仕事が忙しくてここ暫くの間まともに顔を合わせる時間もなかった。
休日出勤も続いていたせいもある。
同じ家に住んでいるのに連日の激務により疲労が蓄積されていき会話も「行ってきます」や「おかえり」など挨拶程度。
でもようやく明日は二人とも休みが取れた。
これでやっと溜まりに溜まった寂しさを埋められる、そう思っていたのだけれど。
「...テツヤ君、もう寝ちゃいそうだね」
晩ごはんを食べながら、ゆらりゆらりと舟を遭いでいる彼。
スプーンを持ったまま、今にも倒れてしまいそうになっていた。
私は立ちあがり彼の隣に向かう。
「もう...仕方ないね。危ないからベッド行こ?」
彼の手からそっとスプーンを取り上げ肩を組んだ彼をベッドへと誘導した。
彼はうとうとしながらもなんとか足を動かし、ベッドに横たわった。
そしてすぐに目を閉じて寝息を立て始めた。
「...おやすみ、テツヤ君」
小さく囁いて私は静かに寝室を出た。
彼のご飯にラップを掛けて冷蔵庫にしまい自身の食事を済ませた。
食器をシンクに持っていき水を張る。
洗うのはもう明日にしようと決めてお風呂でゆっくりシャワーを浴びた。
それだけでも一日の疲れが少し落とせた気がする。
体がぽかぽかと温まって私も眠気を自覚した。
バスタオルで髪を拭きながら寝室に赴き中の様子を覗くと彼は先程と同じ姿勢のまま、穏やかな寝息を立てていた。
今はドライヤーで髪を乾かす気力も無い。
彼の寝顔に誘われるように布団の端を持ち上げて静かにベッドに入った。
ベッドのスプリングが少しだけ沈んだけれど、彼が起きる気配はない。
それほど疲れてたんだろう。
食事しながら眠ってしまうくらいだから無理もない。
だけど...
「(...やっと触れられると思ってたのに...)」
目頭がじわりと熱くなった。
ずっと我慢していた。
話すことも、触れ合うことも、全部。
そっと彼の柔らかな髪に指を通す。
頬に触れ、肩をなぞる。
久しぶりに触れる彼の体温が心地よくて愛しくて堪らなかった。
こんなに触れているというのに彼はまだ眠ったまま。
私はつい彼のシャツの裾に指をかけてしまう。
そのままゆっくりと布の下に手を潜り込ませていく。
あたたかくて、すべすべとしたお腹の感触に思わず息を飲んだ。
「(...やっぱり、全然違う)」
私の身体とは違う、骨ばっていて、筋がしっかりと浮かぶ男の人の体だ。
触れれば触れるほど、その違いにぞくぞくとした感覚が全身を駆け巡る。
無意識に息が少し上ずった。
そっと、お腹から肋骨のあたりをなぞるように手を這わせていく。
そして、胸元に触れた瞬間。
「ん...」
小さく、彼の体が震えた。
ぴくりと跳ねるように、胸が揺れたのを確かに感じた。
慌ててその手を止めた。
おそるおそる顔を見て、彼はまだ眠ったままだったことに安堵のため息をついた。
呼吸は変わらず、深く、穏やかで。
「(起きて...ない、よね?)」
その微かな反応が、逆に火をつけた。
本来ならやめなければいけないのに。
こんなふうに敏感な彼の身体に私だけが触れていいのだという事実にじわじわと興奮してしまう。
指先で彼の胸を撫でながらゆっくりと円を描く。
時折軽く爪で引っかくように、その反応を確かめるように触れると彼の身体がまた微かにぴくりと跳ねた。
「(......もっと、触れたい)」
抑えられなかった。
彼の首筋へ、顎へと指を這わせてゆっくりと顔を寄せる。
唇が触れるか触れないかの距離で止めてじっと見つめた。
穏やかな寝顔。
でもこんなに近くにいるのに彼はまだ夢の中、私を見ていない。
「テツヤ君...」
吐息混じりに彼の名を呼んだ。
私の声は少し震えていた。
もっと感じたい、もっと彼に触れたい。
寝息だけが聞こえる暗い部屋で甘く静かに、彼を求める欲求だけが部屋を満たしていく。
胸元を撫でていた手をゆっくりと下へと滑らせていく。
その手がおへその少し下あたりに触れたとき、指先が明らかな膨らみにあたった。
「...あ」
そこははっきりと主張していた。
布越しでもわかる程に硬く熱を帯びた彼のそれ。
こんなのはきっと寝ている間に起こるごく自然な生理現象だと、頭ではわかっているのにだけれど。
「(...それでも、こんなに...)」
