『さくら』という少女について
彼女──さくらさんと付き合い始めて気付いたことがある。
まず、忍術学園に慣れてきたのか、笑顔を見かけることが多くなってから学園内では殆ど穏やかな笑顔を浮かべている彼女が、ふたりきりになるとふ、と気を緩めた顔を見せるようになったこと。
その表情の変化に気が付いてから普段彼女は意識して笑顔でいるのだと知った。
(……心配をかけないようにしているんだろうな)
そりゃそうだ。ここに来るまでの記憶がなくて、自分が本当はどんな人物かも分からなくて。不安じゃないはずがない。彼女は、そこまで強い人間ではない。それでもそのことを周りの人に悟らせまいと、心配かけまいと彼女は笑顔でいるのだろう。
そんな彼女がいじらしくて愛おしくて、無性に抱き締めたくなった。
しかし、私には気を緩めた顔を見せてくれるようになった。つまり、彼女にとって気負わなくていい相手になれたのだと思うと、何ものにも代え難いぐらい嬉しかった。
***
次に彼女から触れてくるようになったこと。
手、指、服の裾。ふとした時にそっと掴まれることが多くなった。手を軽く握ったり、人差し指や小指をそっとつまんだり。最初は触れられてドギマギしていたが、どうやら彼女が私に触れるのは無意識のようだった。
初めて彼女から手を握られた時、いつも受け身な彼女からのスキンシップに舞い上がり、思わず握られた手を強く握り返してそのまま自分の方へ引き寄せてしまった。すると彼女は頬を真っ赤に染めて恥ずかしさからか瞳を潤ませ、今にも泣きそうな顔をしていた。
その後、彼女からの握ってくれたことが嬉しかったのだと素直に話すと、自分から私の手に触れたことにひどく驚いていたことは記憶に新しい。
彼女が無意識に私に触れてくるのは恐らく安心感を求めているのだと思う。その証拠に触れてくる時はバラバラで、いつも突然だが初めて会う人がいる時や何か不安に感じているときは必ずだった。
彼女が私の手に触れてきた時に気まぐれにぎゅっと握り返してやると、自分から触れてきたくせに狼狽え、真っ赤に染まった顔でこちらを見詰めてくる。その姿と、恥ずかしそうに下がりきった眉、そしてはくはくと音になりきらない「りきちさん」の口の動きを見てつい笑ってしまうと決まって彼女は下を向いた。それでも、握った手を離さないこと、そして微かに手を握る力を強める姿に愛おしさは増していくばかりだ。
どうかこれからもずっと彼女が安心できる場所は私のとなりであってほしいと、そう願うばかりだった。
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