>>暖をいただきます。






チクタク

チクタク



「…寝れない。」

深夜1時。

小松は布団の中で何度目かの寝返りを打つ。

布団に入ってから、かれこれ数十分が経っている気がする。

「やっぱり見なきゃよかった…。」

はあ、と大きくため息をはく。

と言うのも、寝る前にホラー映画を見てしまったのである。

本来小松はビビりでホラーは苦手なのだが、好奇心が強いせいでついつい気になって見てしまう。

そして後から怖くなり、後悔する。

それを学習しないので今まさに後悔の真っ最中である。

映画のホラー映像が頭に張り付いて離れず、寝られないでいるうちに目が冴えてしまった。

それに今日は何だかいつもより寒い気がする。

布団の中がいっこうに暖まらない。

小松は末端冷え性気味なので、余計に爪先の方は暖まらない。

これではいつまで経っても寝れないじゃないかと、小松は心の中で文句を言った。

大体自分のせいなので、誰にも何処にも当たれないが。



「あ、そうだ。」

暫く目をつむり、眠気がくるのを待っていたが、ひとつ良いことを思い付きガバッと起き上がった。




スパーン!!

深夜1時半。

部屋の襖が勢いよく開けられた。

その部屋で寝ていた三男チョロ松はびくりと驚き起き上がる。

こんな夜中に誰だ。

「たのもー!」

開け放たれた入り口に立っていたのは、自分の枕を抱えた妹の小松だった。



「は…?小松…?こんな時間にどうしたの?」

チョロ松は眠い目を擦りながら、突然の来訪者に問いかける。

「あ、チョロ松兄ちゃんおはよう!あのね、ちょっと頼みごとがあって!」

眠そうなチョロ松とは対照的に、深夜なのに何故か元気な小松が元気よく答える。

「頼みごと…?あ、トイレ?」

末弟によく夜中のトイレに付き合わされるので、この妹もそうなのかと思いそう聞き返す。

「え〜、違うよ〜。トド松兄ちゃんじゃあるまいし。」

「違うの…?じゃあ何。眠いんだけど…。」

だが、このまま話していたら眠気が逃げてしまいそうである。

「ん…。寒い…。」

小松とチョロ松が話していると、何処からかそんな声が聞こえてきた。

六人で一枚の長い掛け布団を使っているため、一人が起きあがると隙間ができて外の冷気が布団に入り込んでしまう。

「んあ…?チョロ松…何で起きあがってんの…。寒い…。」

どうやら先ほどの声の主は長男のおそ松のようである。

目を擦りながらチョロ松を見上げる。

「あれ、小松…?どしたの…。」

同時に部屋の入り口に立っていた小松にも気付き、首を傾げる。

「おそ松兄ちゃんもおはよう!…あのね、実は、今日は一人だとなんだか寝れなくて仲間に入れて欲しくてきたんだ…。」

おそ松にも元気よくあいさつし、おずおずと本題を話し始める。

「あと寒いから暖をとりたいなって。」

爪先を擦りあわせながらそう付け足す。

「え、仲間に入れて欲しいって、俺達の布団で寝るって事…?」

妹の申し出にチョロ松は怪訝そうな顔をする。

いくら血がつながっているとはいえ、男女が同じ布団で寝るのは…。

そう考えたチョロ松だったが、

「んあ、いいぜー。小松こっちおいで。」

「いいの?ありがとう!おそ松兄ちゃん!」

おそ松は特に気にする様子もなく小松を自分の隣、おそ松とチョロ松の間に招き入れる。

「ちょ、小松本当にここで寝るの?おそ松兄さんも何で気にしないんだよ!」

「えー、気にするって?あ、もしかしてチョロ松妹と一緒に寝る事にドキドキしちゃってるの?うわー引くわーさすが童貞。」

「え、そうなの?チョロ松兄ちゃん…。引くわ〜。」

「うっせえな!ちげーし!妹のまえでそんな事言うなよな!つか童貞はてめーもだろ!小松も乗るな!」

「ごめんなさーい。あはは。」

「ちょっと弄っただけだろー。」

小松は笑いながらいそいそと布団に入り込む。

本気で今夜はここに泊まるつもりなようだ。

「まあ小松がいいなら何も言わないよ…。」

折れたのはチョロ松の方だった。

三人がそんなやりとりをしていると、


