きみとのであい
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「ねぇきみ、どうしたの?」
公園の砂場で蹲る男の子の顔を覗き込めば、わたしの声にハッとしたようにその子が顔を上げる
すると、ぽろりと一粒、吊り上がった大きな瞳から涙がこぼれ落ちた
ふとその子の膝を見れば、擦りむいたような怪我があり眉を寄せる
「ころんじゃったの?いたい?」
「…べつに、いたくなんか、ない」
ふいっとそっぽを向いて立ち上がろうとして、顔をぎゅっとくしゃくしゃにするその子
あぁ、痛いんだろうなぁと血の出る膝を見ていると自分の膝まで痛くなるような気がして眉尻が下がる
そっとその子の足元に座り込み、膝に手をかざせば、その子が戸惑ったようにおい、と声をあげるのに笑顔で返した
本当は外ではあまり使っちゃダメだって言われてるけど、痛そうな子を放ってなんかおけないもんね
「いたいのいたいのとんでいけ〜」
おまじないの言葉をかけながら手に力をこめれば、手の先から淡い光が出て男の子の膝の傷をあっという間に癒していく
「えっ」
痛みが無くなったことに驚いた男の子が膝を上げて血を袖で擦れば、もうそこに傷はなくなっていた
「きずが、なくなった…」
「わたしの『こせい』なの。おそとでつかったらおこられるから、ないしょね」
へらりと笑い人差し指を口元に当てれば、その子は目を真ん丸くしながらこくこくと頷いた
「おまえ、すげぇな!ありがとう!」
「どういたしまして」
「とくべつにおれのこぶんにしてやってもいいぜ!」
「こぶん?」
わたしに手を差し出し、そう言ってニカッと笑う男の子に首を傾げながら反射的にその手を握り返すとぐいっと引っ張られて気がついたら目と鼻の先に男の子の顔があった
あまりに近い距離に、びっくりして一歩後ずさる
「おまえのなまえは?」
「わ、わたしは…みょうじなまえ」
「おれはばくごーかつきだ!」
お互いに名前を名乗りあっていれば、公園のベンチでお喋りをしていたお母さんと知らない女の人がニコニコしながら近づいてきた
「名前、その子とお友だちになったの?」
「うん、なったみたい」
「可愛いお友だちができてよかったわね、勝己」
「ともだちじゃねぇ!こぶんだ!」
「女の子は子分にするもんじゃないっての!」
ばしん!と勝己くんのお母さんらしき人は彼の頭を叩くと、わたしに向かってにこりと笑う
「名前ちゃん、わたしこの子のお母さんの光己っていうの。よろしくね」
「はい!みょうじなまえといいます、よろしくお願いします」
小さく頭を下げてへらりと笑い返せば、光己さんが頬をぽっと桃色にして屈んでわたしの頭を丁寧に撫でてくれた
「しっかりしてて可愛いわねぇ〜将来勝己のお嫁さんになってくれないかしら」
「あらあら、気が早いですよ光己さん」
クスクスと口元に手を当てて笑うお母さんを見上げていれば、くい、と手を引かれる
なんだろう?と振り返ると、勝己くんが目を大きく開いて顔を輝かせていた
「なまえ!こぶんはだめだっていわれたからおれのおよめさんにしてやる!!」
「えっ」
俺いいこと思いついたぜ!とばかりにそう言う勝己くんにびっくりして瞬きをすると、光己さんが嬉しそうにその調子よ!と声を上げる
戸惑いながら助けを求めるようにお母さんを見上げれば、お母さんはわたしの背中を優しく叩いた
「名前は、どうしたい?」
どうしたいと言われてもなぁ…
「えっと…まだかつきくんのこと、よくしらない…」
「あら、フラれたわね」
さっき会ったばかりなのにお嫁さんになるなんて宣言はとてもできなくて、お母さんの後ろに隠れてそう言えば、勝己くんはショックを受けたように口を開いて固まっていた
今は彼のことよく知らないから、頷けない、けど…
「だ、だから、またあそんでくれる…?」
これから知っていけばいいのかな、なんて
こそっと顔を出してそう言うわたしに、固まっていた勝己くんの頬がじわじわと桃色に染まる
「おう!!あそんでやるから、よめにこいよな!」
嬉しそうに笑う彼の笑顔に、つられるようにして笑い返した
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