3
《久しぶりー。滝川、彼女出来た?》
《できてない。なんだ急に。》
《紹介してやろうか?滝川って、東京駅職場でしょ?相手の子も東京駅勤務の子だから、滝川良さそうって話なんだけど。》
「え。」
平日の夜、大学の友達から連絡が来た。碧は眠気で半ば意識を飛ばしながらスマホを弄っていたが、思わず飛び起きた。
《紹介、是非して下さい。》
《必死かw分かった。連絡しとく。》
やったー!……やった?
衝動のままに返信をして、そこではたと我に帰った。
…いいの?
今日は殿村から解放される、数少ないフリーの日だった。しかしそれ以外の日は『一ヶ月後』に向けて、碧は殿村によって開発される日々だ。
下の毛は未だほぼない。
おまけに殿村と際どい行為は結構している。というか、強要されてさせられている。
こんな自分が女の子と再び付き合えるのか?
あとこれ、殿村にバレたら…。
……ごくり
ブーブー
「うわぁ…」
不安に固唾を飲んだ時、タイミングよくスマホが震えて碧は僅かに飛び跳ねた。
《碧くん、もう家?》
「噂をすれば…。」
殿村だ。というか、最近俺のスマホは八割、殿村からのメッセージで震えている。
メッセージを受信すると、俺も別の意味で震える。
《丁度今、風呂中かな〜?》
《今度、一緒に入ろうね。》
《返事ないなぁー。もう寝ちゃったのかな…》
《でも、メッセージ、既読付いてるね(^^)?》
「…ぅ……家だよ。もう寝るところ。…っと……。」
また呆気なく、碧は殿村の無言の圧に負けてせっせと返信をしてしまった。
《そっか。お休み〜(^^)》
「…はぁ…。」
メッセージが来たら無視しない。ちゃんと読む。読んだら一言でも返事する。よせば良いのに、蒼は律儀に殿村の言いつけを守っている。
これが一番の問題だ。
碧は頭を抱えた。
認めたくもないが、自分は既に精神面で殿村に支配されている。気がする。
こんな自分が女の子ととか…笑ってしまう。
しかし逆に言うと、この機会に自分はまたノーマルな人間に戻れるかもしれない。流石に自分に彼女ができたら、殿村も諦めてくれるかもしれない。
————
「滝川くんだよね?私、宇野です。初めまして!」
結局、碧はその週末に紹介された子と会っていた。殿村にも誘われたが、先約があると断った。
「お昼にはまだ早いけど、どっかお店入る?何処か行きたい所ある?」
「私行きたいベーカリーのカフェあるんです。」
「じゃぁ、そこに行こうか。」
紹介された宇野ちゃんは、碧と同い年のボブが似合う可愛い子だった。カフェに向かう途中話すが、話もしやすいし中々いい感じ。
「宇野ちゃんも東京駅勤務なんだよね?」
「そうなんです。滝川くんもだよね?」
「うん。そう。」
「じゃ、きっと何処かで会っていたのかもだよね。」
「そうだね。」
可愛い事言うなぁ…。
会話は弾み、互いニコニコと笑顔で並んで歩いた。
「あそこのカフェです。」
宇野ちゃんの言うカフェに入ると、まだ昼前だと言うのに割と賑わっていた。
本当に人気店らしい。
「すみません、少々混んでいるので、大テーブルの席でも良いですか?」
店員に通されたのは、大きな四角いテーブルの角の席だった。ゆっくり話したいので正直微妙な席だが、角の席だし、反対隣はひと席開けてある。なにより宇野ちゃんが行きたいと言う店に来たのだから、帰るわけにも行かない。
碧たちは買ったパンとコーヒーを手に、その席へ座った。
「私、海南物産に勤めているんですけど、滝川くんの会社って同じビ…」
「え!」
その名前はトラウマだ。
大袈裟に反応する顔に、宇野ちゃんも目を丸くする。
「あ、いや、ごめん。何でもないよ。丁度今、海南物産さんと一緒に仕事しているから、反応しちゃった…。」
「そうなんだ〜。…て、あ、課長!偶然ですね!」
宇野ちゃんは急に前方を見て、驚いた声を上げた。ばさりと新聞を置く音がして、碧も前に視線を向けた。
「……。」
そしてポロリと、碧の手からサンドイッチが転がり落ちる。
「偶然だね、宇野さん。デートかな?」
目の前には事務的に笑う殿村がいた。
