「さつきちゃんって桜の精みたいだね」
「...どうしたの?」
彼女と恋人関係になって3度目の春を迎えた。
彼女と過ごす休日、お気に入りの洋菓子店でケーキを買って彼女の家に向かう最中、美しく咲く綺麗な桜を見て唐突にそう呟いた私に彼女は少し驚いた顔を見せた。
彼女がそれに対していきなりなにを言っているんだと思ってしまうのも仕方のないことだということは分かってる。
私も無意識だった、声に出して彼女に伝えるつもりなんてなかったのだから。
「それだけ綺麗で可愛いってことだよ」
彼女の髪に散った桜の花びらが落ちて、私はそれを指で摘んで手のひらに乗せた。
軽い花びらは風に乗ってすぐに私の手から飛んで消え去ってしまった。
花を咲かせたところで1週間も経てば葉桜になって美しくも吐かない淡いピンクは消えて無くなってしまう。
そんな桜を見ていつか彼女も私の前からいなくなってしまうんじゃないか、なんて、散る桜と彼女を重ねて不安を抱いた。
「私から見たら名前ちゃんの方がよっぽど桜っぽいけどね」
彼女はそう言って私の頬を撫でた。
彼女は私と話をする時いつもしっかりと目を見て話してくれる。
嬉しい反面私は少し恥ずかしくなってしまうのだけれど、でもやっぱり嬉しい。
彼女の瞳の中に映る私を羨ましく思うくらいに。
「ほら、今もこんなに...可愛いね」
愛しそうに私の頬を撫でる彼女に私の心拍数は上昇した。
いつだって彼女は私を酔わせて夢中にさせるのだから、大好きだけれど少し怖い。
桜は美しく人気が高い植物だけれど少し怖いイメージもある。
やっぱり私よりもずっと彼女の方が桜っぽい女の子だと思う。
「名前ちゃん、大丈夫だよ。私名前ちゃんを置いていなくなったりしないから」
彼女は鋭いから、私の抱いていた不安が何かなんてことはすぐに察知してしまう。
...今日の私を見ていればそんなの誰にでも分かるのかもしれないけれど。
どうしてこんなに不安を抱えているのだろう。
やっぱり桜は人を狂わせる、そんな植物だと思う。
「ずっと一緒にいたい」
子供みたいな、こんなこと普段は言わないのに。
約束なんてしたって意味ないのに。
だってこれから先の未来で何が起こるかなんて分からないのだから。
彼女が私を嫌いになる可能性だってある。
...やっぱりあの人が好きだと、フラれてしまう可能性だってある。
そうなった後も彼女に捨てないでと縋れる強さは私にはない。
彼女はそんなどうしようもない不安を含んだ切望を聞いても馬鹿にしたりなんてしないで静かに聞いて優しく微笑んで私を抱きしめてくれた。
「私も一緒がいい。ごめんね、私は多分そう簡単にはもう名前ちゃんを離してあげられそうにないから。仮に名前ちゃんが私以外の人を好きになったとしても」
彼女はそう言ったけれど彼女がどんな人かというのは私が1番よく知っているから。
きっと彼女は傷付きながらも私の幸せを願って手を離してしまう、そんな女の子だと思ってる。
「離さないで、ずっと側にいさせて」
でもそうであってほしいと望む私は本心を口にしたりはしなかった。
言わないことで彼女の優しさにつけ込めるなら、そんな事を考えてしまう嫌な人間だから。
「大好きだよ、名前ちゃん」
彼女の声は桜の砂糖漬けみたいに甘い。
「もっと言って...もっと聞きたい」
酔って狂って虜になって、それはとても甘い毒のようで。
「お家帰ろっか。続きは2人っきりで、名前ちゃんにしかしない方法でたっぷり分からせてあげる」
そんな彼女の毒で死ぬことが出来たらどれだけ幸せだろうかと、私は本気で考えてしまう。
「沢山愛して、ね...」
こんなに弱い私だけれど誰にも負けないくらい貴方の事が好きだから、だからどうかそれだけは。
「さつきちゃん、大好きだよ」
もっと上手に感情を伝えられたらいいのに。
私と同じくらい彼女が私を好きになってくれたらいいのに。
そして最期は貴方の愛で私を殺してくれればいいのに。
その後で私は地獄に堕ちたって構わないから。
end