28:その掌を振りほどけない弱さ

カードを守る為に外部の刑事さんが護衛することになった。
そう、黒サソリ盗掘団だ。

なんとも憎めない彼らは気が付いた頃にはこの学園に溶け込んでいた。
そういった視点から見ると彼らは本当は優秀な精霊達であると言えるだろう。

「万丈目サンダーの名にかけて!!」

高らかに宣言した万丈目君の台詞に色んな意味で感動してしまったのは胸に閉まっておこう。

彼が早々に鍵を盗んだ犯人を差せばいよいよデュエルの時間だ。
勝負に挑むのは勿論万丈目君。

彼のデュエルは本当に面白いと思う。
アニメを見ている時、もしも彼が十代君に出会わずにそのまま学園生活を送り卒業していったならいったいどんな人生を送るのだろうと考えたことがある。
しかしその想像はこうして彼本人と出会った事で消し飛んだ。

彼は強い意思を持った人だ。
きっと十代君と出会わなくてもいつか壁にぶつかった時、彼自身の力で何度でも這い上がりどうしたって今の彼のようになっていくのだろうと想像が出来た。

このデュエルの後彼は今戦っている精霊達すら懐に入れてしまう、それは優しい人なのだ。
もしかしたらこの世界で十代君以上にずっと精霊達と波長が合う存在なのかもしれない。
そんな優しく気高い彼は本当に

「かっこいいなぁ」

意とせず溢れた言葉に私の両隣にいた明日香ちゃんと十代君が反応した。

「名前さん、あの、聞き間違いだったらすみません。
今万丈目君の事をかっこいいと言われましたか?」

何故だろうか、そう私に訊ねた明日香ちゃんの顔が少し怖い。

「なんだよ!俺にはそんなこと言ってくれたことねぇのに!」

最近のなんとも言えないやり取りの事もあって十代君の言葉の意味を考えるのが怖い。
彼はヒーローに憧れている希望に満ちた少年なのだ、他意はない。

「うん、皆かっこいいよね。
勿論天上院さんや遊城君も」

私の当たり障りのない言葉に明日香ちゃんは眉をさげ十代君はあからさまに不満げな顔をした。
あくまでも教員側の人間としては悪くない言葉だと思うのだが妙な罪悪感が湧いてくる。

「私、名前さんに認めて貰える人間になりたいです」

明日香ちゃんは何を言っているのだろうか。
既にこんなにも素敵な女性だと言うのに、私が認めるとはどういうことなのだろう。

「····天上院さんは既にとっても素敵な女性だと思っているけど?」

素直に口にすれば明日香ちゃんは頬を染めうつむき加減でありがとうございますと口にした。

すると今度は十代君が私の腕を掴んで強制的に自身の方を向かせた。

「なぁ、俺は?」

その腕の力強さとは裏腹にそう聞いてきた彼の言葉はいやに柔らかかった。
そんな彼と目があった瞬間私の中で色々な感情がぶつかり合ってそれは熱を持ち不自然な程頬を赤く染めた。

「っ、ご、ごめん」

それに驚いた事により十代君の腕の力が弱まったのに気付いた私は捕まれた腕をやんやりと振りほどいて謝罪の言葉を伝えた後逃げるように視線を反らした。

それでも顔に集まった熱がひくことはなく、その姿は十代君にしっかりと見られてしまっていた。

恥ずかしくてたまらない、こんな自分を知らない、まるで子供のような自分。

恐る恐る横目で十代君を見る。
十代君はとても満足げに笑って皆には見えぬように私の手を握った。

私はその時その手を振りほどく事も出来ずにただただ一秒でも早く顔から熱がひいてくれる事だけを願っていた。