もぞもぞ


「ん〜…チョロ松兄さんうるさいよ…何騒いでるの…。」

「…何かあったの。寝たいんだけど…。」

末弟トド松と、四男一松が目を覚ました。

「ああ、起こしちゃった?ごめん。」

「ごめんね〜、一松兄ちゃん、トド松兄ちゃん。」

「ほらー、チョロ松がうるさいから弟達も起きちゃったよー。」

「ん?…えっ何で小松がいるの?」

「しかも布団に入ってるし…。」

二人は自分達の寝ている布団に、いつの間にか妹も入っていることに驚き、眠そうだった目をぱっと開く。

「えへへ、実はかくかくしかじかで。」

「いや、本当にかくかくしかじかって言っても伝わんねーから。」

ぴしゃりとチョロ松が突っ込む。

「も〜しょうがないな〜。あのね、今日は何となく一人じゃ寝れないし、寒いから兄ちゃん達の仲間に入れてもらいにきたの〜。」

「何だよしょうがないって…。」

「なるほど。…あ、もしかして、さっき一松兄さん達と見てたホラー映画を思い出して寝れないんでしょ〜?」

「う!な、何で分かったの、トド松兄ちゃん…。」

「そりゃあ、小松がビビりだって事知ってるし。僕だったら、寝る前にホラー映画なんて絶対見ないのに〜。」

「何それ、自業自得じゃん。」

話を聞いていたチョロ松がため息を吐く。

「小松って、ビビりなのに好奇心も強いからよく自滅するよなー。そんでお兄ちゃん達に助けを求めにきたのかー。おーよしよし。」

おそ松が隣にいる小松の頭を悪戯っぽく笑いながらぐしゃぐしゃと撫でる。

「怖いもの見たさってやつだよ!というか、なんで一松兄ちゃんはあれを見て普通に寝られるの!十四松兄ちゃんなんか爆笑してたし…!意味が分からないよ…。」

小松は、一松と十四松とホラー映画を見ていたのだが、この兄達は怖がるどころか笑いさえしていたのだ。

音や演出などで驚くことはあっても、怖がりはしない兄達の神経をを小松は理解出来なかった。

と、小松が一松や十四松を指差しながら訴えていると、

ガバッ

「呼んだ?!」

今まですやすやと眠っていた十四松が、名前に反応したのか急に起き上がった。

「うわっ!び、びっくりした!!」

小松は反射的に隣のおそ松のパジャマを掴む。

そのおそ松や、他の起きている兄達も、突然起き上がった十四松に吃驚していた。

「あれー?!何で小松がいるの?!」

周りの反応を特に気にすることもなく、小松に問いかける。

また答えなきゃならないのかと思いながら、小松は十四松にも先ほどの説明をした。

「そっかー!!小松怖くなっちゃったんだねー!あれ怖かったもんねー!」

小松から事情を聞いた十四松がうんうんと頷く。

「え?!十四松兄ちゃんも怖いと思ってたの?!嘘?!笑ってたのに?!」

「えー、怖かったよー。面白かったけど!」

「十四松の感覚がよく分からない…。」

「まあ十四松だし…。」

「そっか…。」

十四松以外がそう納得していると、

先ほどからずっと起きることの無かった最後の一人も目を覚ます。

「ん…んん、…みんなして起き上がって、どうしたんだ…?」

のっそりとした動作でカラ松が起き上がる。

すごく目つきが悪い。

「うわっカラ松兄ちゃん、寝起きの顔怖っ…!」

「お前よくこんながやがやしてる中寝てられたなー。」

「…?おそ松…?あれ、何で小松がいるんだ?」

おそ松に声をかけられ、カラ松がおそ松の方へ向く。

と同時に隣の小松にも気付き問いかけた。

デジャヴである。

また同じやりとりをする。

「なるほど!マイシスターは怖くて眠れないんだな!いいだろう、俺の子守歌を聞か」

「ふあぁ、もう寝ない?明日起きれなくなっちゃうよ。」

カラ松のセリフをトド松が欠伸をしながら遮る。

「えっ…。」

「小松、おそ松兄さんの隣で大丈夫?こいつすっごく寝相悪くて殴ってくるよ。」

そんなカラ松をチョロ松も気にせず小松に声をかける。

「え〜そうなの?じゃあおそ松兄ちゃんの隣はやめておくよ…。」

寝ている時に殴られたらたまったものではない。

