抗えない欲望


夕焼けに照らされた帰り道。
今日は学校の都合で久しぶりに少し早く部活が終わった。
いつもだったら物足りなくなって居残りするのが基本だったけど今日は無性にこいつに会いたくなって部活をやっている時間学校で暇を潰してもらって待っていてもらった。
それを頼んだ時の嬉しそうな顔がヤバくて正直またムラっとした。

何をしてたのか聞けば明日の小テストの予習をしていたらしい。
つくづく俺とは全然違うと思った。
そんな慣れない考え事をしながら歩いていたせいで普段と同じ歩幅で歩いてしまっていた。
名前が何も言わずに早歩きで着いてきていたから気付くのが遅れた。
言えよと思いながらも必死で着いてくる姿が可愛くて何も言わずにスピードを緩めた。
するとほっとした顔で俺の腕をそっと掴んだ。
最初から繋いでやってればすぐに気付けたのになとちょっと反省した。

「(別にテツに言われたからってわけじゃねーけど普段部活ばっかで全然構ってやれてねぇし俺なりに伝えてみるか...)」

「...なぁ、名前」

名前を呼んで足を止めると当然名前も同じように足を止めこちらを見上げた。

「うん?」

はーやばい、可愛い。

もう壊れてるどころか末期だと思うわ、俺。

「...好きだよ」

「...っ!?」

なんの捻りもない、誰でも思いつく言葉。
でも他の相応しい言葉が浮かばなかった。
テツみてぇに本でも読めばこういう時気の利いた言葉が浮かぶんだろうか。
いや、無理だな。
読み終わる前に寝落ちするわ。
あとまぁこいつの反応を見る限りそんなの必要ないだろって分かるし。
まぁ俺と付き合ってるくらいだからまさかこいつも俺にそんなこと望んでないってのはわかってっけど。

「...い、今、なんて...?」

耳まで真っ赤になってるくせに、聞こえてねぇ筈ないだろ。
もう一回言ってほしいっことか?
だとしたらすげぇ可愛いけど。

「好きって言ったんだよ、こっちは結構真面目に言ってんだからちゃんと聞いとけよ」

「ご、ごめん...っ、聞いてなかったわけじゃないんだけど...!そんな、いきなり言われると思ってなかったから、き、聞き間違いかと思っちゃって...!」

そう言いながらも更に顔は赤くなっていった。
視線を泳がせどうしていいかわからずモジモジしながら___



「...す、好き...って、う、嬉しいけど...でも、なんで、そんな、急に......?」

しどろもどろになりながら必死で喋る、ああもうほんとなんなんだよ、こいつ。

「理由なんかねぇよ。ずっと思ってたとこだからたまにはちゃんと言葉にすっかなって思っただけだよ」

「(まぁきっかけはテツだったけど...)」

気持ちはちゃんと言葉で伝えてくださいって、俺と違ってバカ真面目なあいつが言うから。
テツと同じで真面目なこいつもそう思ってんのかなって、そう思っただけだ。

「...っ、ず、ずるい...っ!そ、そんな急に、そんな...」

そう言って名前は両手で顔を覆いそのまま俺の胸にぽふっと頭を押し付けた。

「(...ほんとなんなんだよ、こいつは...)」

柔らかくて、サラサラとした髪が夕焼けでキラキラと光って、シャツ越しに触れる体温が熱くて。
恥ずかしそうに「ばか」って呟いた、その声は甘くて。

「(あー......)」

「(駄目だな、もう無理。可愛すぎんだろ、バカ)」

その瞬間、理性が崩れた音が聴こえた気がする。
俺に寄りかかる華奢な身体を抱きしめて首筋に顔を埋める。

「っ、あ、青峰っ、くん!?」

「...我慢すんの、無理だわ」

すぐに身体が強張ったのは分かった。

でももう無理。

「えっ、ちょっ、こ、ここ、外だよ...っ!?」

「わーってる、でも俺が理性強くねぇの知ってんだろ。悪いけどもう無理だ、お前のせいで」

顎を掴んで上を向かせて奪うようなキスをした。
その時漏れた息すら堪らなくて。

「...ぜってーテツも。あんな綺麗事言ってたけど同じ立場になったらこうなるって。絶対」

「っ、く、くろ、こ...くん?」

どうして今テツの話?なんて思ってそうな顔名前は俺を見上げる。
腕を掴む手が少し震えていた。
この震えが怖い、とかじゃないってことは知っている。

「あいつは優しーからお前のこと心配してんだよ。俺に盛られてお前が困ってんじゃねぇかって」

「さ、さか、られっ...!?」

目まで回り始めたように見える。
まぁそりゃあ既に俺にエロいことされてるってバレてるの知ったようなもんだし当然か。

「テツは俺の苦労もわからねぇで節度してくださいってお利口にさせようとすんだよ。なぁ、お前もそんな俺の方が好きか?」

俺の質問に困った顔で名前は忙しなく視線を動かしてぎゅっと固く目を閉じた後ゆっくりと目を開けて再び俺の目を見た。

「...そ、外では、困る...けど、2人きりの時は、...いいよ。...お利口にしなくて、も...」

もういっぱいいっぱいのくせに、こんなこと言うんだからこいつもタチが悪い。
もう一度ゆっくりと顔を近付けて、至近距離でじっと目を見つめれば今だに赤い顔をした名前が目を閉じた。
さっきみたいな奪うようなキスじゃない、今度は触れただけ。

「(...悪いな、テツ。俺はお前みたいに優しい男にはなれそうにないわ)」



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