「名前ちゃん、今週の土曜デートしよっか」
放課後、人気のない廊下。
窓から差し込む夕陽の中でさっきちゃんは当たり前みたいにそう言った。
「え、えっと...お昼から夕方までバイトあるけど、夕方からでよければ...」
「じゃあ、それまでは私がもらっていい?」
「え?なにを...?」
「名前ちゃんの時間。朝からお昼も、夕方から夜にかけても、私が全部独占したいの」
なんでもないことみたいな軽い口調。
でもそれが冗談で言っているのではないということは分かっている。
そうなれば朝寝坊も出来ない。
でも抗う気にもなれなくて素直に頷くと彼女は嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
可愛い、恋をしている女の子って感じの笑顔。
でもその直後、彼女を纏っていた空気が変わる。
「名前ちゃん、携帯貸して?」
「え?」
「ちょっとだけ。設定いじるから」
彼女は私の制服のポケットから携帯を取り上げなにやら操作し始めた。
「..メールの通知、私のだけ特別にしておいたから...これで私からのメールはすぐに分かるでしょ?」
「え、あ...うん...?」
「ついでに私とスケジュールを共有出来るwebカレンダーも登録と設定しておいたから。これでいつでも名前ちゃんが予定を確認出来るから、なにかある時は入力しておいてね?」
「...そこまで、するの...?」
「うん、だって名前ちゃんはもう私の、なんだから」
無邪気な笑顔、そこにまったく悪びれた様子はない。
「...さつきちゃん、...ちょっと...行き過ぎじゃ、ない?」
「あはは、自覚はあるよ。でも、もう止まれないの」
「......」
怖い、でも...
「だって、名前ちゃんが誰かと仲良くしてると、胸が苦しくなるの。嫉妬とか、そんなレベルじゃなくて息ができないくらい苦しくなっちゃうの」
その言葉に背中がぞくりと冷たくなる。
けれど同時に、胸の奥がほんのりと温かくなるのも感じてしまった。
「だから、囲わせて?名前ちゃんを。私だけの場所に閉じ込めさせて?」
そう縋るように囁きながら彼女は私の指に自分の指を絡めた。
「バイトの後寄り道しないでまっすぐ私のところ来て?学校でもお昼も他の友達と食べるより私と食べて?電話も毎晩して?メールの返事、来なかったら泣いちゃうから」
「...さつきちゃん...」
「大好き。自分が分からなくなっちゃうくらい、名前ちゃんのことが大好き」
その目はとても真剣で、怖いくらい真っ直ぐで。
けれどその中に私だけが知ってる優しさが確かにあった。
それに気付いているから、戸惑いながらも私は頷いた。
「...いいよ。少しずつでいいなら囲まれてあげる...」
「ほんと?」
パァっと顔を輝かせて、彼女は私にキスを落とした。廊下の角、誰にも見えない場所で。
「嬉しい。じゃあこれで今日から本格的に始めるね」
「えっ、まだ始まってなかったの...?」
「うん、今までのは下ごしらえだから。これからは本番だから...覚悟しておいて、ね?」
彼女の腕が私の腰に絡む。
密着する距離に心臓が跳ねる。
でももう逃げない...いや、もう逃げられない。
これが彼女の本気だっていうなら受け入れる。
強引で、少し怖くて、でもそのすべてが私を想ってのことだと分かっているから。
それに私は彼女の囲い、私にとってその檻の中にいるのが案外心地が良いということを知っているから。
その檻を開ける為の鍵なんて消えてなくなってしまえばいい、そう望んでいる。
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