32:いつだって月は美しい

ここはあまり天気が崩れない、ここに来てからというもの私はそれを身を持って体感していた。

「(アニメを見ていた頃は寒そうな制服だと思っていたけれど)」

それほど支障が無い物だったのだということを身を持って知った。

なんとなく眠れずに私はカーディガンを1枚羽織って外に出た。
空を見上げればその空は彼らの心とは裏腹に今日も美しい。

「なんて綺麗な月なのだろう」

雲ひとつない空に浮かぶ月、それは私の世界で見ていたものより近く美しく見えた。


「こんな時間に散歩か?」

ふいに背後から声をかけられた。
振り向かずとも私はその声の主を知っている。

「···こんな時間に駄目だよ、遊城君」

「名前だって人の事言えないだろ?」

十代君は私の側に近付いてにこりと笑う。
その笑顔はどこかもの悲しく見えるのは私の勘違いだろうか。

「私は生徒じゃないからいいの」

「なんだよ、ずりぃな〜」

以前笑顔を絶やさない十代君はやはり憂いを帯びているように見えた。
私はそれ以上何も言えなかった。



「····なぁ、名前、俺分からねぇんだ。
許せないことが沢山あった、なのに俺は·····」

何処かでそれを否定している、そう一人言のように呟いた言葉。
それを口にした彼はもう笑っていなかった。

「····私は遊城君達程大徳寺先生の事を知らない」

アニメで知っていた、知った気になっている私と彼らと直で接していた彼らとではそれは比べようがないだろう。

「でもね、私、大徳寺先生の事好きだよ」

そう口にすれば十代君は目を見開いた。
私のこの感情は彼と本当の意味で親しく関係を築いてきた彼らには失礼に値する言葉なのかもしれない。

それでも私は賢くないからそう伝える以外に上手い言葉が浮かばなかったのだ。

「····そっか·····ああ、そうだな、俺も····」

十代君はそれ以上の言葉を口にはしなかった。
それでも先程よりも歪ではあったが不器用に笑う彼の笑顔はいつもと同じように見えた。

「····なぁ、名前、名前のおかげで·····名前と今出会えたおかげで·····こんなに綺麗な月が見れた」

十代君は夜空を見上げてそう言った。
私も再び夜空を見上げる。
不思議だ、先程一人で見た時よりもそれは美しく見えた。

「そうだね、こんなに綺麗な月が見られたんだから、散歩に出てよかった」

二人で顔を見合わせて笑った。



「そろそろ帰りましょうか」

「ああ、おやすみ、名前」


月に負けず劣らず輝く太陽は明るく手を振って夜に消えていった