「はは、課長、デートだなんて…。ふふっ、まぁ、そんなものです。ふふっ…。」
「そうなの?」
あ、わ…わわわわわわわ…‼︎
はははと、笑う宇野ちゃんと殿村。仕事モードとはいえ、流石に殿村は女の子には愛想笑いしもするらしい。碧はその横で一人固まる。頭の中はパニックだ。
「滝川くん、急にごめんね。こちら、私の隣の課の課長さんで、殿村さんという方なんだ。」
「…あ……うん!知ってる!俺も知ってるよ。殿村さんね!今、うちの会社の案件で一緒に仕事しているんだ。殿村さん。そう。うんうん。知ってる。知ってる知ってる。」
「そうなんだ!まさか、殿村さんと仕事していたなんて。」
「そうそう。」
焦って早口になる碧を、ビジネスモードだからなのか、怒っているからなのか、殿村は冷たい目で見る。笑顔はない。
…きっと怒りからだ。
「あれ、課長!新聞読んでいるかと思いきや、お仕事されていたんですか?」
宇野ちゃんが驚きの声をあげた。確かに、殿村の手元には起動したノートパソコンがある。
「そうだね。私はデートを断られたので。むしゃくしゃして、仕事で気晴らししていたんだ。」
「…。」
「えぇ!課長にもそんな人が…!」
「そうだね。断られたけど、ね。」
「…。」
「ね」と殿村は碧を見た。
笑顔が怖い。
漫画だったらさしずめ、笑顔に怒りマークが付いた描写となるのだろう。
「それ、社内に知られたら大騒動ですね!課長、実は凄い人気なんですから!」
「あ、そ…、た、確かに!殿村さんってかっこいいですよね!お若いのに課長までされて!」
「…。」
よし。これで行こう。
碧は全力で殿村をヨイショする。しかし殿村は未だ、冷たい視線で碧を見下ろし笑わない。
「そうそう!やっぱり他社にまで噂になってるんだ!課長ってすごいんだよ、滝川くん。歴代最年少での課長昇進だし、この通りの見かけで社内でもモテモテなんだよ。私も、殿村さんの下で働きたかったです。」
「はは、そんな事はないでしょ。」
よし。宇野ちゃんも殿村をべた褒めで、ちょっといい感じ?
「い、いえいえ、そんな事ありますよ!殿村さんは凄いと、うちの七緒も…」
「七緒?」
あ…。不味い。
殿村に七緒という名前は地雷だった。
「う、うちでも、有名ですから!」
「そう?滝川くんは?どう?」
「勿論、尊敬しています!カッコいいし仕事が出来る殿村さんみたいになりたいです!」
「ははは、そう?嬉しいな。」
あ、持ち直したか?
殿村が軽い調子で笑った。
「あ、クロワッサンの焼きたて出てきた!滝川くん、ちょっと待っててね!買ってくる。」
「あ、ちょっ」
宇野ちゃんがバタバタと席を離れた。
碧は引き留めようと手を伸ばすが、その手が空振る。
「…。」
「…。」
手の行き場もなく、かと言って見るのも怖くて、向こうへ行った碧ちゃんを見ていたが流石にこのままではまずい。
碧が恐る恐る殿村を振り返ると、不満気に自分を見下ろす殿村と目が合う。不機嫌そうに眉を潜めている。
まだ、全然怒ってる…。
「…っ!」
しかし碧と目が合い数秒後には、殿村は冷たい顔から急にいつものニコニコ笑顔になる。その変化に碧は露骨に怯えて肩を揺らした。
笑顔怖すぎだろ…。
「碧くん、何をしているの?」
「…友達と遊んでいます。」
「ふぅん。友達と〈デート〉なんだ?」
「ほ、本当に!友達だよ。あの…健全な関係の友達です。」
「はは、本当かなぁ…?」
「…。」
殿村はニコニコと話す。
いつものこのニコニコ笑顔が嘘くさい。実際嘘だろ。
「碧くん、二枚になったね。」
「は?」
「イエローカード二枚、つまりはレッドカードだね。」
「え…。」
「宇野さんとはこの後すぐに分かれて、うちに直行してね。」
「え、あの…そ、それは…。でも、一ヶ月後の約束…。」
「碧くんはそんな事言える立場なのかな?」
「…ていうか、宇野さんは友達ですから…。健全な友達だし…。そもそも友達とも遊べないって、おかしくない?いや、おかしいだろ!そこまで干渉されても困る!」
「……。」
そうだ。おかしい。うん。おかしい!
