二人の愛の巣へのお引越しです

「おお...!家のこだわりなんてあんまり無かったからテツヤのセンスにお任せしちゃったけど完璧だね。なんかモデルハウスみたいじゃん!」

「ありがとうございます。名前さんが快適に過ごせるように、色合いや家具の高さ、利便性を徹底的に計算しました。もちろん防音も完璧です、人との接触リスクは最小限にしています」

彼女は僕を信頼し全てを委ねてくれました。
その期待を裏切るわけにはいきませんから睡眠時間を削り全力を尽くした。
その甲斐あって彼女は大変喜んでくれました。
彼女の笑顔が見られただけで僕の努力は報われた。

「接触リスク......?」

「些細な油断が、すべてを壊すことがありますから」

僕がそう言うと彼女は少し顔を引き攣らせたけれどそんな顔もまた可愛いいのだから本当に罪づくりな女性だと思う。
完璧だと褒めてくれた彼女だけれどどうしても気になる点が一つあるようで言いにくそうにしながらも口を開いた。

「ごめん、テツヤ...これだけは言わせてほしいんだけどさ。寝室の......その、ベッドの正面に飾ってある私のA1サイズの写真、アレだけはちょっと...ねぇ?」

「...嫌ですか?」

寝室に飾った写真は僕が撮った彼女の写真の中でも一番のお気に入りで、あの写真の彼女はこの世のものとは思えない程可憐でまるで天使と見間違う程美しく。
だからこそ一番リラックス出来るであろう場所に飾ったのだけれど。

「いや、あのね、私本人がいるのに...当然同じベッドで寝るんでしょう?なんでそこに巨大ポスターを貼ってそれを見る必要あるの......?」

彼女の問いに僕はしばし沈黙し、そして口を開いた。

「名前さんがここにいるのは現実です。...でも、写真の中の名前さんは記憶です。いつでも、何度でも、見返せる。名前さんが眠っている時も、僕の視界に起きている名前さんにも会えるんです。そんなに幸せなことってないと思います」

「ちょっ、待って待って、こわっ...いや違うか、愛が重いよ、いや、まぁそれだけ想ってくれるのは嬉しいけどさ」

彼女のこういうところが本当に好きで。
絶対に否定はしないんです。
理解しようと、受け入れようと思考を悩ませてくれるんです。
僕を理解しようと努力してくれる、本当に天使のような人だと思う。

「...僕にとって、名前さんは風景です。空気です。呼吸です。...見えなくなるのが耐えられない」

「そんな分子レベルでテツヤの中に入り込んでるの、私...いやでもさすがに無理があるからそんな理由で部屋に私の顔アップ写真飾るのやめてほしいんだけど」

そんな彼女がここまでそれを拒絶するだなんて、彼女のことを想えば引くべきだということは分かっているけれど僕だってこれは譲れない。
どう言って納得させようか思考を巡らせていると彼女が僕の頬にそっと両手を添えた。
それだけで僕の胸は昂ってしまう。

「私本人がここにいるのに私以外の私を見たいって言うの?テツヤ、私だけを見てるんじゃなかったっけ?」

僕はその場で膝をついた。
なんということだ、僕が、僕自身が誓った事を自ら破るだなんて。
もうぐうの音も出ない。

「...確かに、名前さんの言う通りです、...僕の完敗です...」

こうして寝室に飾っていた写真は撤去させることになった。
でもこの写真はお気に入りだからどこかには飾りたいのでまた改めてどの場所ならいいか彼女に相談をしようと思う。





新居で過ごす、彼女と同じベッドで眠る初めての夜、僕は思う存分隣で寝転んだ彼女を見つめた。

「ねぇ、なんでそんなに見てるの?いくらなんでも顔に穴が開きそうなんだけど」

「写真には撮れない分しっかり目に焼き付けておこうと思いまして。僕は名前さんだけを見ていますから」

僕の言葉を聞き彼女はうわーと言ったけれどその後すぐに目を閉じた。

「明日もお仕事だしほどほどにね。おやすみ〜」

そしてそのまますぐに眠ってしまった。
こんなに僕に気を許してくれてくれるだなんて多分彼女も僕の事が大好きなんだと思う。

「...僕の全てをかけて貴方を幸せにします。絶対に後悔なんてさせませんから...だからずっと一緒にいてくださいね...」

愛しい愛しい彼女の額にキスをして、彼女を抱きしめて僕も眠った。


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