「えー!小松場所変わんの?折角暖かかったのに。」

「あ、十四松も寝相良くないからオススメできないよ。」

「そ、そんなことないっすよー!よく動きたくなるけど!」

「うわあ、チョロ松兄ちゃんの両隣は危険地帯だあ。じゃあ、誰の隣が一番安全?」

「じゃあ、僕とカラ松兄さんの間は?僕達はそこの二人ほど寝相は悪くないよ。」

「じゃあそっちに行く〜。」

小松は枕を持ってトド松とカラ松の間に入り込む。

「て、ひゃっトド松兄ちゃん足冷たい!」

布団の中で偶然触れたトド松の足は冷えていて全然暖かくない。

小松の足も冷えているので、これではもっと暖まらないだろう。

「あ、ごめん。僕も冷え性なんだ。」

「これじゃあ足元が暖まらないね。カラ松兄ちゃん、一松兄ちゃん、そっち行ってもいい?」

トド松とカラ松の間は却下になり、最後の頼みの綱である。

「別に良いけど…。いいの?僕の隣で。」

「俺は大歓迎だぜ、マイシスター!」

一松がこちらに来た小松を見上げる。

「うん。一松兄ちゃんとカラ松兄ちゃん暖かそうだし。」

そう言いながら、二人の間に入る。

「!一松兄ちゃん暖かい!!」

一松の足に自分の足をくっつけた小松が言う。

「うわ、小松足冷えすぎ…。」

予想以上の冷たさに、一松は自身の足を引っ込める。

「引っ込められちゃった。じゃあカラ松兄ちゃんから暖をとるね。」

そう言って小松は、カラ松の足に自身の足をくっつけた。

「カラ松兄ちゃんも暖かい〜。」

「な、なかなかコールドな足だな…。でも、マイシスターの為なら…。」

カラ松は身震いしながらも、小松の足から自分の足を引っ込めることはない。

何だかんだ優しいのである。

「あ、カラ松兄ちゃん、さっき子守歌歌ってくれるって言ってたよね?リクエストがあるんだけど!」

そんなカラ松に小松が言う。

「!!マイシスターは俺の子守歌がお望みかい?いいぜ、何でも歌ってやるぞ!何がいいんだ?」

妹の申し出にカラ松のテンションが上がる。

「えっとね、タイタニックのテーマ。」

「えっ?」


「「「「エンダァァァアァア!!!!」」」」

カラ松の困惑の声の後すぐ、小松、おそ松、一松、十四松、四つの声が揃って叫ぶ。

「「うっせえ!!」」

その声に、チョロ松とトド松が叫ぶ。

「それタイタニックじゃないから!つーか深夜に叫ぶな!そもそも何で小松はそのチョイスなの?!」

「小松この下りがやりたくてカラ松兄さんに頼んだでしょ?!いいからもう寝よ?!」

「あっはははは!!」

チョロ松、トド松の突っ込みを受けながら小松はひとり爆笑している。

「まさか、おそ松兄ちゃんと一松兄ちゃんと十四松兄ちゃんも反応してくれるとは思わなかった!満足!ふひひっ」

「この流れは反応しなくちゃと思ったからな!でも一松も乗るとは思わなかったわー。」

「いや、この流れは誰だって乗るでしょ。」

「つい叫びたくなるんだよね!!で、タイタニックのテーマって本当はどんなのだっけ?!」

「ああ、確か…」

「歌わなくていいから!!」

一度静まり返った部屋が、また賑やかになる。

「はあ…もう、小松もふざけないでちゃん寝よ…。」

「そうだよー、僕眠いよー。」

突っ込み二人が部屋を賑やかにした張本人に抗議するが、

「小松、もう寝てる…。」

一松がぼそりと言う。

そこには、この賑やかさに満足したのか安心したのか、幸せそうな表情で一松の腕に抱きつき眠る小松がいた。

「俺らを起こしておいて先に寝てやんの。」

おそ松が呆れたように笑う。

「幸せそうな顔で寝てるな。」

「はあ、まったく、怒る気も失せちゃうよ。」

「(暖かい…。)」

「僕も眠くなってきたー。ふああ。」

「今度こそ寝よっか。」


「「「「「「おやすみ。」」」」」」


六つ子とその妹の寝る部屋に今度こそ静けさが戻り、ゆっくりと夜は明けるのであった。




>>暖をいただきます。




>>もどる/>>とっぷ/>>はくしゅ!



6 / 7

<まえつぎ>







ALICE+