両親にもご報告に行きましょう

検査薬で陽性が出たあの日から数日後彼女が改めて病院に行って検査してもらったことで彼女の妊娠が確定した。
まさかこんなに早く僕と彼女の愛の結晶を授かることが出来るなんて、僕自身驚いていた。
というかそれが発覚するまではいつもと同じようにほぼ彼女と愛し合っていたのだけれど大丈夫だったのだろうかと不安になって調べてみたらそれ程問題は無かったようでホッと安堵のため息をついた。

まだ彼女の外見に変化はない。
普段と同じように家事をして、ご飯を食べて。
毎朝笑顔で僕を見送ってくれる。

「何かしてほしいことはありませんか?」

「うーん...あ、廊下の電気が最近たまにちらつくから新しい電球に替えてくれる?」

違う、そういうことじゃないと思いながらもわかりましたと返事をし、彼女から新しい電球を受け取り交換した。
勿論こういうことも全然するけれど僕が今彼女に言ったのはもっとわがまま、というか彼女自身が望むことはないかという話で。

「他にもっと、...なんでもいいです、何かして欲しい事ってありませんか?欲しいものがある、とか」

「えーなんだろ...あ、私が持ってきたフライパン最近こげつきやすくなってきたから買ってもいい?」

「...お好きなものを買ってください」

どうにも僕の気持ちは伝わらないようだ。
もっと何かしてあげたいのに、彼女は少し無欲すぎる。
仮に僕が同じことを彼女に聞かれたならいくらでも望みが出てくるのに。

「あ!あとね、私の親にもテツヤのお母さんお父さんにも出来れば直接ご報告しに行きたいかな」

彼女はそう言って自身のお腹を撫でた。
まだ誰にも妊娠の報告はしていない。
初期の段階では何が起こるか分からないから、ということもあって。
でもそろそろ両親にも、とは僕も考えていた。

「はい、暫く会っていませんし...今度の休みに会いに行きましょうか。連絡を入れておきます」

「うん!私も連絡しとくね!」

嬉しそうに笑っておじいちゃんおばあちゃんに挨拶に行こうねとお腹の子供に話しかけていた彼女はすっかり母親の顔になっていた。
ほんの少しだけ寂しい、だなんて考えた僕はまだまだ父親になれていない気がする。
いや、多分僕はこの子が生まれた後もその辺の考え方は変わらない気がするけれど。
でもどうか元気に...それだけは僕の心からの願いだ。








「思ってたより早かったわね。頑張んなさいよ!」

「私も役に立てたら嬉しいから...なにか困った事があったら遠慮なく声をかけてね?」

彼女のお母さんと僕の母が彼女に声をかけた。
僕達の両親への報告は両家揃っての食事会で、ということになった。
結婚の挨拶の時と同じように土日続けて家に帰ろうかと思っていたのだけれど両家揃って日曜日が都合が悪かったからだ。
別に翌週にしても良かったのだけれど報告したいことがあって、と言うとそういう提案を僕の母からされた。
多分その報告が何かということを両親は悟っていたんだと思う。

「テツヤ君、うちの娘とお腹の子をよろしく頼むね」

「しっかり名前さんの事を支えてあげなさい」

彼女のお父さんと僕の父からも激励を貰った。
僕達の間に子供が確かに出来たのだという実感がより強いものになった気がする。

「それにしても...良かった...テツヤが見限られたりしなくて...」

「警察沙汰...訴えられても不思議ではありませんでしたからね...」

僕の母と父が何やら不穏な話をボソボソと話し始めた。
僕ほど彼女を愛している人はいないというのに、いくら親だからといっても失礼だと思う。

「これ美味しいよ、テツヤ」

少しムッとしたけれど僕の隣で美味しそうに食事を楽しむ彼女を見てすぐにその苛立ちは消し飛んだ。
可愛い、殆ど無意識でスマホのカメラを起動してお肉を頬張る彼女の写真を撮った。
するとすかさず父に行儀が悪いと注意を受けてしまった。
分かってはいるんです、でも彼女の事はいつ何時も最優先事項なので、そこでブレーキはかけられないんですよね。
でもまぁこの歳にもなってそんな事を親に注意されるのはさすがに恥ずかしいので両親の前では控えようと思った。

「テツヤ君って本当に名前のこと好きでいてくれているのね」

彼女のお母さんからの言葉に即同意した。

「はい、僕の生きる理由と言っても過言ではありません。お義母さんとお義父さんが名前さんをこの世に誕生させて、育ててくれたおかげです。お二人には心から感謝しています」

立ち上がり深々と彼女の両親に頭をさげお礼を言うと隣に座る彼女は相変わらず重いねと言って笑っていた。
彼女の両親は恐縮して、僕の両親はなぜか顔を青ざめていた。
結婚報告の後彼女の両親には絶対に部屋一面に貼っている写真の事はバレないようにしなさいと両親に言われていた。
多分僕の両親は僕が彼女のストーカーだと思っているんだと思う。
僕は確かに彼女の事が好きすぎて行動力があったけれどそんなんじゃないのに。
怖がらせようなんて思った事はない。
まぁ堪えきれず監禁したい...と一度は言ってしまったけれど。
全てを知っている彼女にも重いとは言われてもストーカーだなんて言われたことは無いし。

でもまぁ両親への報告の食事会も無事終える事が出来たから良しとしよう。




「私の親にもテツヤのお父さんお母さんにもバレてたんだね」

「そうですね。まぁ結婚してからの改めて挨拶となれば...想像に容易いことなのかもしれませんね」

彼女は二つのお守りを手に柔らかな表情を浮かべる。
彼女のお母さんも僕の母もそれぞれ安産のお守りを用意しておいてくれたようで二人揃って渡された。

「初めてテツヤのご両親に会う時はちょっと緊張したけど心配したり応援してくれる人が増えるって心強いんだね」

「はい。...でも貴方が一番に頼るのは僕であってほしいです。沢山甘えてほしいです」

だから沢山わがままを言ってください、と言うと彼女は笑う。

「じゃあ今日脹ら脛マッサージしてほしいな!ちょっと浮腫んじゃったから」

「はい、勿論。脹ら脛と言わず全身マッサージしてあげますよ」

貴方は僕の生きる理由だから。
僕を生かす為にも、お願いしますね。


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