あらたなであい
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「きみ…、ねぇ……きみ…!」
頬をぺちぺちと叩かれる感触に、ゆっくりと瞼を開ける
太陽が眩しくて目を細めて手で影を作れば、その間から知らない顔がひょこっとわたしの顔を覗き込んできてぼーっとしながら見上げる
「きみ!めがさめた?だいじょうぶ?」
小豆色の瞳を見つめ返し、何度か瞬きを繰り返す
えっと、一体何が起こったのだろう……
はぁ、と息を吐けば白い煙が宙を舞う
冷え込んだ手先を擦り合わせ、ゆっくりと上半身を起こせばそこには先程までの彼岸花はなく、白い雪が辺りを覆っていた
「……ゆき…?」
なんで、
そんな、ばかな……
少し肌寒かったと言えど、少し眠ったくらいで雪が積もるような気候ではかったはずだ
戸惑いながらも辺りを見渡し、かじかむ手先を握り込む
「……きみ、だいじょうぶ?」
▽なまえ は こんらん している !
…なんて、ふざけてる場合じゃあなかった…
目の前で心配そうにわたしの顔を見つめる男の子に目を向ければ、なんだか雪ん子みたいな服をしていてころころとしてかわいらしい
「……おこしてくれて、ありがとう…」
彼が起こしてくれなければ、きっと凍死していたことだろう
服につく雪を払いながらゆっくりと立ち上がれば、立ちくらみがしてたたらを踏む
咄嗟に男の子が体を支えてくれて、自分の羽織をわたしに被せてくれた
それにお礼を言いながらへらりと笑えば、彼もにっこりと笑い返してくれる
かわいい
「わたし、なまえっていうの」
「おれはたんじろう!」
「たんじろうくん、ほんとうにありがとう」
にこにこと笑う愛らしい顔に自然とこちらもつられて笑顔になる
あったかい笑顔で笑う子だなぁ
「たんじろうくん、ここ、どこ?」
とりあえず、まずは場所の把握だ
なんだか嫌な予感しかしないけれど、状況把握は大事
たんじろうくんに場所の名前を聞けば、聞いたことのない山を上げられる
…少なくとも、わたしが旅行で来ていた山ではなさそうだ
因みに何月か聞いたら1月とか言われ、さらに混乱する
(…『個性』によるもの?いや、でも誰の?あの場にはわたししかいなかったはず…)
場所も日にちも違うところに接触もせず飛ばせる『個性』なんて、あるのだろうか…
顎に指を滑らして考え込んでいれば、たんじろうくんがわたしの肩をとんとん、と控えめに叩く
それにハッとして顔をあげれば、彼はにこりと笑ってわたしに手を差し出した
「ここにいたらかぜをひくよ、おれのうちにおいで」
……な、なんて親切な子なんだ…!
勝己くんや出久くんとはまた違ったタイプの優しさが、胸にじんわりと広がる
彼の手をそっと握れば、暖かい手がわたしの冷たい手を握り込む
(……あたたかい、な)
よくわからない状況に、思ったよりも堪えていたようだ
人の体温は、こんなにも安心するものだったのか…
とりあえず今は、彼の言葉に甘えて彼の家にお邪魔することにした
「まぁ、炭治郎、その子は?」
彼に手を引かれ訪れた先で待っていたのは、彼のお姉さんだろうか…とても綺麗な女の人が、小さな女の子を抱っこしながら目を丸くしてわたしたちを見る
「まきをあつめてたら、もりでたおれてたんだ」
「それは寒かったでしょう!早くお入りなさい」
挨拶する間もなくせっせと家の中へ通され、雪で濡れた服を引っペがされて炭治郎くんの着物を着せられる
焚かれた囲炉裏の傍へと案内されると、温かいお茶を差し出されて受け取りながらお礼を言う
かじかんだ指がじんわりと暖かくなってきて、ほ、と息を吐く
「……あの、いろいろとありがとうございます、わたし、みょうじなまえっていいます」
「私は竈門葵枝よ。炭治郎からは迷子だって聞いたけど……」
「…きがついたら、もりのなかでねていて…でも、ここがどこだかわからなくて…」
「……今まで何という名前のところにいたか覚えてる?」
んー、と唇に指を当ててお父さんたちが話してた地名をあげる
けれど、やはり聞いたことないみたいで眉尻を下げる葵枝さんにへらりと笑う
「すこしからだがあたたまったので、ちょっとさがしてみます。おせわになりました」
ずっといては迷惑だろうし、まずは辺りを調べなくては
少しばかり、嫌な予感がする
すくっと立ち上がって「きものはまたかえしにきます」と言えば葵枝さんは慌ててわたしの手を掴む
「駄目よ!山を1人で歩くなんて!」
「そうだぞ、なまえ。あわててもいいことないぞ」
炭治郎くんにももう片方の手を掴まれ、引かれるまままた床に座り直す
「でも…」
「今日はもう遅いし、ご家族を探すのは明日からにしましょう。人喰い鬼が出るわ」
「ひとくい、おに…」
迷信か何かだろうか…
熊に襲われたのを鬼と伝承してるとかかな…
真剣な表情で諭され、眉を寄せながらも小さく頷けば、葵枝さんはほっと息を吐く
すると、隣の部屋から子どもの泣き声が聞こえてきて、ぎょっとしていれば葵枝さんがあらあら、と言いながら隣室へと入って行った
「ねずこがおきたんだ」
「ねずこ、ちゃん?」
「おれのいもうと」
にこにこと嬉しそうに妹の話をする彼に、家族が大好きなんだなぁ、と感じて、自分の家族を思い出して少し寂しく感じる
ゆっくりと笑い返して、ねずこちゃんをあやす葵枝さんを見ていれば、炭治郎くんがばっと立ち上がってわたしの隣に座り手をぎゅ、と握ってきた
それに目を瞬かせて彼を見れば、泣きそうな顔をした炭治郎くんがわたしの顔を覗き込む
「なまえ、だいじょうぶだ。おれもいっしょに、かぞくをさがすよ」
「たんじろうくん……」
子どもは感情に機敏だから、わたしの寂しさが伝わってしまったんだろうか
暖かい手に、優しい心
本当に、いい子だなぁ
ふ、と笑って彼の手を握り返す
「ありがとう」
きっとその手は、これからもたくさんの人を助けるんだろう
ふと、何となくそう思った
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