ぴんち
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敵は、何人いるのだろうか
少なくともこのレストランには、一人、とみせかけてもう一人いるみたいだけれど…
客を脅す銃男に、客の中に紛れ込んでる異形の男(なんの『個性』かわからない)
異形の男は、多分敵だと客には認識させず客が変な動きをしないか見張る役目だろうと考える
何故わかったかと言うとめちゃくちゃ目配せし合っているからである
他の人たちは恐怖で見えていないだろうけれど、割とあからさまだからわかりやすい
とりあえず、客が危険な目に合わないように何とかしようとする人がいたら止めなければ
下手に動いて皆殺しにされたらたまったもんじゃない
力のないわたしたちが今できることは、ヒーローが来るまで無事でいることだ
(正義感が強そうで相手を窺っている人がいれば、きっとその人はこの状況を打破しようとしている人だ)
客を注意深く観察し、変な動きをする人がいないか見ておかなければ
男の子の手をぎゅ、と握りながら周りを見渡していれぱ、敵が窓の外を見ている隙に足を曲げ飛び出そうとする男の人が目に入り、慌てて彼の手を離し人混みをすり抜けてその人の腕を掴む
びっくりした、全然動くまでの素振りがわからなかった…
「…!!」
「だめだよ、おにいさん、おきゃくさんのなかにもゔぃらんがいる」
弾かれたようにお兄さんがわたしを見る
気配がなかったから驚いたのだろう、じろりとわたしを睨むと、彼は暫く思考し、大人しく腰をおろした
「何故わかった」
「あのおうまさん、ゔぃらんとめでおはなししてる」
「…あいつか、確かにこの状況で落ち着いているな」
お兄さんも冷静になったのか、眼鏡を押し上げるとわたしの頭をぽんぽんと撫でる
「君は小さいのに観察力があるな」
そう言ってわたしを見つめるその瞳に、どことなく既視感を感じて首を傾げれば、言っていることがわからないとでも思ったのだろう、観察力とはと説明をし始めるその人をじっと見つめる
すらっとした体型に眼鏡、神経質そうな顔立ち…
どこかで見たような気がするんだけどなぁ…
どうしても思い出せない
うー…む…
……うん、思い出せないものは仕方ない、一旦諦めよう
ため息をひとつ吐いて、お兄さんの手先をきゅ、と握る
「おにいさんはつよいの?」
「…どうだろうな、敵の仲間には気づかなかったくらいの実力かもしれないな」
「……」
結構気にしてるんだ…
はは、と乾いた笑いをこぼすわたしの目を覗き込む彼に、突然なんだろうと見つめ返せば、徐々にその切れ長の目が見開かれていく
なんだろう、わたしの顔になにかついてたかな?
首を傾げるわたしに、彼は「君は一体、何者なんだ?」なんてお決まりの台詞を吐く
え、江戸川コ○ン、探偵さって言えばいい?
言ってる意味が全然わからないけれど、もしかして今わたし『個性』使われた?
それで何か彼の予想外のことが起きたからそんなこと言われたとか…?
眉を寄せてそのお兄さんを睨む
「よくわからないけど…おにいさん、いまわたしになにかしたの?」
「えっ…いや…」
「なんのせつめいもなくあいてに『こせい』つかうって、おとなとしてどうなの」
じとーっと見上げて、狼狽える彼に頬を膨らませる
何の個性かわからない上に勝手に『個性』を使われるなんて、気持ち悪い
ふい、とお兄さんから視線を逸らしてこれ以上詮索される前に離れようと体を離す
「とにかく!わたしたちぜんいんをたすけることができないならうごいちゃだめ!ひーろーなら…おーるまいとなら、ぜったいにきてくれる。たすけてくれるから」
わたしたちのヒーロー
彼なら、助けてくれる
何の力もないわたしたちが出しゃばるべきではない
それだけ伝えてお兄さんの肩をべしっと叩くと、お母さんと男の子のところへと戻った
「名前!勝手に離れちゃダメでしょ!」
お母さんのところに戻れば、小さな声で叱られた
ごめんなさい、と謝りながら男の子の手を握れば、痛いくらいに握り返されて、あぁ、彼も不安だったのかと申し訳なくなる
窓の外をチラリと見てみれば、続々とヒーローが集まり始めているのが見えてほっとする
それで追い詰められてここの敵たちが強硬手段に出ないことを祈るばかりだ
なんて思いながら敵の行動を観察していると、ばちり、、目が合ってしまった
え、
目が、合った…?
