穏やかな休日の午後、以前よりボリュームを落としているインターホンが鳴る。
出産から暫く経ち、智也の夜泣きも少し落ち着き生活にも少し余裕が出てきた頃テツヤの友達がお祝いを持って智也に会いに来てくれたのだ。
「名前ちゃん、黒子っち!来たっスよっ!伝説の遺伝子を引き継ぐ智也君に会いに!」
玄関のドアを開くとそう言った黄瀬君の言い様に笑ってしまった。
「あははっ!まぁうちの子は確かに伝説レベルに可愛いかもね?」
黄瀬君に続いて続々と流れ込んでくるみんな1人1人にお祝いをいただいたのだけれど人数が多くてなんだか昔駅員さんに直接切符を渡して降車していた時のことを思い出してしまった。
ていうか出産祝いな筈なのに数人封筒が異様に分厚い人がいてちょっと苦笑い。
取り敢えず後で内祝いの品を調べようと思いながら有難く受け取ってみんなを部屋に通した。
「皆さん、お久しぶりです。今日はありがとうございます」
先程までオムツを替えてくれていたテツヤが智也を抱き上げみんなに挨拶した。
智也は人見知りはあまりしないのかみんなを見ても泣いたりせずにきょとんとした顔でみんなの方を見ていた。
まぁまだ殆ど見えていない筈だからみんなの姿をしっかりとは認識出来ていないのだろうけど。
でもみんな髪色が明るいからもしかしたらある程度判別出来ているのかな?
「え?て、テツ、君?!」
「ほんとにこいつお前らのガキか?テツが縮んだんじゃねぇの?」
智也を見たみんなが一瞬驚いて固まった後そんな事を言い出した。
まぁ気持ちは分からなくもない、産んだ私でさえ最初は似てるなーくらいだったのに1ヶ月も経つ頃にはびっくりするくらい似てたんだもん。
何よりテツヤ君を産んだお義母さんがびっくりしてたくらいだから。
「桃井さん、青峰君。智也を抱っこしている僕の姿が見えていないんですか?」
テツヤはいつもと変わらないトーンでそう言ったのだけれどみんなの動揺はすぐには収まらない。
「いや、勿論見えているよ。だが桃井と青峰の気持ちも正直分かる」
「まるで生き写しなのだよ」
「黒ちんの無言の圧みたいなのこの子からも出てるよね〜」
そんな事を言いながら紫原君が智也のほっぺたをふにっとつつくと智也はその指をぎゅっと握った。
「え〜こんなちっちゃいのに意外と握力あるんだけどー。黒ちんよりあるんじゃない?」
「そんなわけないじゃないですか!」
紫原君のそんな冗談に眉間に皺を寄せて不満を訴えるテツヤはちょっと可愛かった。
「でも黒子っち智也君を抱くの様になってるっスね!さすがお父さんっスね!」
智也を寝た後は今迄と変わらないテツヤなんだけどね、なんて考えながらみんなの為のお茶を淹れに行こうとするとテツヤが私に近付いて来て自分がやるから、と智也を私に預けた。
私が抱っこすると無表情だった智也がふにゃりと笑ってそれを見たみんなの表情が緩んだ。
「そんなとこまでテツに似てんだな、こいつ」
「ふふっ、智也君も名前ちゃんが大好きなんだね!」
智也の機嫌も良さそうだったのでまずは緑間君に智也を抱っこしてあげて、と頼んだ。
なぜ俺が一番なのか訊ねられたけれど妹がいると以前聞いていたから抱っこの経験もありそうだし何より真面目な人だから丁重に抱いてくれると分かっていたから。
いざ智也を抱いてもらうとやっぱり困惑しながらもきちんと安定感のある抱っこをしてくれた。
彼の顔をじっと見上げる智也と気まずそうに見つめ合う姿を黄瀬君が笑いを堪えながらスマホのカメラで写真を撮っていた。
緑間君はそれに苛つきながらも智也を抱いているからか小声で控えめに不満を訴えるだけだった。
「ふふっ...完全に固まってしまったな、緑間」
「う、うるさいのだよっ!落としたらどうするのだよ!...こんな小さな...」
「私も抱っこしたいっ!」
代わる代わりに抱っこされたけれど智也は一度も泣かなかった。
度胸までテツ譲りだな、なんて青峰君が笑っていた。
私はそれを見ながら目頭が熱くなった。
あんなに痛くて苦しい思いをしてやっと生まれてきてくれたあの子が今こんなに…
頬を静かに伝う涙をお茶を淹れて戻ってきたテツヤがすぐに優しくティッシュで拭ってくれた。
「...私達だけじゃなくこんなにみんなに愛されているんだね...」
「そうですね...僕も嬉しいです。あの子は誰よりも大切な貴方と僕の間に生まれてきてくれた子ですから」
テツヤは私の肩を抱いて寄り添うようにそう言ってくれた。
「でも正直今日は名前さん不足ですから。みなさんが帰った後は足りていない分しっかりと補給させてくださいね」
みんなが智也に夢中で見ていないのを良いことにテツヤは私の額にキスをした。
本当にこの人は...
「やっぱりそこは変わらないんだ?」
「はい、名前さんも、勿論智也も。世界で誰よりも二人を愛している僕が独り占めします」
みんなが帰った後智也はお昼寝タイム。
さつきちゃんから二人が相変わらず幸せそうで良かったというLINEが届いた。
すぐに今日のお礼の言葉を返そうとしたけれど欲張りなパパにスマホを取り上げられてしまった為、それは叶わなかった。
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