「ただの慰みにしかならない女がでかい顔をして城内を彷徨くな」
私にかけられる言葉に優しさなんてものは微塵もない。
嫌悪感をたっぷりと込めた言葉や視線、それには嫉妬心が含まれていた。
ただ女として生まれてきたという事実だけでここにいる事を許されている。
心の底から彼に心酔している者達にとって私はそんな存在。
汚らわしく醜い、憎悪の対象。
「見た目だけではなく心の中まで醜いモンスターなのね」
誰も居なくなった空間、ただの独り言。
デュエル馬鹿達が集まる学園に態々通っていたのだ。
少し前まではモンスターの事をそんな風に感じたことなど無かった。
彼らの見目は全てのモンスターがカッコいい姿をしている者達ばかり、というわけでは無かった。
それでも剣となり盾となり、私に力を貸してくれていた彼らの事をカッコいいと感じていたのだ。
それがデュエリストなら当然の事だと、それは、それだけは今でも同じこと。
なら今の私はどうだろう。
考えるまでもない、きっと私はもう...
「お前は何の為にここにいる」
覇王となった十代は感情の無い眼をして此方を見た。
冷たく暗い、底の見えない、背筋がゾッとするような視線。
逃げ出してしまいたくなるのに私の足はまるで地面に根を張ったかのように動かない。
「デュエルディスクを構えろ」
それは私を目の前から消す為の言葉だろうか。
それは私を倒したいという闘志だろうか。
或いは暇つぶしにすぎないのだろうか。
覇王に私の姿はどんな風に映っているのだろうか。
私は遊城十代という男をどんな風に見ていたのだろうか。
私は目の前の男にどんな感情を抱いているのだろうか。
「いやよ、どうせあっさりと負けてしまうもの」
すぐに逃げ出したいと思う程に恐怖を感じていたくせに口から出た言葉は随分なものだった。
そんな私に覇王は変わらぬ眼光を向ける。
一体今何を考えているのだろうか。
いや、きっとこの人は戦うこと以外に興味などない。
「 」
覇王が何かを呟いた。
だがそれは本当に小さな声で、私はそれを聞き取る事が出来なかった。
きっと聞き返したところで教えてはくれないだろう。
初めから私に伝えるつもりなんて無かったのだ。
彼は私に背を向け部屋を去ってしまった。
殺風景な何もない部屋はまた静寂を思い出した。
窓の外で鳥が羽搏く音が聞こえた。
その鳥はどんどん小さくなっていく。
一体どこにいくのだろうか?
その日を最後に私に毒を吐くものはいなくなった。
暗く冷たい空気を纏った城から誰かの気配はどんどん減っていきそしてとうとう完全に無くなった。
城の中を歩き回ってみたがそこには誰もいない。
覇王すら。
「貴方はなぜ私をここに閉じ込めたの?」
返事はない。
本当に1人、もう震えることはなくなった。
何も解決などしていないというのに。
瞼を閉じればあの冷たい目が私を見ていた。
恐ろしくて、恐ろしくて。
知っている筈のその目が。
それでもその目から逃れようともせずに私は瞼を閉じ続けた。
「 」
私に、私だけに向けられた言葉。
なんと言ったかも分からない、それでも私はそれを一生忘れない。
私を纏っていた空気が変わった気がした。
それに気付いた私は重い瞼を持ち上げた。
沢山の人、人、人。
そこには恐ろしいモンスターも暗闇もなく。
見慣れた校舎、見慣れた制服、見慣れた人間ばかり。
誰かに抱きしめられた。
それは親しくしていた友人で私を力いっぱい抱きしめ泣いている。
私はそんな状況にも関わらず何の感情も抱く事が出来なかった。
あんな事が起こった後だというのに学園内の混乱はすぐに収束していった。
唯一変わったのはこの学園のヒーロー、ただ1人。
変わってしまった彼を見た皆がそれを悲しんだ。
私はどうだろうか。
きっと胸の中に抱いたそれはきっと落ち込む彼らとは別物だろう。
それに気が付きその理由を必死で考え瞼を閉じた。
答えはすぐに出た。
それに気が付いてからの私の行動は早かった。
先の事を考える事もせず私は自室の荷物をまとめ寮を飛び出した。
向かうのは島の端に建てられたレッド寮。
今はただの1人しかいない、静かで寂しい場所。
勢いよく階段を駆け上り唯一灯りが付いているその部屋の前で立ち止まる。
呼吸を整え軽く深呼吸をして部屋の扉をノックした。
中から現れたのは勿論遊城十代。
十代は私を見て一瞬驚いたあと用件を訊ねた。
「私一足先に行くわ」
誰が聞いたって言葉が足りていない。
それでも十代は一瞬きょとんとした顔をしたがすぐにそれを察したのか無愛想な表情に戻って私に訊ねた。
「どこに行くんだ?」
返事が返ってくるなんて思わなかった。
そのたった一言で以前の彼を思い出した。
彼のおかげで私は楽しい学園生活をおくれたのだと。
それでも。
「私デュエルはもうしない」
その思い出はきっと私の宝物、忘れない、忘れるつもりはない。
「だってもう私が戦いたい人はいないから」
私にとって貴方は遊城十代、貴方でしかないの。
有難う、大切な友達だよ。
貴方がいなければきっと今の私はいないから。
そんな思いを込めて貴方に会いに来たの。
「大好きだったよ、貴方の事が。本当に出会えてよかった」
さようなら、元気でね、笑顔で彼に伝えた別れの挨拶。
まるで告白のような台詞、でもこれはそんなものではなくて。
「 」
あの日の彼と同じように十代は何か言葉を口にした。
けれどそれはやっぱり私には聞こえない。
彼に背を向け先ほど駆け上った階段を降りていく。
足取りは軽い。
月が綺麗な夜だった。
歩み出した私の背を押すように美しく輝いて。
今日から夜は私の味方になった