>>末っ子達とリア充ごっこ。そのA






「あんま〜!ほっぺた落ちそうやで〜!」

「僕のもすっごく美味しいよ!小松も食べる?はい、あーん。」

「食べる〜!あーん!…うま〜!」

「トド松、俺にも…」

「しょうがないなあ。はい。」

「えー、俺にはあーんしてくんねーの?」

「え、やだよ。何が悲しくて兄にあーんしてあげなくちゃならないの。」

「十四松はよくやってんじゃん。」

「十四松兄さんは許されるの!」

「ちえー、なんだこの差…。…うんまー!」

「でしょでしょ〜!おそ松兄ちゃん、私のも食べる?あーん。」

「小松…!お兄ちゃんは信じてた!あーん。…うんまー!俺の味方は小松だけだよー!」

「小松、おそ松兄さんを甘やかすと調子に乗るから甘やかしちゃだめだよ。」


何だかんだ長男もこの雰囲気に慣れたようで、三人は仲良く甘めのランチに舌鼓をうっている。

小松は生クリームとベリーがたっぷり乗ったパンケーキを。

トド松は生クリームと何種類かのフルーツがたっぷり乗ったパンケーキを。

おそ松はボリュームのあるサンドイッチを頼んだ。

「たまにはこういう飯も悪くねーな!」

「じゃあまた一緒に行こうよ、おそ松兄ちゃん!」

「金があったらなー!」



各々注文したメニューを平らげ、一息ついているとトド松が立ち上がり伝票を持つ。

「じゃあ、僕がまとめて払ってくるね。兄さん達は先に外で待っていていいよ。」

「え!トド松払ってくれんの?何だかんだ奢ってくれるわけー?ラッキー!」

「は?違うし。ここで割り勘とかしてたら格好悪いでしょ。
ここの店員さん結構可愛いし、例え覚えてもらえなくてもその場だけでも良い印象を持ってもらいたいじゃん?」

トド松がさらりと答える。さすがドライモンスターである。

「何その理論…。なんだー、期待して損したー。」

「はいはい。」

「トド松兄ちゃんは大体こんな感じだよ〜。先出てよ、おそ松兄ちゃん。」

荷物をまとめた小松がおそ松の背中をぐいぐい押す。

「マジか。いつもこんな感じなのかよ。」

末弟の徹底ぶりに少し引いたおそ松だった。



「おまたせー。」 

暫くしてトド松がお店から出てきた。心なしか嬉しそうな顔で。

「お会計ありがと〜トド松兄ちゃん。私いくらだったっけ?」

不思議に思いつつ小松が財布を出しながらたずねる。

「あ、いいよ。今回は僕が奢ってあげる♪」

「えっ?何で?!どういう風の吹き回し…?」

突然先程言っていたことと違うことを言われ、混乱する。

そんな小松を知ってか知らずか、トド松はほっぺに手を添えながら答える。

「あのね、お会計してるときに店員さんにね、仲の良いご兄妹ですね〜羨ましいです〜って言われちゃってぇ。」

「ほ〜。」

「ふーん、で?それだけじゃないだろ〜?」

おそ松はトド松の肩を組み問いかける。

末弟はそんな事を言われただけではきっと奢ってはくれないと、長男の勘が言っている。…気がする。

「えー、それだけだよ?兄妹が褒められると嬉しくなるでしょ?それで気分が良くなったの!おそ松兄さんは疑り深いなあ。」

嘘だな、絶対それだけじゃないはずだ。

まあ大方、なんだかんだ話が盛り上がって連絡先ゲットでもしたんだろう。

結果的に奢ってもらえたので、深くは追求しないでおくことにするが。

末弟はそれ以上話す気が無いらしいようなので、おそ松は勝手にそう納得した。

まあでも、後でスマホをこっそり見てやろう、と企みながら。



>>



その後は、小松やトド松の行きたいお店に入ったり、気まぐれにお店を覗いたりしてあっという間に時間が過ぎた。

もうそろそろ帰ろうかという雰囲気になりかけたとき、

「あ!」

と小松が立ち止まる。

「んあ、どうした小松。」

「どこかまだ行きたいお店でもあった?」

つられて二人も立ち止まる。

「えっとね、そこにゲーセンがあるでしょ?記念に、三人でプリでも撮りたいな〜って、思ったりして…。」

小松は少し不安そうに二人を見上げた。

「なんだ、そういうこと。良いよ撮ろうか!せっかくだしね。」

「プリ?」

「プリクラだよ、おそ松兄さん。」

「ああー。」

意味が分かり、おそ松はポンと手を叩く。

確かに三人で遊びに来た記念になるかもしれない。

やっぱり俺の妹は最近の女子だなあ、としみじみ思う。



三人は近くのゲーセンへ入った。

「兄ちゃん達、どの機種にする〜?」

嬉しそうに小松が兄たちを振り返る。

「うひゃあ、今プリクラの機械ってこんなにあんの?」

「僕は小松のオススメので良いよ。」

「おそ松兄ちゃんは?」

「俺もよく分かんないから小松に任せる…。」

キラキラとそこに鎮座する数台のプリクラ機に圧倒されたかのように、おそ松はぽかんとしたまま答えた。



小松のオススメだという最新機種のプリクラ機に決定し、早速お金を入れようとした小松とトド松を、おそ松が静かに制した。

「まてまて。ここはこの長男様が出してやろう!」

鼻の下を擦りながらどや顔で言う。

