静かな夜、時計の針は既に深夜2時を回っている。
金曜日の夜、明日は休日ということもありとくに何をするでもなくお風呂を済ませた後二人でベッドでごろごろして過ごしていた。
なんのきっかけもない、それはただどうしようもない衝動だ。
アイスが食べたい、と。
そう強く望んでしまったのは。
一度頭に浮かんだしまった欲望を払拭することは容易いことではない。
というよりこれは深夜テンションというやつだと思う。
先程まで眠気とそれなりにあった筈なのに今はそれを微塵も感じないのだから。
私は隣で本を開いたまま瞼が半分閉じかけている彼の肩をぽすぽすと叩いた。
「テツヤ君...ねえ、アイス食べたい...コンビニ行きたい...今食べたい......!」
「......名前さん、今何時だと思ってるんですか...」
彼は開きっぽなしでもう殆ど読めていなかった本をぱたりと閉じ、逃げるように布団を被り直し顔を枕に埋めた。
それは私のお願いに対するあきらかな拒絶の意思、でも私はそこで諦める程物分かりが良い子ではない。
「やだぁ、眠れないもん。冷たいの食べたいの!お願い、付き合って...!」
私の筋が通っていない身勝手極まりない我儘に彼は小さくため息をついた。
「そんなにアイスが食べたいなら明日の朝、買いに行きましょう。今は......さすがに眠いです」
彼も折れない、でもそれは私も同じ。
「えぇぇ...今じゃないとダメなの...どうしても...」
諦めの悪い私に彼は布団から渋々顔をあげて私の顔をじっと見つめた。
「そんな顔をされても外は寒いですしこんな時間に出歩いては危ないですから行きませんよ。名前さんは僕の隣で大人しく寝てください」
素っ気ない、でも正論。
別に彼はいつもこんな風なわけではない。
寧ろ普段は甘やかされまくりな自覚はある。
「えー...でも...」
私がおかしいのだ。
なんというか半ば意地になっているとさえ思えてきた。
彼はむくりと起き上がり私の頭をぽんぽん撫でた。
ずるい、彼のこういうところ本当にずるい。
「じゃあ、こうしましょう。明日一で一緒に買いに行きます。ですから今夜は僕の腕枕で我慢してください」
そう言って再び寝転がった彼がおいでと両手を広げた。
「うぅ...ぎゅってしててくれるなら、我慢する...」
私は彼の腕の中に収まった。
普段より温かい体温が彼が本当に眠いのだと教えてくれた。
「はい、勿論。名前さんがアイスみたいに冷たくならないように僕がちゃんと温めますから」
先程まであんなにごねていたというのに私は彼の腕の中に収まればすぐに睡魔に誘われた。
悔し紛れに明日はアイス2つ買ってもらおう、なんて図々しいことを考えながら眠った。
朝___
まだ少し眠たそうな黒子君を連れて、2人手を繋いで近所のコンビニへ。
彼は欠伸を一つして。
「本当に朝一番でアイスを買いに行くことになるとは思いませんでした...」
昨日の私のアイス欲は一過性のものだと思っていたらしい。
でも私はしつこいのだよ!
「だって約束だもん!良い子で寝たら余計食べたくなっちゃったんだから仕方ないよ!」
私の言い様に彼は苦笑いを浮かべた。
「そうですね、約束しましたから。アイス、好きなもの選んでください」
コンビニの自動ドアが開いていざ店内へ。
中に入ると私は一目散にお目当てのアイスコーナーへ。
カラフルなパッケージを眺めながら真剣にどれにしようか考える。
「テツヤ君は何にする?...あっ、これ限定だっ!」
私が初めて見る期間限定と印字されたアイスを手に取ると彼は優しく微笑んだ。
「僕は名前さんが選んでくれたものでいいです。その方が分けられた時嬉しいでしょうし」
最初から自分の分も分けてくれる気でいる彼にキュンとしたので自分の分のアイスはやっぱり1つにしようと考え直した。
濃厚なミルクアイスと期間限定のチョコづくしアイスを手にレジに向かおうとしたその時___
肉まんの什器が目に入りその場で身体がぴたりと固まってしまう。
ホカホカに蒸し上がった中華まん、全品100円セール実施中の文字___
「名前さん?」
固まる私に彼は不思議そうに声をかけた。
そしえそんな彼の袖をそっと掴んで引っ張る私。
「ねえ、肉まんも買おう。朝ごはんにしようよ」
私の言葉に彼は少し呆れた表情、でも発した声はいつも通り優しくて。
「名前さん、さっきまでアイスのことで頭がいっぱいだったのに今度は肉まんですか?」
そんな風に離しながらも彼はレジで肉まんとピザまんを一つずつ注文してくれた。
「どっちも食べたい気分になっちゃったんだもん」
「それは仕方ないですね」
レジでお会計を済ませてコンビニの外に出ると彼は肉まんを2つに割って片方を私に差し出した。
「朝から食欲があるのは元気な証拠です。冷めないうちに一つは食べてからかえりましょう。アイスが溶けては困りますからピザまんは家に帰ってから半分こしましょうね」
本当に彼が大好きだと、心から思う。
最高な休日の始まりだ。
「やっぱり朝から美味しいもの食べられると幸せだね!」
「そうですね。でも今度は夜中に駄々をこねないでくださいね?」
元気に頷いたけれどきっとそんな約束、すぐ忘れちゃうんだろうなって、そんな予感がしてる。
我儘な私を嫌いにならないでね、テツヤ君。
end