「はじめまして。黒子テツヤと申します。本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます」
まずは私の両親への挨拶。
彼は私の両親に深々と頭を下げ普段以上に丁寧な敬語で挨拶をした。
スーツもシャツも一分の隙もなく、礼儀正しく柔らかな笑顔を添えて、それはもう完璧だった。
「..まあ、本当に落ち着いた子ね...」
「本当に、凄くまともそうな人を...」
両親はぽかんとした顔で、なぜか逆に不安げな表情を浮かべていた。
母が用意してくれた料理を食べその料理の味を絶賛し、両親が話しやすい話題を振り、場の空気を読む完璧な話題選び。
私からすれば完璧すぎて寧ろ怪しい。
頭の回るセールスマンのように見えてきた。
「.....黒子さん、うちの娘のどこが、そんなに良かったんですか?」
母がやんわりと聞いた。
「すべて、です。.....僕の世界を変えてくれました。僕は、名前さんのためなら、僕自身の命も惜しくありません」
その瞳は、真っすぐで、穏やかで、私に向けてきた狂気じみた執着を全く感じさせなかった。
実際にはヤンデレ120%みたいな人なのに。
「...なんだか逆に怖くなってきた......」
その狂気に気付いたわけではないけれど彼の私に対するあまりの愛の強さに私の両親は少し恐怖を抱いた。
「はじめまして、名字名前です!本日はご挨拶に伺いました。」
次の日には彼の両親の元に挨拶に。
彼ほど完璧ではないけれど失礼にならないよう明るく元気よく、笑顔で挨拶をした。
今後は付き合いもあるだろうし、多少おかしな始まりだったとしてもこれから一緒に生きていくことを選んだのだから出来れば彼の両親とも良好な関係を築きたい。
「.....あ、は、はい......よろしくね......」
上品な洋服に派手すぎない化粧をして、出来るかぎり気を付けたつもりなのだけれどどうにも彼の両親の反応がぎこちない。
なぜか目が泳いでいるように見える。
それでも家に上がり食事をいただきながら話をしていると自然と会話が弾んで彼の両親の緊張感も和らぎ穏やかな空気に変わっていった。
ひと段落したところで彼の母が彼にちょっと、と声をかけキッチンの方へと連れていった。
「ちょっと...本当に大丈夫なの?」
「何がですか?名前さんは僕のすべてを受け入れてくれます。僕の部屋の、あれも知っていますし」
「あ、あれって...あの......貴方の部屋の壁一面に、貼っている写真を知っているの!?顔アップとか、寝てるところとか、笑ってるのとか、どうやって撮ったのかすら分からないあの写真を知った上で貴方と結婚することを承諾したの!?」
「はい、それでも、名前さんは愛を感じると言って僕の想いを受け入れてくれました。あの写真達も結婚後の新居に一部持ち込む許可をいただいています」
盗み聞きをするつもりはなかったけれど二人の会話は筒抜けで。
どうやら彼とは違い彼の母は正常な思考をしているらしい。
だからこそ彼の常軌を逸した行動や思考に理解が追いつかず声が大きくなってしまったのだと思う。
彼はそもそも自分が少し愛が重い、くらいの認識だからそれを隠すつもりもないようで普段通り話していたし、聞こえてしまうのも仕方ない。
私と顔を合わせている彼の父は冷や汗をかきながら何度も私に謝っていた。
最終的に私が結婚を選んだのだからそこまで恐縮する必要なんてないのに。
でもさすがに監禁をされそうになったから結婚しようと言ったなんて彼の両親には話せない。
だからその話題には深追いするべきではないと思い適当な世間話を振った。
「大丈夫です、僕は正気です。人から見れば僕の愛は少し歪に見えるかもしれませ。ですがそんな僕の愛を彼女は受け止めてくれたんです!」
「......まぁそれを知って貴方と結婚してくれる女の子なわけだし...ある意味貴方たち、お似合いかもしれないわね...」
そこまで話し終え紅茶を持って再び私達の元へ戻ってきた彼と彼の母は再び席についた。
「...色々と規格外、というか狂っ、...変わったところがある子だけれどきっと誰よりも名前さんを大切に想っている筈だから。どうかよろしくお願いします」
「困った事があれば私達に相談してください。...可能な限り力になりますから...」
少し不安はあったけれど無事私と彼の両親双方から結婚の許しがもらえた。
さて、新居と結婚式の準備だ。
まぁ多分その辺は彼が張り切ってくれるだろうから多分何も心配することなんてないだろう。
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