全身で彼女と愛し合ったあと、僕の腕の中で安心しきった表情の彼女がどうしようもなく愛しくて。
幸福感に満ちている筈なのに、それでもなお心の隅に存在する不安。
「名前さんと僕の間にある全てを取り払えたらいいのに...」
彼女の顔にかかる髪を指で耳にかけて、そんなことを呟けば彼女は僕の目を見つめた。
「全て、って?」
「物理的な距離とか、服とか、...肉体そのもの、とか...」
「待って待って、なんか怖いよ!」
彼女はそう言って怯えた目で僕を見たけれどそれでも距離を取ろうとはしなかった。
そういうところもまた愛しい。
そんな彼女だからこそ...
「完全に一つになりたいんですよ、貴方と...」
彼女が苦しむ時も幸福を感じる時も全てを共有して、彼女の心臓が鼓動を刻むのを終える時僕も同時に終わりを迎える、そんな風に生きられたら。
「結婚もしたのに?」
「...法律的に一つになれたとはいえ、物理的には二人のままですから...」
「ま、まぁそりゃあそうかも、だけど...」
「一緒に暮らし同じベッドで眠り毎日一緒にご飯を食べて、...それでも僕は貴方と隔てられていると、そう感じる瞬間があるんです...」
「...相変わらず愛が重いってことは伝わったよ」
彼女はそう言って僕を抱き締めて頭を撫でてくれた。
慰める、というよりあやされている感じ。
でも彼女にされるのであれば不思議と不快感はない。
「いっそ僕が名前さんから生まれたかったです...」
「は?」
彼女はわけがわからないといった顔で僕を見た。
こればっかりは仕方ないと思う。
僕だって絶対に無理なことを言っていると自覚しているのだから。
それでも。
「名前さんのお腹の中で、十月十日守られて...そして名前さんの手でこの世界に迎えられたら、その後貴方と切り離された後も貴方との絶対的な繋がりを永遠に感じて生きていけると思うんです...」
「いやほんと重いね、母親になってほしかったってこと?」
「そうかもしれないけれどそうじゃないです。だって名前さんは僕の妻ですから...」
そう、僕は一人の女性として彼女を愛しているのだから。
自分でも自分が何を考え何を言いたいのかがよく分からない。
「...テツヤも自分の思考整理が出来てないんだね?」
「はい...すみません...」
彼女はそんな僕の心をよく理解してくれている。
「ねぇテツヤ、完全に一つは無理だけど二人で一つじゃ駄目?私結婚ってそういうことじゃないかって思ってるんだけど」
「二人で、一つ...」
「うん、それで十分幸せだと思うな」
彼女の笑顔に嘘はない。
きっと心からそう思ってくれている。
僕とは全然違う、ずっと綺麗なまま。
そんな彼女にもまた距離を感じてしまう。
「わかりました。名前さんがそう言うのであれば...でもそれなら...もっと近い二人になりたいって...そう望んでもいいですか?」
でも僕を突き放したりしない彼女だからこそ。
「...貴方と何も隔てずに、繋がりたい。...そう望んでも構いませんか?」
逃げられないように覆い被さって、彼女の頬を両手で包んで、額をくっつけた。
聞いておいて拒む事を許さない、そんな視線を彼女に浴びせて。
「怖い顔」
彼女はそんな僕を見て笑って頬をつねった。
全然痛くない、優しくつままれただけ。
「...テツヤを産んであげることは出来ないけど、でもテツヤの子供だったら産めるよ。...ていうか誰かの子供を産むのだとしたらそれはテツヤがいいかな」
彼女はゆっくりと目を閉じた。
それに誘われるように僕は彼女の唇に自身の唇を押し当てた。
「ちょっと変なところも頑固で我儘なところもひっくるめて愛してるよ、テツヤ...」
もう泣いてしまいそうだ。
僕ってこんなにも涙脆かったんだろうか。
彼女の前では心のコントロールがまるで出来ない。
「僕も、僕も貴方の全てを愛しています、名前さん...」
貴方とより深い絆で結ばれた家族になりたい。
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