碧の「おかしい」発言に、殿村は笑顔のまま黙った。
貼り付けた笑顔が恐ろしいが、口から出た言葉は戻せない。
ガタンッ
「ひっ」
「碧くんは、そんな事、俺に言える立場なのかな?」
「あ、うっ、す、すみません…。あっ、…っちょっと、今のは言い過ぎました。すみません。」
殿村は嘘笑顔を貼り付けた顔で、長い足を伸ばし、ぐりぐりと正面に座る碧の股間を刺激した。碧は恐怖に屈し、即座に殿村に謝る。
「で、でも…ぅっ、本当、宇野さんとは本当に、健全な友達なので…っ、」
「はは、被虐趣味。顔、赤っ。」
「うぅっ、ちがっ、ほんとっ、や、やめてっ…っ」
被虐とかそんなのじゃなくて、こんな直接的な刺激、何かしら感じでしまうだろ!
碧の声が上擦り、殿村が馬鹿にしたように笑う。
殿村の機嫌は幾分晴れたらしいが、依然として攻めてくる。テーブルの下で蒼と殿村の攻防が繰り広げられた。
「クロワッサン買えたよ〜!」
「!」
「それは良かったね。」
宇野さんが帰ってきたところで、碧はやっと殿村から解放された。
殿村は何事もなかった様にコーヒーを一口飲んだ。
「課長にも買ってきたので、お一つどうぞ!」
「ありがとう。」
殿村が笑顔で笑いかけるから、宇野さんがちょっと恥ずかしそうに顔を赤くした。
「は、はい…、滝川くんにも買ってきたよ。」
「ありがとう。」
これまでの社内での殿村を見るに、こんな笑顔レアだろうからな…。騙されてるな。
「滝川くん、この後どこ行く?」
「どこへ行くのかな、滝川さん。」
「……。」
宇野ちゃんの質問に、何故か殿村ものっかり聞いてくる。
さっき家に来いって行ったのは、お前だろ!
いや、だから聞いてくるのか…。
「ど…どうしよっか…?」
「そうだね〜。ここからなら、品川の水族館か…上野の美術館も近くていいよね〜。」
「……。」
碧の回答が気に食わなかったらしい。殿村がすっと笑顔を引っ込め、片眉を上げるのが見えた。
「そう言えば今、上野で古代エジプト展やってるって。いいよね。ちょっと気にならない?」
「そ、そだね…。」
「…。」
もはや、じとりと俺を睨む殿村に気が気でない。チラチラと殿村を見てしまい、宇野ちゃんの話が頭に入らない。
動揺で震えそうだ。
「エジプトと言えば、現代と文化もかなり違うし、面白そうだね。流石宇野さん、いい選択するね。」
ところが、急に黙っていた殿村が口を開いた。碧は冷や汗を垂らし、殿村の声に耳を傾けた。
「ふふ、そうですよね〜!その辺りって神秘的な世界で面白いですよね!」
「そうだね。古代エジプトは色々な文化発祥の時代だし…。特に美意識が強い時代で、より人間が人間らしくなった時代だよね。」
「へー!そうなんですか!」
「そうそう。あと、美意識から脱毛文化が発展したのもその時代かららしいよ。」
「脱毛?」
「眉毛以外は全て処理とかも割と一般的だったらしいよ。アンダーヘアも全部。」
「あはは、本当ですか。」
…嫌な予感がする…。
碧は縮こまって黙り、必死で平静を保ちコーヒーを啜った。
「欧米でそこの処理は一般的だけど、日本人にはちょっと不思議な感覚だよね。」
「そうですね〜。あはは、脱いでそこの毛がないと…ちょっとびっくりですね。」
「ははは、そうだね。びっくりだね。」
「…。」
「びっくりだって。滝川くん。」
「!」
「え。」
突然話を振られて、碧は一驚を喫すした。うのちゃんも、急な展開に目を丸くしている。
「…うっわ!ごめん、宇野さん、会社から連絡が入ってる!本当ごめん、俺、ちょっと抜けるね!本当にごめん!」
「あ、う、うん。大丈夫だよ。」
何処と無く、宇野さんが不審そうに俺を見る。しかしもうこれ以上は無理だ。碧は逃げる様にその店を出た。
————
ツカツカツカツカ…
「よく出来ました。」
「…。」
宇野ちゃんと別れ、駅のホームで電車を待っていると、後ろから来た殿村に急に引き寄せられて頭を撫でられた。
「今日はいっぱい気持ちよくしてやるからな。」
…何故、急に雄感だしてきた?
