「僕はどうせ弱虫っス」
翔君は自嘲気味にそう溢した。
十代君は挑まれたデュエルを受け先程船に乗り込んで行った。
明日香ちゃんと万丈目君、三沢君はそれに同行したが翔君は船には乗らずそれに付き添う形で隼人君も陸地に残った。
「僕は怖くて堪らないんス。
僕はアニキのように強くないから、アニキ達のようにはなれない駄目な奴なんス」
その言葉から本心では十代君達と共に闘いたいのだという意思が伝わってくるのが痛いほどわかる。
私はどうなのだろうか。
「怖くて当たり前じゃないかな。
·······でもそれが駄目とは限らないんじゃないかな?」
翔君が驚いた表情で私を見る。
私の言葉で彼を救えるかはわからない。
それでも自分を駄目な人間だと卑下する彼を少しでも否定出来たら、と拙い脳みそで必死に考える。
「怖さを理解しなければきっと誰かを救う事も、自分を守る事も出来ないんじゃないかな。
貴方が潰れてしまったら貴方は誰も助けられないし誰も貴方を救えないんじゃないかな」
そこから歩み始める為に何かに挑む勇気は勿論必要だろう。
だがそれを恐れる警戒心も同じくらい必要だと私は思う。
「それでも弱い自分が嫌だと思うなら貴方が精一杯だした勇気を思い出して。
そうすれば頑張れるかもしれない。
それでも駄目ならきっと友達が貴方を助けてくれるよ。
どれだけ弱かったもしても友達が頑張ってくれる程の魅力が貴方にあるんじゃないかな?」
十代君と行ったタッグデュエルを思い出してほしい。
私にはあの時どれだけ勇気を振り絞ったか分かる気がするから。
本当は十代君にも負けない勇気を持っている事を知っているから、どうか負けないでほしい。
それが少しでも伝わればいい、そう願いを込めた。
「ごめんね、説教くさかったかもしれない」
私がそう言うと翔君は大袈裟なほどに首を左右に振って否定した。
「そんなことないっス!!
すごく、嬉しかったっス。
·········なんとなくアニキの気持ちも分かった気がするっス」
「え····」
翔君は先程とは違う柔らかい表情を私に見せる。
「あの時の頑張って、その一言で僕は随分勇気を貰えたんス」
あの時、とはタッグデュエルの直前の時の事だろうか。
ただ一言、なんの捻りもない応援の言葉が彼を勇気付けられたというのだろうか。
「アニキと闘うって決めた時心の何処かでは勝てる筈なんてないって思ってたんス。
きっとアニキに迷惑かけるって。
応援してくれた人だって期待してるのはアニキであって僕ではないって」
そんな風に感じていたことを知らなかった。
翔君の性格を考えてみればわからなくもないことなのに。
「でもあの時、なんの関係もない、話したこともなかった名前さんが頑張れって言ってくれたの、嬉しかったんスよ。
だからその後の隼人君の応援も心の底から嬉しく思えたんス!」
この学園は一部を除き寮同士の確執が大きい、そう思う程に彼らレッド寮の生徒にとっては敵が多いのだろう。
デュエルで全てが決まるこの学園において大衆観衆の上でのデュエルは繊細な彼にとってさぞかしプレッシャーを感じただろう。
それをやりぬいた彼はやはり強いのだ。
「それでもそんな場面を切り抜いたのは貴方だもの。
きっと貴方が思ってる程貴方は弱虫なんかじゃないと思うよ」
翔君は先程までとは違う彼本来の笑顔を見せた。
「アニキは悪いけど僕今ここに残って良かったって思ってるっス!
名前さんと話せて良かったっス!」
良かった、翔君はもう大丈夫そうだ。
少しでも翔君の気持ちを軽くすることが出来たのならそれほど嬉しい事はない。
「ここだけの話名前さんはアニキの事どう思ってるんスか?」
先程から翔君はまるで十代君が私に、まるでそう、特別な感情を抱いているかのように話している。
私はなんと答えたらいいのだろう、私は、私はいったい何を思うのだろう。
最近ずっとそればかり考えている気がする。
十代君の気持ちなんて私にはわからない。
わかりたくない、のかもしれない。
だってアニメで見ていた頃の彼は今と同じ、誰にだって優しくて。
でも、誰とも
「難しく考える必要なんてないんスよ!
名前さんは、そうっスね、アニキの事嫌いっスか?好きっスか?」
「···········好き」
小さく小さく呟いたそれは目の前の翔君にも誰にも聞きとれなかった。
それでもそのその小さな囁きはきっと小さく動いた唇から伝わってしまったのだろう。
「きっとアニキだって同じだと思うっス」
その時私は、その翔君の言葉に胸が痛んだ
それは何故なのか、分かりきっている