新婚旅行に出発する前日、彼女は荷物をもう一度確認しながら僕に話しかけた。
「旅行とか全然行き慣れてないからプランはテツヤに任せちゃったけど...」
「はい。すべて手配済みです。…名前さんに喜んでいただけるよう全力で考え厳選しました」
安心してくださいと安心させる、僕の笑みの奥に強烈な執念が潜ませていることにこの時の彼女はまだ気付いていない。
彼女のリクエストは国内旅行がいいとのことだったので僕の目的達成のハードルは比較的容易だったのは有り難かった。
それでも最後まで油断はしない。
彼女を手に入れたからといって僕の彼女への情熱の火が弱まることがないということを全力で証明してみせます。
新幹線を降り目的地に着いたのは昼を回ったおやつタイムの頃。
午前中からでもフロントで荷物は預けられるけれどチェックインを済まし部屋に荷物を置いてからの方が安心だし何より旅行中は普段より体力を使うから、あまり無理をして明日体調を崩しては勿体無いと思い普段と変わらない時刻に起きれば間に合う新幹線の切符をとった。
「人気の少ない時間帯を狙ったほうが快適ですしね」
僕が提案した場所を伝えると彼女が気になるというカフェも勿論日程には折り込み済みだ。
午前中から昼過ぎにかけては結構混雑するらしいがランチタイムを過ぎれば比較的落ち着くということを事前のリサーチで知っていた。
新幹線に乗っているだけとはいえ移動にも体力は使うから、だから着いて取り敢えず休憩出来るように予定を組んだ。
「テツヤ...ここ、完全に裏道じゃない?大丈夫?もしかして迷ってる?」
「いいえ、表通りは観光客がかなり多く移動も大変らしいので。こちらの方が静かで快適に目的地に着きます。ですがお店に入る前に少しだけ...」
疑問符を浮かべる彼女の手を引き小さな公園に入りベンチへ。
「休憩?」
「…名前さん」
「なに?」
「……好きです」
そのまま彼女の柔らかな唇を塞いだ。
人目がまったくない、木陰の中で。
彼女はただ静かに僕のキスを受け入れる。
何度も重ねられるキスに僕の胸が高鳴っていく。
でもそんな幸福な時間にも終わりは訪れる。
「テツヤ...唇腫れちゃうよ...」
そう言って優しく僕の胸を押した。
止め方まで可愛い、ここが公園でなければすぐさま押し倒していただろう。
その表情は少し怒っているように見えたけれどほんのりと赤くなった頬が照れているだけだと教えてくれた。
それに気付いた瞬間、最高の新婚旅行になるであろうことを確信した。
カフェを満喫してピーク時間を過ぎた観光地を巡ってホテルに帰った。
僕自身も初めて泊まる少し背伸びしたホテルだ。
「このホテル、すごく綺麗で静かだね〜」
「はい、カップル向けのプライベートな空間を守ることを重視の設計だそうです。隣室の壁は勿論防音、共有の廊下も部屋の前はほとんど人が通らないレイアウトになっています。勿論客室の窓からの眺めもとても綺麗で...名前さんと一緒に見たいと思いこちらのホテルを予約したんです」
僕にそう言われてバルコニーで出て夜景を見てその美しさにうっとりとした表情を浮かべる彼女を後ろから抱きしめた
彼女が嬉しそうにこちらを振り返ったので再び彼女の唇を塞いだ。
「...テツヤ、今日もう5回目だよ...唇がちょっと変になってきちゃった...なんかしてなくてもずっと触れてる感触が残ってるんだけど」
「僕はそれでも足りません。...でも触れていなくとも貴方が僕の唇の感触をずっと感じているだなんて、最高な気分ですね...」
やめてと言っていたのに、僕がもう一度唇を近付けると彼女は自然と目を閉じた。
僕の全てを受け止めてくれる彼女は本当に愛しくて。
これ以上ないってくらい彼女のことを好きだと思っていたのに結婚して一緒に住み始めてからもその想いは日々更新されていく。
「お腹は空いてる筈なのになんだか胸がいっぱいだよ、テツヤのせいで」
「すみません...でもお料理も凄く美味しいそうです。きっと一口食べると一気にお腹が空いてくると思いますよ」
本当に僕の愛だけで彼女の空腹を満たせたらいいのに、なんて。
料理を楽しんだ後は一緒にお風呂に入って彼女を隅々まで洗って、彼女が日常を忘れられるくらい、僕のこと以外かんがえられなくなるくらい深く愛し合おう。
全身で僕の想いを彼女に、特別な夜になるように。
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