「ほら、名前。あっちのたこ焼き屋、けっこう美味いんだぜ?」
「え、そうなの?行ってみたい!」
ミーティングだけで終わった帰り道、今日はいつもよりゆっくり出来そうだからと俺の家に誘った。
2人並んで歩いている時視界に入ったガキの頃からちょくちょく買っていたたこ焼き屋を指差してそう教えれば名前がそう言ったので買って食べることにした。
並んで買った丁度焼きたてのたこ焼き。
家まではもう少し歩く、せっかくなら1番美味い状態で食わせてやりたいと思い店のベンチに座って食べる事にした。
「俺は何度も食ってっから先に食えよ。火傷しねぇように気を付けて食えよ」
こういう時間を幸せって言うんだろうな、なんてまたらしくないことを考えた。
でもさっきから何か小さな棘が刺さっているような、そんな違和感があった。
理由はまぁこいつなんだろうけど。
当の本人は俺がそんな風に感じていることに気付く様子もなく火傷しないようにたこ焼きを一つ摘んでふーふーと冷ましていた。
「(...テツの方がお前と趣味合うよな。...本とか映画とか、俺は読んでも漫画とかアクション映画で、こいつらが好むような映画だったらすぐ寝ちまうし。前に静かに過ごす時間も好きって言ってたの、ますますテツと似てるよな...)」
一度名前の家で名前が好きな本が映画化されたものを一緒に観たことがあるが内容が哲学的、って言うのか?
まぁそんな感じで俺には難しすぎて途中で寝ちまったこともあった。
別にそれに怒ったり気にしたりはしてない感じだったけどそれからは明らかに俺に寄せた映画を選んで観ようって言ってくることが増えた。
我慢、とまでは言わずとも合わせてくれてるんだろうなってのは分かる。
「(黄瀬もまぁうぜぇとこはあるけど顔だけはいいし女の話にも大体着いていけるってかなんなら同じテンションで話せるし。さつきともなんやかんやすぐ仲良くなってたしな。ま、女に人気あるのは当然だよな)」
さっきからなんで俺はこんなみみっちいことばっか考えてんだ、ってその思考を払拭するように頭の上で手をブンブン振った。
でもそんなことで払拭出来るようならそもそもこんな風に棘のひっかかりを感じるわけがねぇんだ。
「(わっかんねぇ、俺ってこんなネガティブな人間っつーか考える奴だったか?寧ろ少しは考えて行動しろってテツや緑間に小言言われてなかったっけ?)」
「(ほんとは俺より...)」
そんなふうに考えてしまった自分がダサくて内心笑ってしまった、でもそんな思考から引き戻したのは名前だった。
「...あっ」
しっかり食べられるくらいまで冷ましてたこ焼きを口に入れ、もぐもぐと咀嚼していた名前が小さく声を漏らした。
口に物を入れて話すことなんて普段は絶対にしないこいつが、だ。
「どうした?」
気になって訊ねてみれば口の中にあるたこ焼きをもぐもぐと咀嚼して完全に飲み込んでから眉尻を下げ悲しそうな顔でこちらを見て返事をした。
「...たこ、入ってなかった......」
「...たこ入ってないって、それただの“焼き”じゃん...」
俺はここのたこ焼きを何度も買っているがそんなこと今まで一度も無かった。
入っていないと勘違いするほどたこが小さいわけでもない。
「おだしも効いててとろとろで凄く美味しかったのに...」
ちょっとしょんぼりした表情で名前は俯いた。
やばい、その顔がもう。
めちゃくちゃに。
可愛くて...!!
「......ぷっ」
俺は思わず吹き出してしまった。
「...えぇ〜...笑うのひどくない?」
「いや、ごめん。マジで...可愛すぎてさ...」
「なっ......!?」
瞬間的に赤くなった名前はまるでたこだった。
まぁ勿論タコよりずっと可愛いけどな。
抗議するように俺のことをじっと見てくるのもすげぇ可愛い。
「(はー、やべ、この顔もすげー好き)」
言いたいことはまだありそうだったけど名前は視線を手に持っているたこ焼きに戻した。
「...もしさ、これ全部たこ入ってなかったらどうしよう...」
「そこまで運ないことないだろ」
「でも確率って...偏る時あるし......」
そこまで偏ってたら逆にすげぇと思うけどな。
多分俺はめっちゃ笑う。
そんで今日のことジジイになっても忘れねぇ。
でもこんな風に思うのもこいつが一緒にいるからなんだろうなとは分かっている。
「ほら。じゃあ、食わせろ」
「えっ」
口を開けてここに入れろって指を差した。
自分で食えなんて絶対言わねぇって分かってるから。
それにこういうのも恋人同士って感じがして悪くないだろって言い訳しとく。
「俺も食って俺のにも入ってなかったら追加でたこせん買ってやっから」
「え、う、うん...じゃあ、....あーん」
名前は恥ずかしそうにたこ焼きをつまんで俺の口元へと運んだ。
丁度いい具合に冷めたたこ焼きを咀嚼すればすぐにたこの感触を感じた。
しかも、だ___
「…入ってるな。つか悪い、俺のやつたこ2個入ってたわ」
こいつが食べたたこ焼きにたこが入っていなかった理由が判明した。
偶然誤って隣のたこ焼きに転がり込んでしまったのだろう。
「えっ、ず、ずるい!」
ガーンと漫画みたいな効果音が聞こえてきそうな、そんな顔をした。
でもすぐにくすっと笑ってこう言った。
「でも...そのおかげで私のたこ、青峰君に1個あげられたからむしろラッキーだったのかも」
「(......だからほんとにもう、こいつのこういうとこ...)」
その何気ない一言に俺の胸が締め付けられた。
でも苦しくなんてない、寧ろ嬉しい。
「(...俺が卑屈になってたのバカみてぇ...)」
「(こいつ、ほんとに俺のことすげぇ好きじゃん)」
学校の帰り道寄り道して、ただたこ焼き食ってるだけでこんなに幸せなんて___
「......やべぇ」
「え?」
「......すっごい好き」
言葉にするのが小っ恥ずかしいとからしくないとか、そんなんもうどっかに消し飛んじまった気がする。
堪らず溢れた言葉に名前はぽかんとした表情でただただ俺を見つめていた。
「きゅ、急に、どうしたの...?」
「いいから。黙って食え、あとでまた言ってやるから」
そう言って今度は俺がたこ焼きを名前の口に放り込んでやった。
何か言いたげだったけど口にたこ焼きが入っているからそれを言えずに再びもぐもぐと咀嚼している。
そして「あっ」という顔をした。
するとその表情は柔らかなものに戻った。
今回はちゃんとたこが入っていたのだろう。
それをきちんと飲み込んでから俺の方を見てにっこり笑って___
「やっぱりたこ焼きにはたこ、絶対いるね!」
いつのまにかもう俺が感じていた棘の痛みのようなものは完全に忘れてしまった。
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