ひーろー








「私が来た!!!!!!」



ドカアアアン!!


大きな破壊音を立ててレストランへ入ってきたのは、オールマイトだった

うわすごい、本物だ

出久くんと勝己くんに帰ったら自慢しよ
なんて思いながら敵の目が逸れた隙にサッとオールマイトの背後へと回り込めば、それに気づいたオールマイトがわたしの頭をガシガシと撫でた


「よく持ちこたえた少女!!すごいぞ!!」


褒められた!

ニカッと笑う彼にへらりと笑うと、もう大丈夫かとお母さんのもとへ戻る



「名前!!もう!!この子は…!!」


戻った瞬間にお母さんに頭を軽く叩かれてぎゅっと抱きしめられた
近くにいた男の子も、わたしの手を眉を寄せながら握りしめる
大分心配させてしまったようだ


(ちょっと、調子に乗りすぎかな…)


内心反省しながらもそれらを甘じんで受けながらオールマイトを見れば、さすがというか一瞬で敵を一網打尽にしていて目を瞬かせる


(すごい…あんな、一瞬で…)


力があるというのは、こいうことなんだな…

羨ましくもあり、妬ましくもある


(わたしも、大切な人を守れるくらい…強く、なれるだろうか…)


お母さんと男の子のぬくもりを感じながら、瞼を閉じる

自分のこの『個性』は、人を救うことはできるだろう
でも、傷ついてからじゃあ…遅い


(強くなれるか、じゃない)


強くならなければ、守ることなんて…できない


拳をぎゅっと握りしめて、人々の称賛を浴びるオールマイトを見据えて、唇を結ぶ




「つよく、なってみせる…」






















あの後、警察も来てわたしたち客は軽い事情聴取を受けた

あれからオールマイトと話すことはなかったけれど、自分の今までの考え方と在り方を改めて向き合えたことには感謝している

男の子のお母さんはレストランのトイレに行っている間に敵が攻めてきて中々彼の元へ駆けつけることが出来なかったらしく、人混みや騒ぎが落ち着いた頃やっと彼を腕の中におさめた


「よかった…!ごめんね!傍にいれなくて…!」


あの騒ぎの中動けば、彼らはきっと悪目立ちしたことだろう
それに気配を消してたわたしたちが囲っていたことで、彼の場所を感知できなかったのもあるんだろうし
ただ、彼にとってはやはり心細かったのか、お母さんにしがみついて堰を切ったように泣き喚いていた

それを横目で見て、やっと安心できたのか、とほ、と息を吐く
お母さんは少し離れたところでお父さんに電話していて、迎えに来てもらうようにと事の顛末を話していた


(帰ったらお父さんにも怒られそうだな…)


無茶をした自覚はあるので、どことなく帰るのが後ろめたい
眉尻と肩を下げてため息を吐けば、ふと目の前に影が差す


「…あなたは…」


顔を上げれば、あの時の眼鏡のお兄さんがいた
…やはり、その顔にはどこか見覚えがある


「無事か」

「…はい、なんとか」


へらりと笑えば、お兄さんが小さく口元を緩めてわたしの頭を丁寧に撫でた
…やっぱりなんだか、既視感があるんだよなぁ

その手を素直に受け入れて目を細めれば、お兄さんがその手を頬に滑らせてわたしの顔を上に向けさせた
冷たくて滑らかなその感触と、暖かな瞳に見つめられ首を傾げる


「…おにいさん?」

「……君は、ヒーローになる素質があるな」

「へ」


わたしが、ヒーローに…?


突然の言葉にぽかんとしていれば、指で頬をするすると撫でられる


「考えるより先に体が動いていた」

「…!」

「と、言っても君の場合は、色々と考えた上で気持ちが勝っていたように見えたが」


私も諌められてしまったほどだしね

ふ、と小さく笑いながらそうこぼす彼に、よっぽどあの時のことを気にしてるのがわかり苦笑いを返す


「…ひーろーはかっこいいとはおもう…でも、ひーろーになりたいかは、まだわからないや…」


そりゃ助けられる力があるなら助けたい
けれど、ヒーローになるための覚悟って、相当だと思う
今日オールマイトを実際目にして、実感した
あの絶対的な信頼と安心感を人々に与えられるほど、わたしの力と心は強くない


「…なら、私のようにサイドキックになればいい。君が目指す先にもし私がいるのであれば、頼ってくれ」


いつでも君を歓迎しよう


そう言ってわたしの頬から手を離すと、懐から名刺を取り出してわたしにス、と差し出した
恐る恐るそれを受け取り、その名前を見た瞬間、だっと冷や汗が滝のように押し寄せてくる
震える手でその名刺を握りしめると、彼はフフフ、と笑ってその細い手で眼鏡を押し上げた


「私もまだまだ精進が必要なようだ

では、また君と会える日を楽しみにしている」


そうだ、何で気づかなかったんだろう…
何度もどこかで見たことあったような気がしていたのに


固まりながらもコクコクと頷くわたしを彼は満足気に見て、身を翻した


そうだ、その背中には、見覚えがある

いつも、オールマイトの隣にいた




「さー、ないとあい…」





なんてこった









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