「...あの」
帰り際、図書室で本棚の整理をしていた彼女にそっと声をかけた。
「黒子くん?どうしたの?」
確実に余計なことだ、そんなこと分かっている。
僕らしくない、分かっているのに___
「少しだけ…お話、いいですか?」
「うん?」
彼女は頷いて手に持っていた最後の一冊を本棚に戻した。
そして僕の話を聞く為に彼女は僕の方を向いた。
真っ直ぐ僕の目を見る彼女に僕の方がわずかに視線を逸らしてしまう。
でももう声をかけてしまったのだから、と腹を括る。
「......あの、僕が口を出すことではないのかもしれませんが」
「うん...?」
あからさまに言ってしまってはセクハラになってしまうかもしれない。
いや、そもそも触れない方がいいのかもしれないけれど。
「...あまり、その、...人目のある場所ではあまり大胆なことはなさらない方がいいと思います。...誰かに見られたら噂になったりするかもしれませんし...」
考えに考えて遠回しに伝えた言葉に彼女はぽかんとした表情で瞬きを一回。
その顔はやっぱり僕の知っている純粋そのものに見えて僕の方が恥ずかしくなって顔が熱くなっていくのを感じた。
多分顔も少し赤くなっていると思う。
ああもう本当に、どうして僕はこんな余計なことをしているのだろうかと後悔した。
「昨日の、こと...大胆、な...も、もしかして...?」
「...黄瀬君が偶然見てしまったらしくて...屋上で、お二人のことを...」
それを伝えると彼女の顔が一気に赤くなった。
ぱくぱくと口を開けたり閉じたらして両手を胸の前で左右に振って___
「あ、あのっ!ち、ちちち違っ...違うのっ!!」
「...違う...んですか?」
黄瀬君がそんな嘘をつくとは思えない。
でも彼女の反応を見ると自ら青峰君を求めて学校でそんなことをする女の子にはやっぱり見えない。
「き、キスは、...その、し、したけど...っ!その...仕方なくっていうかっ!あ、あのあのっ...!」
「お、落ち着いてください。舌を噛んでしまいますよ...」
慌てふためく彼女が気の毒になってきてもう話を終わらせてしまおうかとも考えたけれどそれより先に彼女が口を開いた。
「あ、あああああの時、っ青峰君が、ど、どどどうしても、って...!」
「...(やっぱり君ですか...青峰君...真面目モードとは一体なんだったんですか...)」
心配していた青峰君の暴走に軽く眩暈を起こしかけた。
でもそれだけでは終わらなかった。
「が、学校でっ、しかも屋上なのにっ!ど、どどどどうしても“ムラムラしたからえっちしたい”って言ってきて...!」
「......」
「ダメって言ったよ!?絶対に無理って!そう言ったらじゃあキスだけでいいからって!...恥ずかしかったけど全然デートとか出来てなかったし、ちょっとだけならって思っていいよって言ったらなかなかやめてもらえなくて...っ!30分くらいずっと!」
「...(30分...)」
僕はまだ恋人が出来たことがないから分からないのですが中学生が学校で30分キス、なんてあり得るんですか?
というか寧ろ増幅しません?そんなことをしていたら、ムラムラ。
「立ってられなくなって、それで抱きついてっ!き、黄瀬君にはどんな風にどの段階で見られてたのか分からないけどほんとに私が喜んで応じたわけじゃなくてっ!い、いつもやってるわけじゃないよ!それは信じてっ!!」
真っ赤な顔でぷるぷる震える彼女。
全て話し合えると両手で顔を覆って蹲ってしまった。
何をやっているんだ僕は、こんなの僕が彼女を辱めたようなものじゃないか。
「...そう、だったんですね。...すみません、土足で踏み込むようなことをしてしまって...」
蹲る彼女の前に僕も膝を着いて優しく彼女の頭に触れた。
そして撫でながら静かに目を閉じ反省した。
「(やっぱり聞かなければよかったんです。おかげでまた余計な事実を知りました。...お二人は僕が想像しているよりずっと大人の関係だったんですね......やっぱりなんだか、少しショックではありますが...)」
「ご、ごめんね...変な誤解?させちゃって...っ」
顔を上げた彼女の顔は依然赤いまま。
「いえ...謝らないでください。僕も詳しい事情も知らずに憶測で物事を決めつけて偉そうなことを言いましたから...僕の方こそすみません...」
そのあと暫くお互い謝り続けた。
このままではキリがないからこの話はもう本当に切り上げようと、そう思ったけれど最後にひとつだけ。
「名字さんが青峰君をどれだけ好きなのか分かっています。青峰君もまた同じだということも。...ですがここは学校ですし、...青峰君にどうしても、と言われたからと言って断っても青峰君は名字さんのことを嫌いになったりすることは絶対にありませんから、だから無理はしないでください」
「...うん...ありがとう...黒子君...」
本当に可愛いと思う。
でもやっぱり僕の彼女に対する可愛いは青峰君とは違うんだろうなと思う。
娘、とまではいかないけれど少し危なっかしい妹を見ているようでハラハラする、というか。
やっぱりそれも気持ち悪いので絶対に人には言えませんが。
まぁ青峰君には多分バレているでしょうね。
そうでなければ僕が彼女と親しくするのあまり良い気分にはなないでしょうし。
彼女と一緒に図書室を出て施錠してそこで彼女と別れた。
部活頑張ってね、と僕を見送ってくれた彼女に頭を下げ部室に向かい、制服を着替えて体育館に入る。
丁度休憩時間だったようで僕が来たことに気が付いた青峰君に遅かったな、と声を掛けられた。
それはもう、晴れ晴れとした明るい表情で。
僕はなんだかその顔が無性に癇に障った。
黄瀬君はともかく青峰君にそんなこと思ったこと無かったんですけどね。
僕は静かに彼に近付いて彼にだけ聞こえるボリュームで口を開いた。
「...30分も何してたんだ、お前...」
どうして僕はこんなに荒っぽい言い方をしているのだろうか、本当に最近おかしい。
でもこれも全部君達のせいなんですよ、とそんな恨めしい感情を込めて青峰君をじっと見れば彼は僕が何のことを言っているのか検討がついたらしい。
「...いや、マジでギリギリ耐えたから寧ろ褒めて...褒めてくれよテツ...」
バツの悪そうな顔でそんな事を言ってきた青峰君。
僕の答えは決まってる。
「褒めるわけないじゃないですか、馬鹿も休み休み言ってください」
僕は彼女のように君に甘くないです、そう伝えて練習を始める為にウォームアップに取り掛かった。
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