「よし、テツヤが起きる前に朝ごはんとお弁当作っちゃおう!」
引っ越しして荷解きをしてすぐに結婚式を挙げ新婚旅行に行って、その後の二日間はなんやかんやとバタバタしており今日からやっと日常へと戻る。
と言っても彼の強い希望で私は仕事を退職したのだけれど。
まぁあの彼の思考回路を考えればこうなることは分かっていたから。
暫くは家事に集中しつつ在宅で出来る仕事を探すつもりだ。
隣で眠る彼を見て自然と笑みが溢れた。
彼を起こさぬよう静かにベッドから抜け出しそーっと寝室のドアを開けてキッチンへ。
何を作ろうかと冷蔵庫を確認していると背後から声をかけられた。
「おはようございます、名前さん」
「うわぁっ!?て、テツヤ!?あ、あんなにぐっすりだったのにもう起きちゃったの?」
寝室とリビング、2枚のドアがあるというのにそれが開け閉めされたことにすら気付かなかった。
彼は変わらず気配を消すことが上手いらしい。
後ろからぎゅっと抱きしめられた。
それはいいんだけど胸触ってますよテツヤさん。
「1分前に温もりが消えて...反射的に目が覚めました」
その顔はしょんぼりと寂しそうで。
いくら静かに早起きしても彼の私センサーには引っかかってしまうらしい。
もう少し寝かせてあげたかったのに。
でも二度寝をしていいよと言ったところで素直に言う事を聞くとは思えないし聞いたとしても私を連れてベッドに戻りそうだ。
「私はご飯用意するから、近くにいていいから少しだけ離れててね、危ないから」
素直に頷いた彼を見て私も彼の扱いにだいぶ慣れてきたなと実感した。
「...じゃあたまご焼き焼いてその間にグリルで鮭焼いて、朝ごはんのお味噌汁と...豚で野菜を巻いてこれはレンチンで火を通して...野菜は昨日のお浸し入れてあとはタコさんウインナー入れて...こんなもんかな?」
簡単なものだけだけど、詰め終えたお弁当を彼に見せると彼は目を輝かせた。
「さすがは僕専属のシェフです!完璧なお弁当ですね!お昼が待ち遠しすぎます...!」
大袈裟すぎるくらい褒められた。
嬉しいけど少し申し訳なくなる、こんな普通のお弁当に。
明日からは夜のうちに下準備をしておいてもう少し華やかなお弁当が作れるようにしようとひっそりと決めた。
「取り敢えず朝ごはん食べよっか」
朝食はもっと簡単。
ご飯と半端な野菜を沢山入れたお味噌汁と目玉焼き、まぁ彼はわりと食が細い方だからこれで十分だと思う。
私も暫くは引きこもりだろうし朝からがっつり食べる必要もないし。
「名前さん...僕は幸せすぎて泣きそうです...」
「いやもう泣いてんじゃん。大袈裟すぎだよテツヤは」
何をするにしてもオーバーリアクションな彼に少し呆れながらもこれだけ私のすることなす事に喜んでくれる彼に愛しさは感じる。
本当に、自分が結婚したんだなぁって改めて実感した。
「そろそろ出る時間じゃない?」
「分かっています...でもあと30秒だけ...」
朝食を終え身支度を整えた彼は私を抱きしめ肩に顔を埋めた。
ピシッとスーツを着た姿はかっこいいのに取る行動は甘えん坊だ。
たった数時間の別れだというのにまるで数年の別れみたいな反応ではあると思うけど。
「帰ってきたらまたすぐこうして抱きしめてもいいですか?」
「勿論、おかえりなさいのちゅーもしてあげる」
「...いってらっしゃいのキスもしてくださいね」
彼はそう言って私の顔中にキスをした。
唇には何度も角度を変えて、こんなのいってらっしゃいのキスとは違うと思う。
「ほら、遅れちゃうから」
彼の胸を優しく押してそう言うと彼はやっと玄関へ向かった。
そんな彼の背中が少し寂しそうだった。
靴を履き玄関に降りた彼が再びこちらを振り向いたので肩に手を置き今度は私からキスをした。
勿論軽く触れるだけの、いってらっしゃいのキス。
「一日頑張ってきてね。冷凍庫にテツヤの好きなバニラアイスがあるから、夜お風呂から上がったら一緒に食べようね」
「はい、定時きっかりで帰れるよう頑張りますから、だから僕の帰りを良い子で待っていてくださいね」
彼の方からももう一度キスをして、家を出て行った彼を見送った。
こういうやりとりって時を重ねるごとにやらなくなっていくというけれど彼は変わらなさそうだとなんとなく思った。
というか変わらないでほしい、と。
さすがにここまで愛情を注がれてその彼の態度が変わってしまったら普通に寂しいし、今更元の生活になんて戻れないと思う。
そのくらい私は彼の重すぎる愛に慣れてしまったのだから。
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