殿村にそう言われても、恐怖しか感じない。
もはや死んだ魚の目になっている碧の手を引き、殿村は電車に乗った。
———-
「碧くん、準備出来た?」
「…出来た。」
「じゃ、行こっか?終わったら一緒に風呂入ろうね。」
やる事やったらとっと解放して下さい。百歩譲っても風呂ぐらい一人で入らせてくれ…。
殿村なりの優しさなのか何なのか、前処理は一人でさせて貰えた。殿村はバスルームから出て来た碧の手を強めに引き、寝室に引き摺り込むとどさりとベッドに碧を寝かせた。 なんか、手荒じゃない?
そんな不満を感じて殿村を見上げ、碧は絶望する。
殿村はまだ何も始まっていないにも関わらず、息は既に乱れ明らかに興奮している。獣感が凄い。
殿村は碧に乗り上げ、余裕のない手つきで碧のバスローブを脱がした。
毎度、洒落臭いもん支給してと心の中で罵倒していたバスローブが…こんな恋しくなる日が来るとは。
「碧くん…はぁ、はぁ…く、口開けて。べって、舌出して。」
「…っ」
いつもの数倍キモ怖い。
しかしここまで来たら大人しく殿村に従い、なるべく酷くされない様にさっさと終わらせてたい。暴れてまた縛られたら、そっちの方が何倍も恐ろしい。
舌にざらりと殿村の舌が合わさり、そのままぐじゅりと口内に押し入られた。
「はぁっ…美味しい…。碧くん、美味しいっ‼︎」
「…。」
顔は綺麗なのに。本当、言動が気持ち悪いなこの人。
「…あっ‼︎」
そんな白けた目で殿村を見ていると、殿村が急に後ろに指を入れてくる。
「…っ、ふっ、」
「大丈夫だよ、碧くん。大丈夫大丈夫‼︎また、碧くんの良いとこだけ触ってあげるから。」
ハァハァ息を乱した殿村が言う。はっきり言って全然大丈夫ではない。殿村の目は血走っておりめっちゃ怖い。
「…ぅっ」
しないと一ヶ月後に血を見ると脅され、散々殿村に色々と突っ込まれ開発されただけあり、痛みはないが恐怖が大きい。
何より興奮した殿村が獣じみており怖い。
「…っ、ん!」
「ふふっ、ここ好きだもんね。あ〜めっちゃ可愛いぃ…‼︎」
「か、楓くん…」
「ん 何?」
「せめて、電気消して…恥ずかしぃっ。」
「…。」
煌々と光の灯る室内では、情けない顔と、哀れに剃られた局部が丸見えだ。顔を腕で隠し、縋るように殿村に頼んだ。しかし殿村の反応はない。
「か、楓く…ふっ‼︎」
どうしたのかと薄目を開けた瞬間、ガバリと殿村に襲われキスされる。
「はー、はー、碧くん、可愛い!あぁ、可愛すぎる‼︎はぁ…、抑え効かなくなったらごめん。てか、無理!自制できん‼︎なるべく気をつけるから、きつかったら言えな?」
「え?じゃ、じゃあ、もうこの状況がきつ…あ!」
ハァハァと酷く激して、殿村は一気に碧の中へ突き入れた。
もうキツいと自己申告したのに!
