貴方に染まってしまいたい

「おはよ、名前ちゃん!」

いつも通りの明るい声。
教室のドアを開けた瞬間、彼女は私を見つめまっすぐに駆け寄ってくる。
まるで昨日のことなんて何もなかったかのように無邪気な笑顔で、あまりにも自然に。
...でも。

「髪、ちゃんと直してきた?寝癖、残ってない?」

昨日はあのまま...翌朝逃げるように一旦家に帰った。
ほんの2時間前まで彼女とベッドにいた。

「えっ、う、うん...大丈夫、だと思うけど...」

「そっか。念のため...ん...大丈夫だね、いつもと変わらない、可愛い」

そう言って、私の髪に手を伸ばす。
指先が額に触れて、つい体がビクリと反応してしまった。
昨日の夜この手にどれだけ触れられたかということを思い出す。

「......つ」

顔が熱い、なのに彼女は平然とした態度で微笑んだまま私に触れ続けている。

「今日の授業眠くなるの多いからちょっとしんどいよね。...放課後、また一緒に帰る、よね?」

耳元で囁くような声に、肩がびくりと揺れる。
誰にも聞こえないような小声で、その声の甘さに昨日の彼女が脳裏に蘇る。

「さつきちゃん、ちょっと...いつもより、近い...」

「そお?名前ちゃんが可愛すぎて我慢できなくなってるのかもね」

さらりとそんなことを言う。
昨日と同じトーンで。
それがたまらなく心臓に悪い。
周りの子たちはいつも通りだと思われている。
元々一番仲が良い友達だったから、だから好奇の視線なんて向けられたりはしない。
誰も、彼女が私だけにこんなに甘い言葉を囁いていることきなんて気付かない。

「ねえ、今日のリップなんか違うなって思ってたんだけど違うんだね。昨日いっぱいキスしたから腫れちゃってるんだね。市販のリップを塗るよりずっと可愛いよ」

「っ...!」

今自分が耳まで赤くなっているのが分かる。
顔だけじゃない、身体全身が熱を持っている。
昨日あれだけシた後だというのに、まるでまだ足りない、もっと触れてほしいと望んでいるみたいに。

「さ、さつきちゃん....!」

思わず小声で抗議すると彼女は再びくすりと笑って、私の手を机の下でそっと握った。

「今の私は名前ちゃんの一番の友達のさつきちゃん、だよ。名前ちゃんが変な風に見られたりするのを望んでないから」

指先を絡めて、指と指の間を掠っただけでも今の私には刺激が強くて身体がぴくりと反応してしまう。

「でもね、私にとって名前ちゃんは、どこにいてもいつだって特別だから。...それだけは忘れないでね?」

目が合った瞬間、胸が、心がじんと熱くなった。
昨日の夜、何度も交わした「好き」の言葉が頭の中を埋め尽くす。
それが今もちゃんとここにあるんだって、そう感じさせてくれる彼女の笑み。
周りの目を気にしながらも見えないように繋がれた手を握り返すと彼女は嬉しそうに目を細める。

「放課後が待ち遠しいね、名前ちゃん。部活が終わったら飛んでくるからね。良い子で待っていてね」

その顔は小悪魔みたいで、私はどんどん彼女に心を奪われていく。
彼女は何も変わらないのに、私だけが全部変わっていくみたいに、塗り替えられていくみたいに。
それでもいいと、彼女の隣にいられるなら私が私でなくなってしまったって構わない、と。

「...早く来て...ね...」

寧ろ全て彼女の色に染まりたいと願ってしまう私はもう本当に駄目なのだと思う。
もっともっと、私を好きになって。
私を彼女無しでは生きられないようになりたいと、そんなことを本気で望んでしまう。


next