貴方に運命を支配される

「これを持っておけ」

「...なぁに、これ」

学校に行く為に家を出ようと肩を履いたところでインターホンが鳴った。
そのまま玄関の扉を開けるとそこにいたのは真太郎君だった。
待ち合わせなどはしていなかったのだけれど迎えに来てくれたのだろうかと思い声を掛けようとしたその時、彼は手に持っていた大きな虎のぬいぐるみを私に差し出した。
それを見てそう訊ねた。
まぁ本当は聞かずとも分かっているのだけれど。
返ってきた回答は想像通りのものだった。

「今日のラッキーアイテムなのだよ。今日のお前の運勢は最悪だ。ラッキーアイテムで補正しなければ下手をすれば命すら落としかねん」

「...まぁ、よく当たるもんね、おは朝...」

いくらなんでも大袈裟過ぎると思ったけれど彼は至って真剣な顔をしているものだから揶揄うような発言は控えた。
私の為にわざわざ用意してくれるところに彼なりの愛情を感じる。
少し変わっているとは思うけれど、そんなところをひっくるめて彼を好きになったのだから。
ただまぁ...

「気を使ってくれたのは嬉しいんだけど、ちょっと大きすぎない?」

「大きければ大きい程効果があるんだ。持っておけ」

「...あ、...ありがとう...」

彼から受け取ったぬいぐるみは本当に大きくて、これを一日持って行動しなければいけないのだろうかと考えると少し不安になった。
というかこんなに目立つものを学校に持ち込んだりしたらさすがに没収されてしまうんじゃないだろうか。

「授業中は教室の後ろのロッカーに置いておいても大丈夫かな?」

「...確か席は1番後ろだったな?ならば補正は働く筈だ」

そういう意味ではなかったのだけれど、でもまぁクラスは違うけれど教科担当の先生は同じだし、多分大丈夫だろう。
少し恥ずかしい話だけれど彼は色んな意味で有名人で、私が彼と付き合っているということは同じ学校の大抵の人に知られているから。
付き合い始めた頃は色んな人から驚かれて質問責めになってしまった。

「でもこんなにおっきい子いつ買ったの?」

「これは以前から買っておいたものだ。当日には手に入れづらいものもあるから予め目ぼしいものは事前に買うようにしているのだよ」

目ぼしいもの、なんてキリがなさそうだけどその辺はどう判別しているのだろうか。
多分何か法則があるのだろう。

「じゃあ今日は部活終わるの待っててもいい?」

「...それは、別に構わないが...」

この子を彼に返さなければいけないから。
...というかこの年齢でこんなに大きなぬいぐるみを抱いて1人で外を歩くのは正直少しきつい。

「授業中以外は絶対に手放すな」

「...頑張ってみます」

まぁ...友達には私の意思でないことは多分分かってもらえるだろうから。

「ありがとう、真太郎君」

取り敢えず感謝の言葉を伝えた。
彼は照れ臭いのか素っ気なく返事をしたけれど。
でも私の気持ちは伝わった筈だから。

「因みに真太郎君の今日の運勢はどうだったの?」

「蟹座の今日の運勢は一位だ。...だから俺といればより補正は確実なものになるだろう」

彼はそう言うと私から視線を逸らしてしまった。
彼の少し赤くなった横顔を見上げる。
ああ、もう本当にこういうところはずるいなって思う。

「今日お昼一緒に食べてもいい?」

「...ああ、好きにしろ」

まぁその日の運勢なんて関係なしに私がお願いした時はいつも一緒に食べてくれるのだけれど。
高尾君は彼の事をツンデレだって言っていたけれど私にとってはただただ優しい彼女思いの男の子だ。

「この子、真太郎君だと思って抱っこしてるね」

「俺とは全く似ていない、それは少し無理があるのだよ」

貸してもらったぬいぐるみの顔をじっと見た。
彼はそう言うけれど私にとっては彼もこの子と同じくらい可愛いのだけれど、それを男の子に言ったところで嬉しくないのは分かっているから言わないことにした。

「じゃあ後で真太郎君のこと抱きしめてもいい?」

「なっ...す、好きにしろ...!」

ほらやっぱり、彼は私に甘い。
そんな彼を今すぐにでも抱きしめたくなったけれど今はこの子がいるから。
つぶらな目をした虎のぬいぐるみの顔に唇を押し付けた。
それを見ていた彼は私からぬいぐるみを取り上げ顔を近付けた。
ぬいぐるみとは違う温かい体温が唇に触れた。

「...大好きだよ、真太郎君」

「...そんなことわざわざ言わずとも知っている」

私が今日死ぬのだとしたらきっと死因は彼だ。
幸せすぎて死んじゃうかもしれないって、そんな馬鹿げたことを本気で思わされたのだから。


end