「あっくん、これすごく美味しいよ。個人的に今季1番の当たりかも」
「んー、マジで?ちょーだい」
私よりずっと大きな身体をしているのに、口を開けて食べさせて、と待っている彼は無防備で凄く可愛くて。
促されるまま口に運んであげると彼は素直に食べた。
もぐもぐという擬音が彼の頭上に出ているようなそんな錯覚。
咀嚼をし飲み込んだ彼の幸せそうな顔ったら。
「ほんとだー、コレ美味しいね。もっとちょーだい」
「いいよ、てか全部あげるよ」
どーぞと彼に袋ごと差し出すと彼は少し不服そうな顔をして受け取った。
もしかしてまた食べさせて欲しかったんだろうか。
彼とはこんなことが気軽に出来るくらい仲良しではあるけれど、最近少し焦り始めてきた。
この大きな子供みたいな彼が可愛すぎてこのままでは彼氏ができないんじゃないかって。
そんなことを考え始めたのは最近だ。
周りの友達がどんどん彼氏を作り始めたから。
そんなのみんな持ってるから買って、と流行りものを親におねだりする子供みたいな思想かもしれないけど。
でもやっぱり寂しくて。
恋に興味がないわけでもないし。
「あっくんは彼女とかいたことあるの?ていうかもしかしている?」
「んー、いないよ。あんま興味ないしー」
まぁもしも彼女がいて私とこんなことをしているのだとしたら問題なのだけれど。
彼は歳上にモテそうな気がする。
面倒見の良い女の子。
いや、そうでなくともつい構いたくなってしまう気がする、彼は。
「誰か紹介してもらおっかな」
友達の友達とか、なんとなく安心出来るし。
でもなんとなく恥ずかしくて言い出せなさそう。
そうだ、彼にだったら言えるかもしれない。
でも彼のことだからめんどくさいって断られそうな気もする。
「紹介ってなにー?」
彼は先程渡したお菓子はとっくに食べ終えて、新たなお菓子を開封していた。
相変わらず食べるスピードが速い。
食べるというか飲んでいるという表現の方が正しい。
「...あっくんのお友達で彼女募集中、みたいな人いない?」
「えー、なんでそんな事聞くの?」
なんで、...それは勿論彼氏が欲しくなったから、なんだけど...そんな当たり前のことをわざわざ聞き返されてしまったらなんだか恥ずかしくなってしまった。
「...えっと...周りの友達みんな彼氏出来て...最近あんまり遊んでもらえなくなって...寂しいな、って...」
やっぱり改めて口に出して言ってみると妙な恥ずかしさがある。
彼は私の顔をじっと見て私の口にポッキーを差し込んだ。
どうしようもないからそれをもぐもぐと咀嚼して飲み込んだ。
「名前ちんは俺と一緒にお菓子食べてるより別の男と付き合う方がいいってこと?」
「え、いや、そういうことじゃなくて...」
彼にだっていつか彼女が出来る日が来るだろうし、そうなればもうこんな風に気軽に話をすることすら出来なくなってしまうだろうから。
そうなったらやっぱり寂しいし。
「あっくんにもし彼女が出来たら今みたいに遊べなくなっちゃうでしょ?」
「えー、じゃあ俺彼女いらないしー。名前ちんと一緒にいられなくなるならつまんないし」
彼はそう言ってもう一度お菓子を私の口に放り込んだ。
今度はチョコレート、私にはかなり甘い。
「でも男女の友情を続けていくのって結構大変なんだよ。まぁ主に周りが、って感じだけど...」
「意味わかんないし。でもそれって名前ちんに彼氏が出来ても俺と今みたいに出来ないってことでしょ?だったら彼氏なんて作んないでよ」
彼は子供みたいな駄々を捏ね始めた。
なんというか、私だって本気で彼氏が欲しくて仕方ないってわけじゃないんだけど。
でもずっといらないのかって聞かれたら多分違うと思うし。
うーんと頭を悩ませていると再び彼が口を開いた。
「てかそれなら俺が名前ちんの彼氏になれば解決じゃない?」
「え?...いやいや、そんな簡単に...あのねあっくん、付き合うってなったら今までとは全然違うんだよ?あっくん私とキス、とか出来る?」
彼の提案に驚きながらも冷静にそう訊ねれば彼は、んーと考える素振りを見せた。
そして私の顔をじっと見つめ顔を近づけてそのまま。
「っ、あ、あっく、ん!?」
彼の唇が私の唇に触れた。
ほんの数秒、触れていた彼の唇が離れたかと思ったその瞬間彼の舌がペロリと私の唇を舐めた。
そしてゆっくりの顔を上げた。
「な、なななんでキスしたの...!?」
「んー?出来ないって言われたけど、なんか出来そうだなって思って」
彼は普段と変わらぬ様子でチョコレートを食べた。
もしかして彼女はいなくても女の子とこういうことをするのに慣れているんだろうか、彼は。
だとしたらちょっとショックだ。
「なんか甘かったから、だから美味しそうだなって」
それはつい先程チョコを食べたからだろう。
予想外の展開に頭が混乱してきた。
「...好きでもない子にこんなことしちゃダメだよ...」
「えー?俺名前ちんのこと好きだし」
彼がそんな意味で言っているのではないとわかっているのに、それでもそのストレートな言葉に私の胸を貫かれてしまった。
「名前ちんは俺とずっと一緒にお菓子食べてよーよ」
「ひゃあっ!?」
彼はそう言って私を抱きしめた。
彼にそんなことをされたことは当然ないのに。
まずい、心臓の鼓動がうるさい、顔が熱い。
「名前ちんりんご飴みたいで美味しそーだね」
彼はそう言って私の頬にかぷりと噛み付いた。
勿論本気じゃないからそこまで痛いわけではないけれど、さすがに恥ずかしい。
「てか良い匂い、全部美味しそー」
彼はそう言って私の肩に顎を乗せて首筋の匂いを嗅いだ。
私はいつか彼に食べられてしまうんじゃないかって、そんな予感がした。
end