触れてしまった私の指先のほうが熱を帯びていく錯覚をした。
静かな寝室で自分の心臓の音がやけに大きく響いている気がした。
久しぶりにしっかりと彼の身体を見て触れて、どうしようもなく昂ってしまう。
これは私を求めているわけじゃないと分かっていながらも、それでも、触れずにはいられなかった。
もう自分を抑えきれない。
「ごめんね、テツヤくん...」
そっと、彼の腰に跨がる。
体重をかけすぎないように、膝を着いて中腰で、しっかりと自分を支える。
そして服を着たままそっと彼のソコを自身の中心にあてがった。
「...んっ」
それだけで声が少し漏れてしまい私は慌てて口を塞いだ。彼の身体が、また小さく跳ねた。
目を開けることはなくても、確かに先程よりも確実に敏感に反応している。
それが嬉しくて私の中がどんどん熱を持っていく。
触れているだけで、じわじわと痺れるような快感が広がっていく。
動かしたい、でも怖い。
彼を起こしたくない、でももう止められない。
ほんのわずかに体重をかけた瞬間、彼の身体がまた大きくぴくりと跳ねて、そこで私の理性は限界を迎えていた。
「...ごめん、ね...」
謝ってすむ話ではないと思いながらも小さく呟いてた。
そして再び身体を起こし、自身のパジャマと下着に手をかけそっと脱いだ。
それがベッドの下に落ちた音は自身の鼓動にかき消されて聞こえなかった。
再び、彼の上に跨がる。
彼はまだ何も知らないまま眠っている。
この服を脱がせてしまったら、きっともう戻れなくなる気がして、それは、出来なかった。
「(でもこのままじゃ汚しちゃうのに、そんなこと...でも)」
どうしてももう止められなかった。
だってここにあるのは彼の匂いと体温、そして触れたときに生まれる確かな感触。
ずっと会えなかったぶん、重ねられなかったぶん、身体が彼を求めて止まらなかった。
「お願い...起きないで...」
願うようにつぶやいて、私はゆっくりとの熱くなったソレを彼のソコに擦りつけた。
優しく、静かに、彼の形を感じるように自分を重ねていく。
彼の顔は相変わらず穏やかなまま、なのにその身体はちゃんと熱を持って私を感じてくれていた。
布と肌が擦れる感触、自分の吐息が次第に熱を帯びていくのがわかる。
まるで夢を見ているような、そんな不思議な感覚。
でも確かに今彼はここにいて、私は彼の身体を借りて自身を慰めている。
罪悪感と快楽の間で揺れながらただひたすらに彼を求めた。
抑えきれない熱を纏って彼の身体にすがるように揺れて、何度もごめんなさいと心の中で繰り返して、それでも止まらなかった。
彼に触れている、それだけでもう頭が真っ白になるほどに昂っていた。
そして波のように押し寄せる感覚の中、私は眠る彼の上で達してしまった。
「...ん、ぁ...あ...」
声にならない吐息を溢し、肩を震わせながらそのまま暫く動けずにいた。
彼の身体はまだあたたかくて変わらず静かな寝息を立てていた。
「(...起きて、ない...)」
そのことにほっと胸を撫で下ろす。
まだ罪悪感が心を埋めていたけれど、今はただ彼の傍にいられることが嬉しかった。
そっと彼の上から降りて、身体を綺麗にして彼の端に横たわる。
まだ少し速い鼓動を感じながら瞼を閉じる。
「(...好きだよ、テツヤ君)」
また完全に静けさを取り戻した寝室で、目を閉じて心の中で彼に語りかけた。
そしてやがてやってきた睡魔に落ちていくように身を預けようとした、そのとき。
「......ずるい、です」
突然、温かな腕が私の身体をそっと引き寄せた。
「...え?」
驚いて目を開けると彼が私を真っ直ぐ見つめていた。あんなに眠たげだった彼の瞳は今は明らかにしっかりと意識を保ち熱を帯びていた。
「気付かないフリをしていましたけれど...」
囁くような声が耳元に落ちる、心臓の鼓動が煩い。
「そんなことをされて...僕が平気で眠っていられるわけ...ないじゃないですか...」
静かに、でも確かに熱を孕んだ声。
彼は私の手を取って自身の胸元に導くと、そこには私と同じ、早鐘のような鼓動があった。
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