>>末っ子達とリア充ごっこ。その@







只今午前11時半。

本来家を出でるはずだった時間をとっくに過ぎている。

何故かと言えば、松野家の長女であり六つ子の妹である小松が、急遽おそ松の見た目をリア充に変化させると言い出したからである。



「わあ〜!あのいかにも非リア充オーラ漂うおそ松兄さんが、小松さんの手によって着々とリア充に変化していっています!」

「ふふふ…私の手にかかれば、どんなダサ男も見事にオシャレ男子に変われるのよ?」

「ダサ男て。しかも変なコントまで始めてるし。」

トド松が司会のタレント風にセリフを投げかけると、
小松はよく分からないオネエのスタイリストキャラになりきり、答える。

さっきからずっとこの調子である。

だがトド松の言葉通り、おそ松は小松の手によって着々と見た目だけリア充化していっていた。



「できたわ!これでおそ松兄ちゃんも見た目だけはリア充よ!」

ででーん!と言っておそ松を鏡の前に立たせる。



鏡に映る自分の姿を見たおそ松は、おお…。と感嘆の声をあげる。

髪はワックスで少し遊んでいて、
何だか一松のボサボサ頭をちょっとおしゃれにした感じに見える。

服はどこから調達したのか、赤とネイビーのツートンカラーの少しゆったり目のスウェットに、

ボトムはカラ松の箪笥からパク…借りてきたスキニーを合わせている。

そして靴は…いつもの赤いスニーカーで良いと言われた。

「どうどう?おそ松兄ちゃん!」

小松がキラキラとした眼差しで見上げてくる。この顔は、感想を待っている顔だ。

そんな小松に対して、おそ松が一言目に口に出した感想はこれだった。

「なんかこういう服着たヤツ、渋谷の街頭インタビューとかで見たことあるわ。」



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あれからやっと家を出て数十分、三人は無事に原宿に着いた。もうお昼の時間である。

「おなか空いた!」

「当たり前だよ〜、おそ松兄さんなんかのコーデしてるから〜。」

どうやら末弟は、未だに長男の同行に不満があるようである。

「トド松がさっきから冷たくて、お兄ちゃん泣きそうだわ。」

「大丈夫だよ、トド松兄ちゃん!さっき電車の中でルール決めたじゃん!」

「そうだけどさあ…。」

おそ松が直ぐにボロを出すのではないかと心配した二人は、道中にこんなルールを決めた。

1、いつものように直ぐに会話に下ネタをぶっ込まない。

2、ニートである事を他人の前で言わない。

3、競馬やパチンコの話をしない。

4、喧嘩をしない。

というものである。

「てかこのルール、俺を前否定してない?!俺ここにいる間、何の話をすればいいわけ?!」

「え〜、普通に最近あった面白いこととか、食べたものの感想とか…。」

「面白いことぉ?俺、競馬とかパチンコ行かない日は大体家にいるし、
家でのそういう話は二人とも知ってるだろ〜?」

「まあね。」

「でも、おそ松兄ちゃんの趣味の話って、あんまりリア充ぽくないんだもん…。偏見だけど。」

「かーーー!!小松はさっきからリア充リア充うるせえな!」

「もし破ったら、トド松兄ちゃんと二人でおそ松兄ちゃんの事他人のフリするから!無視するから!」

「えっそれは勘弁して…。」

いつぞや末弟に他人のフリ、というか居なかったことにされた事を思い出し、身震いする。
妹にまでそんな態度をとられたら、きっと凍死するだろう。

「分かった、約束する…。」

折れたのはおそ松だった。

「絶対だよ、おそ松兄さん。」

「じゃあ指切りげんまん!」

「ん。」

ゆーびきりげーんまーん嘘つーいたら針せーんぼーんのーます!

歌いながら絡めた小指をぶんぶんと上下に揺らす小松を見ながら、おそ松はふと思った。

小松は、何故こんなにリア充に拘るのか、と。




とりあえずショッピングは後回しにして、まずは腹ごしらえをすることにした。

「腹が空いては戦はできぬ〜ってね!」

嬉しそうにメニューを見ながら、小松が言う。

入ったのはパンケーキ屋さん。

店内は甘い香りに包まれており、ポップな装飾の内装と相まってとても可愛らしい。

平日だからか、あまり待たずに入れた。

「わあ〜トド松兄ちゃん、これ可愛いくない?!美味しそう!」

「ほんとだ〜!じゃあ僕これにしようかな!」

「私、こっちと迷ってたんだけど…。」

「じゃあ小松はこっちを頼んで、半分こしよっか。」

「そうする〜!」

(流石、なんか慣れてるぞ、この末っ子達は。)

キャピキャピとメニューを見ている2人を見ながら、おそ松は一人悩む。

メニューが決まらない。だって、

「どれも、すげーたけえ…。」

(何?!パンケーキ一人前で千円越えんの!?意味わかんねーよ!何で二人ともそこに疑問を持たないわけ?!金銭感覚可笑しいんじゃねーの?!)

メニューに載っている食べ物の値段はどれも千円を越えている。薄っぺらいパンケーキ数枚で、何故千円もとるのかと不思議に思う。

「おそ松兄ちゃん、決まった?」

そんな長男を知ってか知らずか、小松が声をかける。

「えー…と。」

「あ、おそ松兄さんひょっとしてパンケーキの値段見て驚いてるんでしょ?まあ普段兄さんはこんな所こないもんねぇ。」

弟の煽るような台詞にカチンときたが、事実なので何も言い返せない。

「でも高いのは同意するよ〜。お金のない学生には辛いね!あ、じゃあじゃあおそ松兄さん。」

「ん〜?」

「私、こっちのサンドイッチも食べてみたいんだ〜。だから一口くれるんならお金半分出す。」

「え?!マジで!」

まさかの提案。俺の妹は神か。

じゃあ、の意味が分からないが。

ぶっちゃけ妹に払わせるとか兄の面子丸つぶれだけど、それは今に始まった事じゃないからいいや!

おそ松は心の中で吹っ切れる。 

さすがクズである。

「じゃあ、小松のお言葉に甘えて、俺はこれにする〜。」

「うっわ、おそ松兄さん兄としてのプライドとかないの?」

「背に腹は変えられねーしな!へへ!」

「はあ…。あ、店員さーん、注文していいですか〜?」

何故か得意げに鼻の下を擦る長男に呆れたような視線を送ったが、店員が近くを通った直後トド松はぱっと表情を外向きのあざとい笑顔に変え、その店員を呼んだ。





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