内心罵倒して、異物感に鳥肌が立つが、直ぐに良いところを突かれて快感が押し寄せてくる。
「うっ…はぁっ…あっ、き、やだ…〜っ!」
「はぁ、はぁっ、碧、碧っ!」
「ふっ、ん」
殿村はもはや獣だった。烈烈と動き、碧に荒いキスをしてくる。殿村の行為の衝撃が激しくて、碧の体がガクガクと激しく揺らぎシーツにシワを作る。
怖い。同時に酷く気持ちが良い。頭が混乱する。
「あっ、やっ、ちょ…っ、んんっ‼︎」
あ、出た。
碧は呆気なく達する。しかし殿村は未だなようだ。一向に動きの激しさが治らない。
「ねっ、か、…んっ、〜〜っ、うぅ、楓くん、気持ちいい…っ」
「碧…!」
「やっ、から、やめ…っ!」
何でだよ!
止まれと言ったつもりがまたキスされる。ちゅっちゅっとしつこいので、碧の言葉が意味を成す間がない。
全然止まらないし。
あぁ、また一つ、新しい扉をこじ開けられてしまった。
————
「碧くん、気持ちよかったね〜。やっぱり、愛のあるえっちは違うね!」
「愛…あったの…。」
「なかったの?あれ?伝わらなかった?」
「ありましたね。感動しました。」
愛のあるって…。お前がハァハァ言っていたのは覚えている。
事後、殿村と碧は結局一緒に風呂に入っていた。というか、後ろが痛過ぎて一人で入れなかった。殿村が湯船で足を伸ばして座り、その間に座る。差し詰め、人間ドーナツクッションだ。この人はただの椅子。自分に言い聞かせるが、腰にゆらゆら当たるものに先程の行為を思い出して妙な気分になる。
「はぁ〜、晴れて俺たちは恋人だね。」
「そうでしたね…。」
満足気な声を出す殿村に、抱きしめられて、もはや諦めの境地だ。
レッドカード、早かったな。
「楓くんは、付き合うと何かルールとかあるの?」
「ルール?」
「そう。これはしちゃダメとか、こうしよう、とか。」
こうなったら、ルール内でなんとか上手くやりくりするしかない。
何にしても、コンペが終われば殿村ともおさらばだ。
「うーん。パッと思いつかないけど、俺以外と浮気は禁止、男又は女と二人きりで会うの禁止、メッセージは無視しない、嘘はつかない、俺第一に行動する、金曜日から日曜日はどちらかの家に泊まる。週に数回は夕食を一緒に食べる。可能な限りセックスはする。とか?」
「け、結構多いね…。」
つらつらと述べる殿村に、碧は顔を硬らせた。
抜け道どころか、全部塞がれている。道がない。パッと思いついただけで多すぎだ。
「じゃ、湯冷めしてもだし、お風呂上がろっか!」
「あ、いって。」
「ごめん!抱えてあげるね。」
碧はどこか嬉しそうな殿村に抱えられ、風呂を出た。
「碧くんの髪も、俺が毎日乾かすね!」
風呂から上がると、殿村が碧の髪を乾かしながらまた嬉しそうに話した。
「…会った時はな…。」
「ふふ、そうだね。」
ニコニコと笑って、殿村は碧の髪を乾かした。長い指が碧の頭皮を傷つけないように優しく乾かす。トリミングされる犬みたいな、大事にされている恋人みたいな。いや、犬だ。またうっかり流されて、絆されるところだった。
あぁ、それにしても、ふわふわと暖かくて、心地良くて…眠い。
———-
超えてはいけない一線というもは何にでもある。
殿村との一線はあの日だった。
「ふっ、ん」
「あぁ、可愛いっ!今、碧くんのがきゅんってなった!」
「あっ、ちょっ、〜〜っ!」
一回やってから、殿村は遠慮をなくしたらしい。しつこい。泊まりに行くと、というか無理矢理連れ込まれると、大体いつも襲われる。
「もう、やだっ、はっ…っぅ、やめて…っ!」
「無理。」
「〜〜っ!」
そして碧の体も徐々に慣れて、最近やたら気持ち良くてそれが怖かった。
