君の頭のてっぺんから爪先まで

「はい名前さん。頭、流しますね」

優しく頭を撫でるように彼女の髪を洗う。
彼女は気持ちよさそうな顔をして言葉を紡ぐ。

「ほんとに上手だね。テツヤに洗って乾かしてもらうとなんかいつもよりサラサラになるし、美容院にトリートメントしに行かなくてもいいかも」

「当然です。名前さんの髪に触れるときは、細心の注意を払っていますしこの為に沢山勉強しておきましたから!」

彼女に褒められたことが嬉しくて少し得意げになってしまったかもしれない。
続けて髪と同様に丁寧に身体も丁寧に洗っていく。
首筋から肩、背中、胸からお腹、太腿から膝、足の指まで、時間をかけて優しく丁寧に。
言い方を変えれば執念深く。

「...本当に全部綺麗ですね。何度見ても触れても飽きません」

「も〜、お風呂でそんなにじっと見つめないでってば」

彼女は少し恥ずかしそうに身体を縮こませて身体を隠した。
そんな反応も全てが愛おしい。
僕は思わず無防備な背中に唇を寄せてしまう。

「...目を閉じたら、有さんの肌の記憶が薄れる気がして...」

「テツヤの頭の中は私でいっぱいなんだからそんなに簡単に忘れたりしないから大丈夫だよ」

ああもう本当に、彼女程僕を理解してくれている人はいないと思う。
心の底から彼女を愛している。









「今日の晩御飯はハンバーグだよ。副菜はちょっと簡単なやつだけど...」

「ありがとうございます、いただきます。...ん、やっぱり美味しいです、最高です。...本当に、本当に名前さんが作るご飯が一番です」

彼女は照れくさそうな表情を浮かべる。

「ありがとう、でももうちょっと感想にバリエーションあってもいいんじゃない?」

「いえ、これ以上の表現は存在しません。名前さんが作ってくれたものを評定するような言葉を使うのは逆に失礼です」

彼女は呆れたように笑ってハンバーグを食べた。

「...私よりもご飯に集中してね」

「でも食事中の名前さんも見逃さなくないもので」

これから毎日見れるよ、と言って彼女は柔らかく微笑んだ。






その後二人でアイスを食べて、ソファーに二人並んで座ってゆったりと今日一日の話をして歯を磨いて一緒にベッドに入った。
僕はすぐに腕を伸ばして彼女をぎゅっと抱き寄せた。

「...名前さん」

「なに?」

愛しさを込めて彼女の名前を呼べば彼女もまた優しい声色で返事をしてくれた。

「今日も綺麗でした。朝も、昼も、夜も...いついかなる時も貴方が愛おしいです」

「もー、そんな言われたら眠れなくなるから寝る前はやめて」

彼女はそう言って僕の胸に顔を埋めてしまった。
可愛い顔が見えなくなってしまったのは寂しいけどこれはこれで嬉しい。

「すみません、でも僕のせいで眠れなくなるのは少し嬉しいかもしれないです。大丈夫です、きちんと寝かしつけてあげますから、だから眠りに落ちる瞬間まで僕のことを考えていてください」

彼女の頭にキスをすればふわりとシャンプーのいい香りがした。
僕も今は同じものを使っているのだけれど彼女から香るそれは僕自身とは違うものに感じる。

「おやすみなさいのキスをしてもいいですか?」

「...いいけどちょっとだけね」

彼女は顔を上げ目を閉じた。
額に、頬、まぶた、鼻、そして唇に。
まるで儀式のように、ひとつひとつ優しくキスを落
とした。

「名前さんがこうして隣にいてくれる夜がずっと続きますように。...世界が終わるとしてもこの瞬間だけは繰り返したいです」

「終わっちゃったら繰り返せないから滅亡しないといいね」

ついつい重い感情をぶつけてしまう僕に彼女は軽い返事をした。
彼女のおかげでバランスが取れているのだと思う。
もっとも同じくらいの感情をぶつけ合って二人で沈んでしまうのも悪くないのだけれど。

「テツヤはちょっと変だけどそういうところも面白くて好きだよ。はい、おやすみなさいのちゅーもすんだし寝ようね。おやすみテツヤ」

「ありがとうございます。僕も名前さんのことが大好きです。...おやすみなさい...」

彼女はいつも通りあっという間に眠ってしまった。
それを見届け僕も目を閉じた。
明日目を覚ませばまた彼女に会える。
それが分かっているからだろうか、彼女と暮らし始めてから僕は寝付きがよくなったと思う。


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