僕だけの権利

「ぶっちゃけ名前のどこがそんなにいいわけ?結構抜けてるし地味じゃね?まぁ黒子にはお似合いかもしれないけど」

僕にそんな不快な軽口をきいたのは今年から同じクラスになった谷口君。
彼女とは去年も同じだったようでそれなりに話しているのを見かける人だ。
今年になって僕も彼女と同じクラスになったことで彼の名前を知った。
僕は殆ど話したことはない。
元々それほど積極的に教室で交流する方では無いから。

いや、正直なところ彼、谷口君とあまり話をしようと思わないのは他に特別な理由がある。
僕には彼の彼女への下心が見えているから。
あからさまに態度に出ているわけではないから彼女は気付いていないようだけれど。
僕がそれに気付けたのは僕が彼女の事を好きで好きで堪らないからだろう。
勿論、彼に負けないくらいに。
おそらく嫉妬から出た言葉だろう、でもそれは僕を苛立たせた。
当然だろう、最愛の人も貶されたも同然なのだから。

「...僕は彼女の事を誰よりもよく知っています」

薄笑いを浮かべて、今の僕は嫌な顔をしているでしょうね。

「彼女が地味、ですか。抜けている...まぁそうですね、朝起きたばかりの時の寝ぼけた彼女少し抜けているかもしれません。僕が話しかけてもあまり聞こえていないようでなかなか動くことも出来ません。まだ起きたくないって僕の胸に甘えてくる彼女はおっとりとしていてとても可愛らしいです」

「...っ」

ああ、その顔、やっぱり本心ではなかったんでしょうね。
分かっています、だって彼女は凄く魅力的な女性ですからね。

「僕の為に食事を作ってくれて味見をして少し想定と違う味になって少し眉を下げて笑う、谷口君からしたら抜けた地味な女性だと思いますか?僕は凄く可愛いって思ってます」

僕から目を逸らして忌々しい表情で床を見て、惨めだと思っているんだろうか。

「『可愛い』って言うとすぐ照れて誤魔化したりするのに服の裾を引っ張ってキスをねだったりするんです。本当に可愛い人だと思います」

彼女の話をしている今の僕の表情はとても穏やかな顔をしていると思う。

けれどその言葉のひとつひとつがナイフのように鋭くなって彼を傷付けていることは自覚している。

「朝起きてぼーっとしてなかなか動けない彼女の寝癖を直してあげる時間は僕にとって幸福な時間です」

「ついさっきまで寝ぼけていたのに少しして頭が起きてくると僕の好みの朝食を用意してくれる彼女はとても家庭的で素敵だと思います。まぁ谷口君にとってはそれも地味なのかもしれませんが」

「でも僕にとってはそんな彼女が僕のことを大好きって言ってくれることが本当に嬉しくて。...それがどれだけ幸せか...君にはわからないでしょうね」

「だって君は、あの子のどこがいいのか、なんて聞いてきたくらいなのだから」 

彼が僕の言葉に顔を引きつらせて沈黙する中、それを気に留めることもせずに彼女の姿を思い浮かべ慈しむように言葉を続ける。

「彼女は...名前さんは僕の人生そのものです。誰が何と言おうと僕にとっては世界で一番好きな人ですから」

未だ何も発しない彼のすぐ近くの机に彼女の写真を表示した携帯を置いた。

「素敵な表情をされているでしょう?僕が撮ったんです。彼女、僕にではこんな顔するんです」

本当は見せたくなんてなかったけれど。
これは牽制みたいなもの。
今の僕はどんな顔で笑っているのでしょうか、ね。











「...名前さん、僕って性格悪いと思いますか?」

彼女を抱きしめてその肩に顔を伏せる。
人から見ればその姿は子供が甘えているように見えるんだろうなと思う。
先程まで彼の前であんなに冷静で隙を見せなかったのに。
いや、あれを冷静とはいえないのかもしれないけれど。

「まぁちょっと?」

僕の頭を優しく撫でながら彼女は緩い笑みを浮かべそれを肯定した。

「やっぱりそう思いますよね。...でも許してほしいです。あんな風に言われて黙っていられる程大人じゃないんです、僕...」

「貴方のこと、見下された気がして......悔しくて」

僕には例えそれが嫉妬心によるものだったとしても好きな人を下げるような発言をするということを理解出来ない、したくない。
寧ろ僕以外に彼女の事を好きな男性がいるという事実なんて受け入れたくないけれど。

「僕のことをどう思われてもいいです。でも、名前さんのことを馬鹿にされたら、僕はもう冷静ではいられません」

そんなことを言いながらも僕の汚い嫉妬心は隠して、そして彼女の中で彼への評価が下がるようなことをわぞわざ言って。
本当にいつから僕はこんな風になってしまったんでしょうね。

「私はそんなテツヤ君も好きだよ」 

僕がこんなことを考えていると知っても貴方は同じように言ってくれるのでしょうか?
当然そんな疑問は言葉にはしない。
自然と頬が緩む、それは演技なんかじゃない、心からの笑顔だ。

「...本当ですか?...じゃあ、少しだけ我儘を言ってもいいですか?」

静かに頷いた彼女の手を取りベッドの上へと導いて、二人で布団の中に潜り込んで。
背に腕を回し、より彼女を近く感じられるように膝を絡めて身体をぴったりと重ねて。

「今夜は名前さんのこと、ずっと抱いてたいです...」

顔をぐいと近付ければ彼女は自然と目を閉じて僕の唇を受け止める。

「僕のこと、もっと好きって言ってください。こんな僕を肯定してください。これからもずっと貴方に好きでいてもらえるよう努力しますから...」

彼女が発する好きという言葉、それだけで僕の世界は色を変えるから。
全てが暖かくて優しい色に変わるから。

「努力なんてしなくたってテツヤ君が大好きだよ」

愛しています、世界中の誰よりも、貴方のことを。


end