「...なんか、寒い...もしかしたら熱あるかも...?」
「名前さん!?すぐ布団に入ってください、今すぐに!」
一人言を漏らせばソファーで隣に座っていた彼がそう言って慌てて私をベッドへと運んだ。
体温計、冷えピタ、ミネラルウォーター、毛布が秒速で用意されていく。
「あの、大丈夫だよ...それほど熱も高くないし多分ただの風邪だと思うし...」
「ただの風邪、などと済ませてはいけません。風邪だって拗らせれば命を奪うことすらあるんです。ましてや貴方は僕にとって何よりも大切な人なんです。だからやりすぎ、なんてことはありません」
その目は真剣そのもので。
思い詰めすぎて涙ぐんでしまっている。
「ゆっくりとしていてください。他の準備もしてきますから...」
彼は私の頭を優しく撫でて寝室を出て行った。
物心ついてから風邪くらいでこんなに過保護にされたことなんてなかった。
ありがたいけれどなんだかくすぐったい。
「こちらをどうぞ。レモン入りの白湯です。本来は予防の為のものですが...身体を暖めてくれますし喉にもいいそうですから。少し声が枯れている気がしますので...」
「ありがとう、テツヤ」
確かに喉に少し違和感はある、のだけれど。
私自身が支障が出るほどではないと思う程度なのに。
こんな小さな変化にまで気付くなんて。
「乾燥機も持って来ました。何かあった時すぐに対応出来るよう枕元にいますから、安心して眠ってください」
看病というより警備では?と思いながらも彼の気持ちはありがたいので何も言わずに頷いた。
やっぱり過保護すぎる、でもそれも彼が私を好きだという証拠。
その幸福感に包まれてこのまま眠ろうとしたその瞬間。
パシャリ、と音が鳴った。
考えるまでもない、聞き慣れた後だ。
「...なんで撮ったの?」
「っ、す、すみません!」
まぁこれもいつものことだから別に怒って責めたわけではないのだけれど。
そんなの彼だって分かっているだろうにどうしてそんなに辛そうな顔をしたのだろう。
「...僕は最低です。こんな、こんなに苦しそうな名前さんの姿を見て...なのに綺麗だと感じてしまって...記録しなきゃって...頬が火照り汗で前髪が張り付いて...とどめの潤んだ目を見るともう...本当に僕はどうかしてますね...」
そう言って頭を抱えた彼の姿を見て少し笑ってしまった。
「テツヤ、そこまで自己嫌悪しなくても...テツヤがどうかしてるのなんて今に始まったことじゃないでしょ?それに風邪ひいて化粧もせずに汗をかいた顔まで可愛いって思ってくれるのはありがたいよ」
「名前さん...っ!」
彼は目を潤ませて私に抱き付いた。
苦しいというより風邪を移してしまいそうだから今はあまりこういうことはして欲しくないけれどでもそれを言ってしまえば彼は不必要に傷付くと分かっているからそれを伝えることは出来ない。
「...撮る時は一言声をかけてね?元気になったらいくらでも撮っていいから...あと二人でも沢山撮ろうね...」
「はい...しっかり休んで早くよくなってくださいね...」
私の手をぎゅっと握りその手にキスをした。
早く良くなりますようにって祈るみたいに。
「名前さん...どうか、どうか早く良くなりますように。...貴方は僕の命より大切な人ですから」
眠りにつく瞬間彼がそう囁いたのを、私はちゃんと聞いていたよ。
早く治して元気になるから、だから心配しないでね。
自分の為ではなく誰かの為に元気になりたいだなんて今まで思ったことは無かったと思う。
もしかしたら貴方と出会っていなければ、貴方に愛されていなければ一生感じることもなかったかもしれない。
「(ありがとう)」
もう一度目を覚ました後も彼の献身的な看病のおかげで風邪は2日で完治した。
沢山心配させてしまったけれど彼に風邪が移らなかったことは幸いだ。
彼は私の体内に入り込んだウィルスなら喜んで引き取るのに、って少し残念そうにしていたけれど。
その言葉は聞かなかったことにした。
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