
「その顔も今夜たっぷり見させてもらうから」
覚悟しておいて、そう言って何も無かったかのようにまた前を向いた。
そんな彼とは対照的に私は顔を上げられなくなってしまった。
2泊3日とは言え午前中は彼は部活に行ってしまうから会える時間は限られているというのに。
少しでも彼の姿を目に焼き付けておきたいと思うのに。
全部彼のせいだ、と責任転嫁をして彼の手を握る手にぎゅっと力を込めた。
電車を降り、また寒空の下に出た後もまだ身体は火照っていて、先程まで感じていた底冷えのような寒さは感じなくなっていた。
彼は私を暖めるのが凄く上手みたいだ。
end