自分の中にある、今までの自分が塗り替えられていく。
ベッドの上、後ろから碧を攻めていた殿村は、逃げる碧の体を強引に引き戻してまた律動を強めた。その刺激に碧の腰が砕けると、殿村は引く腰を引き上げこれ幸いと更に好き勝手に動く。
「はぁっ、好き!碧くん、碧、碧…!好きっ!」
「うぅ〜っ‼︎もう、やめて…っ」
殿村は腰を打ちつけながらも、器用に碧の項に口付ける。
「あっ、やっ、あっ、あ、また、く、くるっ〜〜っ!もう、むりぃ…っ」
「ふふ、碧くん、無理じゃないでしょ。はっ、気持ち良い時はっ、ほら、教えたでしょ?」
「〜〜っ!」
「ほらっ、言えって。」
心持ち声を低くした殿村がぐりぐりと碧の一番弱い所を攻めた。
「っ‼︎‼︎あ、ごめっ、あっ、ごめんなさっ!あ、気持ち、良い、気持ちいいですっ〜〜〜っ!」
不味い事に、殿村による碧のメンタル支配も確実に進んでいた。
満足気な殿村の吐息が聞こえ、へたり込んだ碧の腰を再び抱え直す。殿村はまた続けるらしい。碧はその快感に歯を食いしばり耐えた。
「碧、幸せだね。」
殿村はそんな碧にまた挿入し、震える背中にキスを落とす。
殿村は幸せらしい。
《できてない。なんだ急に。》
《紹介してやろうか?滝川って、東京駅職場でしょ?相手の子も東京駅勤務の子だから、滝川良さそうって話なんだけど。》
「え。」
平日の夜、大学の友達から連絡が来た。碧は眠気で半ば意識を飛ばしながらスマホを弄っていたが、思わず飛び起きた。
《紹介、是非して下さい。》
《必死かw分かった。連絡しとく。》
やったー!……やった?
衝動のままに返信をして、そこではたと我に帰った。
…いいの?
今日は殿村から解放される、数少ないフリーの日だった。しかしそれ以外の日は『一ヶ月後』に向けて、碧は殿村によって開発される日々だ。
下の毛は未だほぼない。
おまけに殿村と際どい行為は結構している。というか、強要されてさせられている。
こんな自分が女の子と再び付き合えるのか?
あとこれ、殿村にバレたら…。
……ごくり
ブーブー
「うわぁ…」
不安に固唾を飲んだ時、タイミングよくスマホが震えて碧は僅かに飛び跳ねた。
《碧くん、もう家?》
「噂をすれば…。」
殿村だ。というか、最近俺のスマホは八割、殿村からのメッセージで震えている。
メッセージを受信すると、俺も別の意味で震える。
《丁度今、風呂中かな〜?》
《今度、一緒に入ろうね。》
《返事ないなぁー。もう寝ちゃったのかな…》
《でも、メッセージ、既読付いてるね(^^)?》
「…ぅ……家だよ。もう寝るところ。…っと……。」
また呆気なく、碧は殿村の無言の圧に負けてせっせと返信をしてしまった。
《そっか。お休み〜(^^)》
「…はぁ…。」
メッセージが来たら無視しない。ちゃんと読む。読んだら一言でも返事する。よせば良いのに、蒼は律儀に殿村の言いつけを守っている。
これが一番の問題だ。
碧は頭を抱えた。
認めたくもないが、自分は既に精神面で殿村に支配されている。気がする。
こんな自分が女の子ととか…笑ってしまう。
しかし逆に言うと、この機会に自分はまたノーマルな人間に戻れるかもしれない。流石に自分に彼女ができたら、殿村も諦めてくれるかもしれない。
————
「滝川くんだよね?私、宇野です。初めまして!」
結局、碧はその週末に紹介された子と会っていた。殿村にも誘われたが、先約があると断った。
「お昼にはまだ早いけど、どっかお店入る?何処か行きたい所ある?」
「私行きたいベーカリーのカフェあるんです。」
「じゃぁ、そこに行こうか。」
