妊娠が現実のものとなっていくことを日々実感していく日々の中、彼は不安定なバランスの上で日々を生きていた。
「...お腹、触ってもいいですか?」
「もちろん!どーぞ!」
彼が私のお腹に優しく触れた。
私には既に胎動を感じているのだけれど、彼がそれを感じられるようになるにはもう少し時間がかかるらしい。
早くその時が来ればいいのだけれど、こればっかりは焦っても仕方がないことだからあまり考えないようにしないと。
「えっ、ど、どうしたの?」
彼の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
もしかしてもう彼もこの子が動いたのを感じられたのだろうか?
「す、すみません...感触が以前とは違うことにここに確かに僕たちの子供がいるんだなって...それを実感したらつい...」
まぁ確かに少しお腹は出てきたけれど。
それだけでこんな風になってしまうなら実際にこの子が生まれる時はどうなってしまうのだろう。
「かっこよくて優しいパパが待ってるから元気に生まれてきてね〜」
お腹の中の子供にそう言ってお腹を撫でた。
するとそれを見ていた彼が目の前で膝をついた。
「えっ、なに、どうしたの?」
「だって...パパが待ってる、って...それ名前さんが、赤ちゃんに言った言葉で...
僕が待ってる存在になってしまって...有さんの愛が.....一瞬、僕以外に向いてた気がして...!!」
「...ごめん、ちょっと何言ってるのか分からないんだけど取り敢えず嫉妬したんだね?生まれる前から嫉妬しないでね」
彼の言ってることはいまいちよく分からないけれど多分そういうことだろう、と。
彼の頭を撫でてあげるとその手を取られ顔に擦り付けられた。
本当に生まれる前からこれで彼は大丈夫なのだろうか。
「君がここに存在する前から僕はママのことが本当に大好きだったんです...」
夜ベッドに入ってから彼は私のお腹をさすりながらそう話しかける。
ほんとにね、パパ程私を好きになってくれた人はいないんだよ。
比べるのもおかしい気はするけれど多分私の実の親よりも。
「僕だけのものって...そう思っていました。でも君は僕の遺伝子を引き継ぎそんな大好きなママから生まれてくる...君は僕とママにとって最愛の共有物...そんな君だから僕は君を受け入れます」
「いや言い方!」
彼の思考回路は本当に独特だ。
そして普通に怖い。
「...ただし君が大きくなって、僕からママを奪う勢いでママに甘えすぎたり、ママのことを可愛いとか結婚したいだとか言ったら...」
「言ったら......?」
なにやら不穏な空気になってきた。
一体なにを...と恐怖心を抱き恐る恐る聞き返した。
「...僕が君の立場を思い知らせる予定です」
「こわっ!!子供相手に怖いよ!!」
彼の目がぎらりと獣のような光を放った気がする。
思い知らせるって一体何を言うつもりなんだろう。
生まれてくる子の性別が男の子だと判明してからこういうことを度々言うようになった気がする。
正直自分の子にママと結婚する!なんて言われたら嬉しくて仕方ないと思うんだけど。
もしそういうことを言われてもはしゃいだりしないように気をつけないといけないなと今から思い知らされた。
「でも知っているんです。この子が僕たちの間に出来た奇跡で...より名前さんの笑顔を引き出してくれる存在なのだということを...」
私を抱きしめて唇にキスをして、もう一度お腹を撫でた。
その手つきやっぱり優しくて、きっとお腹の中の子供にだってそれは伝わっている筈だと信じたい。
「だから...元気に生まれてきてください。でも、ママの隣は、パパの定位置ですから...それは譲れません...でも逆側は君になら特別に許可します」
異常な程強い独占欲を持つ彼にここまで言わせたのだからこの子は本当に凄い子だと思う。
お腹を撫でる彼の手に私の手を重ねると彼と目が合った。
自然と互いに笑みが溢れる。
「頼りにしてるからね、テツヤ」
「はい...貴方の夫として、父親として...精一杯頑張ります」
私たちはきっと良い家族になれると、そう信じている。
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