よかんとりょこう







ガタガタガタッ、ガタッ


「あいたっ」

「も〜母さんは運転荒いな〜名前が座席から転げ落ちたぞ〜」

「名前がヤワなだけよ」


助手席に座るお父さんが大丈夫か〜?とわたしの顔を覗き込む
上下反転して見えるお父さんをじとっと見上げながら眉を寄せる


(……少しは鍛えれたと思ったのにな…)


あの事件があってから自分の未熟さが情けなくて、密かに体力や筋力アップを体に負担かけないように遊びながら培えてきたと思っていたけれど、まだまだだったみたいだ

はぁ、とため息を吐いてよっこいしょと座席に座り直す


「名前、俺の膝に乗るか?」


へらりと笑って自分の膝を叩くお父さんに、真顔で「だいじょうぶ」と返せば、反抗期だと泣き喚かれてしまった
お母さんはそれを煩わしそうに顔を歪めると、サングラスで視界を閉ざした


そんなこんな、賑やかな旅行での道中
なんやかんや車を走らせて結構時間が経つ
周りの建物がだんだんとなくなり、今ではほぼ立ち並ぶ木々しかない
まるでとあるジブリ作品のようだと窓の外を何気なく見ていれば、暇を持て余したお父さんが鼻歌を歌い始める

あー、なんだか、聞いことあるような


(なんだった、かな…この、曲……)


どこか懐かしいメロディに、だんだんと瞼が重くなってくる


ふんふんと優しく響くその歌に、自然と意識が薄れていった





















なまえ


















なまえ


















名前を、誰かが呼ぶ




ふわふわと体が浮かぶ



近くで水の弾けるような音が聞こえる



鳥の口笛も、風の囀りも



わたしの耳を掠めては、通り過ぎていく




あぁ、なんて、心地いい















なまえ


















なまえ



















なまえ




















《名前》






遠くに聞こえていたはずの声が、ふと突然耳元で囁かれたような気がして、ばっと飛び起きる



(……夢……?)




「名前、起きたか〜?」

「着いたわよ〜」



お父さんとお母さんが前の座席から振り返ってわたしに声をかける


「……おとうさん、わたしのなまえ、いっぱいよんだ?」

「ん?呼ぶ前に起きたよ」


不思議そうに首を傾げるお父さんに、さらにわたしの頭にはクエスチョンが浮かぶ

確かに、お父さんの声ではなかったかもしれない…
名前を連呼されるだけの夢、って…
ぼけっとしながら考え込んでいれば、まだ寝ぼけてるのかーと頭をくしゃくしゃにかき回される


(なんだか、なぁ…)


嫌な予感は、しない…
けれど、何かが起きそうな予感はする…


鳥の巣になった髪の毛を手ぐしで整えながら、車を降りる

少し冷たい風に目を細めて、透き通るような空気を吸いながら縮めていた体を思いっきり伸ばす


「んー!」

「自然が多いなぁ」

「森の散策は明日だからね、今日は荷物の整理とバーベキューの準備!!」


ログハウスをびしっ!と指さしそう声を上げるお母さんに、お父さんと揃ってはーいと返事をする
それに満足気に笑い、荷物をテキパキと運ぶお母さんにならって、自分の荷物を下ろしていった

働かざる者食うべからず

我が家の家訓のひとつだ
ちゃんとしないとバーベキュー食べさせてもらえない
お肉にありつくために、必死に荷物下ろしをした









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