01:貴方達との別れを望んではいなかった

「貴方にお見合いの話が来ています」

「は?」

6年働いた会社の倒産により失業手当てが速やかに配給された事もあり暫くの休息を楽しもうと実家に里帰りしていた私に母はそう告げた。

そしてその言葉と共に私にA4サイズ程度ある色紙を差し出した。

見るまでもない。
ここには私の見合い相手が写っているのだろう。

私はその色紙を開く事もせずに母に押し返した。

「中身を確認しないの?
なかなか素敵な方よ?」

始めに母の顔を見た瞬間理解した。
これは見合いなどではないのだと。
私は写真の男と結婚する事になったから挨拶をしろという事なのだと。

「そこにその人そのものの履歴書は載っていないのでしょう?」

母はほんの少し申し訳なさそうな顔をして、そうね、と小さく答えた。
母にそんな顔をさせたかったわけではなかった私は少しだけ心が痛んだ。
きっと母も私と同じだったのだろう。

「いつお会いするの?」

そう訊ねると更に申し訳なさそうに小さく口にした。

「明日の午後に」

急すぎるその予定に多少驚きもしたが先送りにした所でどうにもならない事は確かなので、母に分かったと返せば私から視線を逸らしてとても小さな声でごめんね、と謝罪の言葉を伝えられた。










私の家はそこそこ良い家柄であることを理解はしていた。
他所の家より確実に習い事や教育、遊びに置いてもお金をかけて育ててもらっていた自覚がある。
しかし私を縛りつけることはせずに進学や就職など私の意思を尊重してくれた。
今思えばこの時が来るまでに私に与えられた猶予期間だったのだろう。
母だけではない、父にも感謝している。
父がいなければ今の私はいなかったであろう。
そんな父にも迷惑をかけるわけにはいかない。


それでも


結婚するよりも先にその人を愛したかった


あの父が認めた相手だ。
きっと魅力もあれば尊敬も出来る人であろう。
私が尊敬する父が私にあてた人なのだろうから。

歳相応にそれなりに恋愛もしてきた。
だからこそ人を好きになる幸せも辛さも理解している。
だからこそその全てを楽しみたかった。

「きっと私は幸せになれるのよ」

遠い未来の私はきっと幸せに笑っているのだろう。
それは分かっているけれど今晩だけは少しだけ感傷的な気分になる事を許してほしいといるかは分からない神様に祈った。




「少しだけ散歩してくるね」

逃げ出す事なんてしないから安心して?と伝えるように小さなハンドバッグだけを持って外に出た。
それを察した母は、いってらっしゃいと私を送り出した。

その日の空はまるで台風の後のように真っ赤な空をしていた。
長く伸びる影と町を歩く人影が更に私の心を情緒的な気分にさせた。

この赤がとても心地よいものに思えた。
同じように混ざりあって溶けてしまいたい、なぜこんなことを考えたのかは分からない。
それでも私の心はそう言っていた。

その直後私の世界の時間が一瞬停止した。
否、止まったように感じただけでそんなことは起こっていない。
何が起こったのだろう、そう思って辺りを見ようと後ろを振り返った。




そして次の瞬間

私の身体は大きな衝撃を受け

高く

高く

舞い上がった

そしてその数秒後

私はあの空と同じように

赤く

赤く

染まり

そして黒くなった