知りたくない

「黒子っち、青峰っちと名字さんのこと気になってるんスか?」

正反対な2人が教室で話している姿はやっぱり不思議な組み合わせで、でも2人が本当に想いあっていることを知った今は不思議とそんな2人が自然に見えるようになった。
そんな幸せそうな2人を横目で見ているときだった、黄瀬君がそう声をかけてきたのは。
そんなにあからさまに見ていたつもりはなかったのだけれどもしかして人から見ればバレバレだったのだろうか。
だとしたら何と返事をすれば変な誤解をされずにすむだろうかと少し悩んだ。
でもいい案が浮かばなかったので正直にそのまま答えた。

「...まぁ2人とも友人ですら、...少しだけです。青峰君は...けして悪い人ではないですがその、少し心配なところがありますからちゃんと彼女さんを大事にできているのか少し気になってしまって」

僕は2人の親でもなんでもないのに、こんなことを伝えれば怪訝な顔をされるだろうかとも思ったけれど黄瀬君にそんな様子はない。

「まぁなんとなく言いたいことは分かるっスけど...あ、でもそれなら安心していいと思うっスよ」

ぱちっとウィンクをして黄瀬君が笑った。
なんでこの人はこんなにナチュラルにキメ顔が作れるのだろうか。
モデルをやっているくらいだから寧ろ出来て当たり前なのかもしれないけれど。
まぁ自分がそうなりたいとは全く思いませんが。

「昨日女子に屋上に呼び出された時に見かけたんスけどその時たまたま青峰っち達もいてすっごいキスしてたっスよ、あのふたり!」

「...(というか前半部分言う必要ありました?)」

そんな疑問を抱きながらも彼の教えてくれた2人の情報に脳が少し混乱してしまった。

「(......すっごい?......すっごい、とは...?)」

僕が困惑するのを気にも止めず彼は1人話し続けた。

「ラブラブっスよね〜、ほんと!それに名字さん!ああ見えて結構大胆だったっスよ!青峰っちの首に一生懸命腕回して引き寄せて、ぐいって。まぁ青峰っちと付き合ってるくらいだし当然なのかもしれないっスけど」

「......」

「...首に、ぐい?...名字さんが?いや、勿論お付き合いされているのですから問題はないのですが...」

黄瀬君は笑って続ける。
先程までさり気なく見ていた2人のことが見れなくなって僕は視線を机に落とした。

「いや〜、青春っスね〜!俺もちょっと彼女欲しくなっちゃったっスよ!」

「.......黄瀬君」

「ん?」

こんなこと聞かない方がいいんじゃないかって、そう分かっているのに___

「......因みに、“すっごい”というのは...その...どの程度の“すごさ”だったんですか?」

「え?あ〜そうっスね〜...うーん...」

黄瀬君は指を顎に当てて真面目に考え始める。
この人どんな仕草をしていても様になっていてなんだか見ていてちょっとイラっとしてきました、が、違います。
今は黄瀬君のことなんてどうでもいいんです。

「......映画とかなら、R15いってるかも?って感じっスかね!」

「......(R15…生憎僕はその手の映画を観たことがないのではっきりとはわかりかねますが...)」

「...なるほど... そう、なんですね...」

それでも大体察してしまった。
その“すっごい”キスがどんなものかということくらいは。
居た堪れなくなって静かに席を立ち静かに教室の扉へ向かう。
なぜだろう、僕はどうしてこんな気持ちになっているのだろうか。

「え、え?黒子っち?ねぇ待って、なんか俺、まずいこと言ったっスか...?」

はい、本当に余計なことを言ってくれましたと内心毒付きながらも別に黄瀬君が悪いわけではないと分かっているので何も言わなかった。
ただ僕が彼女に勝手なイメージを抱いていて、それが少し違っていたのかもしれないということに勝手にショックを受けた。

ただそれだけの話です。

「(...今の僕ってちょっと気持ち悪いですね...)」

「(あと黄瀬君のその気になればいつでも彼女くらい作れる、みたいな言い草にもだんだん腹がたってきました)」


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