紹介された宇野ちゃんは、碧と同い年のボブが似合う可愛い子だった。カフェに向かう途中話すが、話もしやすいし中々いい感じ。
「宇野ちゃんも東京駅勤務なんだよね?」
「そうなんです。滝川くんもだよね?」
「うん。そう。」
「じゃ、きっと何処かで会っていたのかもだよね。」
「そうだね。」
可愛い事言うなぁ…。
会話は弾み、互いニコニコと笑顔で並んで歩いた。
「あそこのカフェです。」
宇野ちゃんの言うカフェに入ると、まだ昼前だと言うのに割と賑わっていた。
本当に人気店らしい。
「すみません、少々混んでいるので、大テーブルの席でも良いですか?」
店員に通されたのは、大きな四角いテーブルの角の席だった。ゆっくり話したいので正直微妙な席だが、角の席だし、反対隣はひと席開けてある。なにより宇野ちゃんが行きたいと言う店に来たのだから、帰るわけにも行かない。
碧たちは買ったパンとコーヒーを手に、その席へ座った。
「私、海南物産に勤めているんですけど、滝川くんの会社って同じビ…」
「え!」
その名前はトラウマだ。
大袈裟に反応する顔に、宇野ちゃんも目を丸くする。
「あ、いや、ごめん。何でもないよ。丁度今、海南物産さんと一緒に仕事しているから、反応しちゃった…。」
「そうなんだ〜。…て、あ、課長!偶然ですね!」
宇野ちゃんは急に前方を見て、驚いた声を上げた。ばさりと新聞を置く音がして、碧も前に視線を向けた。
「……。」
そしてポロリと、碧の手からサンドイッチが転がり落ちる。
「偶然だね、宇野さん。デートかな?」
目の前には事務的に笑う殿村がいた。
「はは、課長、デートだなんて…。ふふっ、まぁ、そんなものです。ふふっ…。」
「そうなの?」
あ、わ…わわわわわわわ…‼︎
はははと、笑う宇野ちゃんと殿村。仕事モードとはいえ、流石に殿村は女の子には愛想笑いしもするらしい。碧はその横で一人固まる。頭の中はパニックだ。
「滝川くん、急にごめんね。こちら、私の隣の課の課長さんで、殿村さんという方なんだ。」
「…あ……うん!知ってる!俺も知ってるよ。殿村さんね!今、うちの会社の案件で一緒に仕事しているんだ。殿村さん。そう。うんうん。知ってる。知ってる知ってる。」
「そうなんだ!まさか、殿村さんと仕事していたなんて。」
「そうそう。」
焦って早口になる碧を、ビジネスモードだからなのか、怒っているからなのか、殿村は冷たい目で見る。笑顔はない。
…きっと怒りからだ。
「あれ、課長!新聞読んでいるかと思いきや、お仕事されていたんですか?」
宇野ちゃんが驚きの声をあげた。確かに、殿村の手元には起動したノートパソコンがある。
「そうだね。私はデートを断られたので。むしゃくしゃして、仕事で気晴らししていたんだ。」
「…。」
「えぇ!課長にもそんな人が…!」
「そうだね。断られたけど、ね。」
「…。」
「ね」と殿村は碧を見た。
笑顔が怖い。
漫画だったらさしずめ、笑顔に怒りマークが付いた描写となるのだろう。
「それ、社内に知られたら大騒動ですね!課長、実は凄い人気なんですから!」
「あ、そ…、た、確かに!殿村さんってかっこいいですよね!お若いのに課長までされて!」
「…。」
よし。これで行こう。
碧は全力で殿村をヨイショする。しかし殿村は未だ、冷たい視線で碧を見下ろし笑わない。
「そうそう!やっぱり他社にまで噂になってるんだ!課長ってすごいんだよ、滝川くん。歴代最年少での課長昇進だし、この通りの見かけで社内でもモテモテなんだよ。私も、殿村さんの下で働きたかったです。」
「はは、そんな事はないでしょ。」
よし。宇野ちゃんも殿村をべた褒めで、ちょっといい感じ?
