それは私を侵蝕していく

「ねえ、名前ちゃん。今日、うちに来て?」

学校からの帰り道、彼女と別れる地点で立ち止まった彼女は唐突にそう言った。
彼女私の腕に自身の腕を絡め、いつものと同じ、愛想の良い笑顔を浮かべ。
だけど今日はその目はいつもと少し違って見えた。
冗談でも、軽いお誘いなんかじゃない。
その視線には確かな熱が篭っていて、その熱を浴びた私の背筋がぞくりとした。

「...また急に。何かあったの?」

「別にー?強いて言えば我慢の限界、かな」

「...え?」

彼女は笑顔を浮かべたまま絡めていた腕を解き私の手を握った。

「名前ちゃんが鈍すぎるから、だからもう押すしかないかな、って」

鈍いだなんて、そんなの。
だって彼女はいつだって明るくて、みんなに優しくて。
私だけが特別なんかじゃないって、そう思っておかなければ自分が傷付いてしまうって。
怖くて踏み込まないようにしてきたのに。

何も言えずにただ首を縦に振れば彼女は私の手を引き自宅へと連れ帰った。
期待してしまってもいいのだろうか。
報われるのだと、彼女も同じなのだと。






「名前ちゃん、ソファーじゃなくてこっち来て。隣、空けてるんだから」

言われるままにベッドに腰をかける彼女の隣に座るとすぐに身体を寄せてきた。
距離が近すぎる、そのせいで肩が触れ合って息が詰まりそうだ。

「...あの、さつきちゃん」

「なに?」

彼女の目が少し怖い、でも。

「ちょっと...近い、かも...」

「近付きたいんだもん。...だめ?」

甘えた声で囁かれて心臓が跳ねた。

「さつきちゃんは...こういうの...もしかしてみんなにしてるの?」

こんな、まるで誘うみたいなこと。

「名前ちゃん以外にこんなこと、してない」

それは真っ直ぐな声だった。
けして冗談などではない、本気の、熱が込められた言葉。
彼女はそのまま私を抱きしめた。
女の子らしい、柔らかくて、あたたかくて、いい匂いがして、その全てに息を呑んだ。

「ずっと、こうしたかった。触れて、抱きしめて、キスしたくて、...本当は分かってたんでしょう?名前ちゃんずるいよ。気づかないふりばっかりして」

頬を撫でられて、彼女の唇が触れた。
そのまま当たり前のように彼女の舌が私の口内に入り込んで、甘い、熱を帯びたキスに身体が震える。

「...つ、さつき、ちゃん...」

「名前ちゃん、ちゃんと私を見て...私は本気だよ」

そのまま押し倒された。
私に覆い被さった彼女の髪がふわりと舞って頬に触れた。

「怖いならやめる。でも...でも私は触れたい...触れてもいい?」

「...うん」

たった一言。でも、それだけで彼女の表情がほどけた。

「大好きだよ。ずっとずっと名前ちゃんだけ、特別だった」

彼女の唇が首筋をなぞり、細くて綺麗な指がゆっくりと私の服の裾に触れた。
戸惑いながらも拒めない。
こんなふうに求められたことなんて初めてだったから。

「今夜は離さないから、覚悟してね?」

彼女の声は本当に甘くて、優しくて、でもやっぱり熱を含んでいて。
たくさんのキス、触れる優しい手。
触れる肌から鼓動が重なり合って。
すべてが交わって深い夜に溶けていく。

このまま永遠に彼女の腕の中にいたいと、そう願ってしまうのは、もう私が完全に彼女の虜になってしまっているということの現れだろう。


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