「弟に良い顔ばっかさせられないからな!400円なら俺でも出せるし。」

「えー!あのおそ松兄さんが奢ってくれるの?!うっそ!」

「明日は槍が降るね!」

たったの400円でこの反応である。

「そんな事言うならお兄ちゃん払わないぞー。」

「わー!ごめんごめん!ありがとうおそ松兄ちゃん!さっすが!大好き!」

ふてくされたような顔になったおそ松を小松が慌てて褒め倒す。

するとおそ松は妹の言葉に直ぐに機嫌を直し鼻の下を擦る。

「へっへー!だろ〜?」

まったくチョロい兄である。



おそ松がお金をいれ、末っ子達が設定を決めた後プリクラ機の中に入る。

「立ち位置どうする〜?」

「小松が前にきて、僕たち後ろに立てばバランス良いんじゃない?」

「そうだね〜。」

「ちょ、ちょ、俺プリクラとかよく分かんないからついていけないんだけど…。」

テキパキと話を進めようとしている末っ子達をおそ松が止める。

「大丈夫だよ〜。」

「撮影がスタートしたらポーズとかある程度指定してくれるし、そんなに身構えなくても良いよ?」

「あ、そう…。」

よく分からん世界だ、とおそ松は思った。


『はじめはみんなで猫のポーズ!可愛く手を添えて♪3、2、1』

スタートボタンを押すと、プリクラ機が喋りだした。

「「にゃー!」」

「にゃ、にゃー?」

カシャッ

末っ子達は慣れたようにポーズを決める。

二人の見様見真似で、おそ松もポーズを決める。

『お次はおすましポーズ♪顔に手を添えて〜♪3、2、1』

「はあ?おすましって何?」

「こんな感じこんな感じ。」

「この角度!」

カシャッ

シャッター音が終わると直ぐにおすましポーズをやめ、小松が兄達を見て提案する。

「ねえ、次は変顔しようよ!」

「え〜変顔?」

「お!やろうやろう!」

突然の小松の提案に、トド松はえ〜!と少し不服そうな顔をする。

対照的に、おそ松は乗り気である。

『3、2、1』

カシャッ

シャッター音の後、画面に凄い顔をした三人がうつし出される。

「ぶふっ良い出来!」

「も〜可愛くないから変顔はしたくなかったのに〜。」

「その割には渾身の変顔を決めてるけどな。トド松。ぶふっ最高!」

言い出しっぺの小松と乗り気だったおそ松は勿論、不服そうだったトド松も渾身の変顔でうつっていた。

だが変顔で笑っていた三人は、次のポーズ指定で固まった。

『最後はみんなでぎゅ〜♪仲良く抱きついちゃおう!3、2、1』

「えっ!」

「!」

「!」

一瞬躊躇した小松を、その瞬間兄達がぎゅっとサンドイッチにした。

カシャッ

「!!!」

突然のことに驚く小松に、二人はにっこりと笑いかける。

お互い歳も歳である。しかも兄と妹となると、べたべたすることもなくなる。

なので、てっきり違うポーズをするのかと思った小松にまさかの不意打ちである。

「僕達、仲の良い兄妹だからね♪」

「へへ、小松あったかい。」

妹に抱きついたまま、二人は言う。

「ちょ、あの…。」

「昔はお兄ちゃーんって言ってよく抱きついてきたのになー、最近は全然だからお兄ちゃん寂しいー。」

「ほんとほんとー。小松、僕達の事嫌いになっちゃったのかなって心配になるよー。」

「そ、そんなことない!よ…。」

まさか、そう思われていたとは。

確かに思春期を迎えてから、兄達にべたべたするのは何となく恥ずかしく思えてしまい、仲は悪くはなかったが無闇に触れることは無くなっていた。

いや、たぶんどこの兄妹もそうだと思うけど。

小松は内心そうツッコミつつも、嬉しいような恥ずかしいような気持ちではにかむ。

そんな妹をみて、兄達はより妹が愛おしく思えて、自分達は少しシスコンなのかもしれないと思うのだった。



帰り道、先ほど撮ったプリクラを三人で眺める。

「何かこのデカ目効果のせいで、俺とトド松の見分けが余計に付かないな!」

「おそ松兄さんも目が大きくなってるからねー。」

「ウケる〜。ぷぷぷ。」

シートには、猫のポーズやおすましポーズをした三人が美化されてうつっている。

だが何種類かある撮ったポーズの中でも、おそ松とトド松が小松に抱きついているものについ視線がいってしまう。

恥ずかしさはまだあったが、何だか兄達ともっと仲良くなれた気がして、小松はつい口元が緩む。

自分も大概ブラコンなのかもしれない。

「おそ松兄ちゃん、トド松兄ちゃん、今日は一緒にお出かけしてくれてありがとう!すっごく楽しかった!」

両側にいる兄達を交互に見て、微笑む。

そんな妹に釣られるように二人も笑う。

「あはは、いきなりどうしたの?まあでも、僕も楽しかったよ。」

「俺も。最後こんなプリクラも撮れたし。」

おそ松はひひ、と悪戯っぽく笑いながらプリクラを振る。

一緒に出かけた相手は恋人ではなく兄妹だったけれど、とても充実した1日だったと思う。

これはこれでリア充なのかもしれない、と一人考えるおそ松だった。





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