まさかの事態にハッとして時計を見る
(アッ…おかあさんの、かつどうげんかい……)
つらみ…!!
やっばー!
冷や汗をかきながらすぐに目を逸らしたけれど、目の合ったタイミングが悪かった
敵はどかどかとわたしに近づくと、わたしの腕を乱暴に掴んで引き寄せた
反射的に男の子の手を離して、わたしを助けようと動き出そうとしたお母さんにストップって首を振って合図をする
ここで騒ぎ立てたら、わたしとお母さんの命が危うい
ぐっ、と一瞬でそれを理解して歯噛みしながら堪えるお母さんにほっとしながらも敵の腕に抱き込まれる
(くっそ、子ども相手に締めるなよ…!)
筋肉質な腕が首に回り、少し息がしにくい
顔を顰めながらも耐えていれば、敵の顔が歪む
「てめぇ気持ち悪ぃガキだな!こんな状況で悲鳴もあげれねぇのか!!」
「…っ、きゃー!」
お望み通り悲鳴をあげてみれば、自分で思ったよりもわざとらしい声が上がってやっべーなんて思ってると、敵がふざけてんのか!と頬を殴ってきた
(いったー…!女の子の顔を殴ったな…!)
敵の望むとおりにしたのに…!
でもなんだか負けたくなくて、無表情を貫いていれば、首にかかる腕の力が強くなった
「ッハ!ヒーローが来るまでにお前が助かるとで思ってんのか!奴らには何も救えねーよ!てめぇみたいなクソガキ1人でさえな!!」
「ッ、じゃあ、あな、たには、なにができるの…!」
ヒュ、と喉がなるけれど、どうせ苦しい思いをさせられるなら一言いいたい
「ハァ?」
「なにもっ…は、できない、から…っ、ちからのあるひーろーに、しっとしてるだけっ…!」
自分に力がないから、諦めてるだけ
だから力のあるヒーローが羨ましくて、妬ましくて、憎くて、こんなことしてるんだ
(あれ、でも…そうか…)
力がなくて諦めてるのは
わたし自身だ…
(治癒の力しかないから、なんて、抗うことを諦めたのは、わたしだ)
もっともらしい理由をつけて、逃げている、だけなんだ…
人に言っておいて自分の心が抉られるなんて、なんて情けないんだろう
ふ、と笑って手から力を抜いて抗うことをやめれば、敵の力が少し弱くなる
お母さんのわたしの名前を呼ぶ声に、バッと顔を上げると、敵に気づかれる前にポケットに手を入れてフォークを取り出し、渾身の力を込めてその腕に突き刺した
「ぎゃあああ!くそっ!いてええ!!」
「なにもできないまま、まっているのは、
もう…やめた」
せめて、やられたらやり返さなきゃ、ね
反射的に離される腕からひょいと逃れると、フォークの柄を握り締めて構える
口の中に溜まった血が気持ち悪くてぺっと吐き出すと、逆上した敵が銃口をわたしに向ける
(やば)
かっこつけたはいいけれど、さっそく命の危機だ
さすがに遠距離攻撃はやばい
冷や汗をかきながらも表面は頑張って無表情を装いつつ敵を静かに睨みつける
いいねぇ、こういう絶体絶命
無表情からゆっくりと口端を釣り上げると、敵が少したじろぐ
人間絶体絶命のときってむしろ笑いが出ちゃうって本当なんだなぁ、なんて暢気に考えてる場合ではなくて、この状況の打破に頭を働かせるが全く思い浮かばない、困ったものだ
それでも、最後の最期まで、敵に弱みは見せたくなくって、にっこりと微笑む
「きみたちは、もうおわりだよ
なぜならば」
「私が来た!!!!!!」
そのまま虚勢を張るわたしの言葉に被せて突入してきた何かは、窓を突き破ると大きな声でそう叫んだ
鍛え抜かれた身体、安心できるような低くよく通る声
(あぁ、彼が来てくれた)
わたしたちの、ヒーロー
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