16:力を欲する事は必然的でしょう

あの後シナリオ通り十代君とダークネス、吹雪君のデュエルが行われた。
勝敗も同じだ。

未だ目を覚まさない兄を想う明日香ちゃんの表情を見て罪悪感を覚えた。
私は彼が大丈夫な事もこれからも彼にダークネスの影がちらつく事も知っている。
その後ろめたさから少なからず私を慕ってくれている彼女とほんの少し距離を保っていることにも。

鮎川先生が保健室を空けている為私はそこにいた。

兄を心配する明日香ちゃんはいつものように私に声をかける余裕はなかった。

二人にした方が良いと思い少しだけ席を外すと彼女に声をかけた。

彼女は不安な表情のまま此方を見つめた。

「絶対に大丈夫だから、こんなに素敵な妹さんがいるのだから、きっとすぐ元気になるよ」

軽率な発言かもしれないと思ったが本来の年相応の表情を見せる彼女を少しでも安心させてあげたくてそう声をかけた。


「、はい」

何か言いたそうな表情をしているが視線を外してそのまま吹雪君に目線を落とした。

「ほら、こんなに温かい手をしているもの」

彼女の手をとって吹雪君の手を握らせた。

そうすると彼女は先程よりも少し明るい表情を見せ、先程よりも大きな声で、はい、と言った。

そして今度こそドアを開け保健室を出た。



「あっ、名字せんせー」

つい最近も同じ事があったのは気のせいだろうか?
ドアの向こうには十代君がいた。

背後で自動ドアが閉まった。
廊下には私と十代君だけが残されてしまった。

「吹雪さんは?」

「まだ意識は戻っていないの。」

そっかぁと影を落とす十代君と私の間に沈黙が続いた。

「なぁ、先生」

「俺のせいなんだろうか」

「そんなわけないでしょう!」

十代君のその問いに思わず大きな声が出た。
そんな私に十代君は驚きの表情をみせる。

「大きな声を出してごめんなさい。
でも絶対に貴方のせいなんかじゃないの、それだけは分かって」

「·····分かった、ありがとう、先生」

笑顔で私にお礼を言う十代君を見てほっとした。

「私は教師ではないから先生と呼ばなくていいわ」

私はとてもじゃないが師を名乗れるほどの器は持っていない。

「そっか。じゃあ」

少し悩んだ後彼は嬉しそうな表情を見せ

「名前」

と呼んだ。
まさか名前を呼び捨てで呼ばれるなんて思わなかった私は驚いた。

「明日香も名前で呼んでたから俺もずっとそう呼びたかったんだ」

いたずらっ子のような顔でそう言う十代君。
本来なら目上の人に、とでも注意しなければいけないのかもしれない。
でも私はそれをしなかった。

「そろそろ授業が始まるから、行きなさい」

またな〜と手を振る十代君を見送った後壁に背を付けてため息をついた。

これから彼にはどんどん負担がかかることを知っている。
だから私は笑顔の十代君を否定するような言葉を発する事が出来なかった。

本当に何も持たない無力な人間なのだ