「い、いえいえ、そんな事ありますよ!殿村さんは凄いと、うちの七緒も…」
「七緒?」
あ…。不味い。
殿村に七緒という名前は地雷だった。
「う、うちでも、有名ですから!」
「そう?滝川くんは?どう?」
「勿論、尊敬しています!カッコいいし仕事が出来る殿村さんみたいになりたいです!」
「ははは、そう?嬉しいな。」
あ、持ち直したか?
殿村が軽い調子で笑った。
「あ、クロワッサンの焼きたて出てきた!滝川くん、ちょっと待っててね!買ってくる。」
「あ、ちょっ」
宇野ちゃんがバタバタと席を離れた。
碧は引き留めようと手を伸ばすが、その手が空振る。
「…。」
「…。」
手の行き場もなく、かと言って見るのも怖くて、向こうへ行った碧ちゃんを見ていたが流石にこのままではまずい。
碧が恐る恐る殿村を振り返ると、不満気に自分を見下ろす殿村と目が合う。不機嫌そうに眉を潜めている。
まだ、全然怒ってる…。
「…っ!」
しかし碧と目が合い数秒後には、殿村は冷たい顔から急にいつものニコニコ笑顔になる。その変化に碧は露骨に怯えて肩を揺らした。
笑顔怖すぎだろ…。
「碧くん、何をしているの?」
「…友達と遊んでいます。」
「ふぅん。友達と〈デート〉なんだ?」
「ほ、本当に!友達だよ。あの…健全な関係の友達です。」
「はは、本当かなぁ…?」
「…。」
殿村はニコニコと話す。
いつものこのニコニコ笑顔が嘘くさい。実際嘘だろ。
「碧くん、二枚になったね。」
「は?」
「イエローカード二枚、つまりはレッドカードだね。」
「え…。」
「宇野さんとはこの後すぐに分かれて、うちに直行してね。」
「え、あの…そ、それは…。でも、一ヶ月後の約束…。」
「碧くんはそんな事言える立場なのかな?」
「…ていうか、宇野さんは友達ですから…。健全な友達だし…。そもそも友達とも遊べないって、おかしくない?いや、おかしいだろ!そこまで干渉されても困る!」
「……。」
そうだ。おかしい。うん。おかしい!
碧の「おかしい」発言に、殿村は笑顔のまま黙った。
貼り付けた笑顔が恐ろしいが、口から出た言葉は戻せない。
ガタンッ
「ひっ」
「碧くんは、そんな事、俺に言える立場なのかな?」
「あ、うっ、す、すみません…。あっ、…っちょっと、今のは言い過ぎました。すみません。」
殿村は嘘笑顔を貼り付けた顔で、長い足を伸ばし、ぐりぐりと正面に座る碧の股間を刺激した。碧は恐怖に屈し、即座に殿村に謝る。
「で、でも…ぅっ、本当、宇野さんとは本当に、健全な友達なので…っ、」
「はは、被虐趣味。顔、赤っ。」
「うぅっ、ちがっ、ほんとっ、や、やめてっ…っ」
被虐とかそんなのじゃなくて、こんな直接的な刺激、何かしら感じでしまうだろ!
碧の声が上擦り、殿村が馬鹿にしたように笑う。
殿村の機嫌は幾分晴れたらしいが、依然として攻めてくる。テーブルの下で蒼と殿村の攻防が繰り広げられた。
「クロワッサン買えたよ〜!」
「!」
「それは良かったね。」
宇野さんが帰ってきたところで、碧はやっと殿村から解放された。
殿村は何事もなかった様にコーヒーを一口飲んだ。
「課長にも買ってきたので、お一つどうぞ!」
「ありがとう。」
殿村が笑顔で笑いかけるから、宇野さんがちょっと恥ずかしそうに顔を赤くした。
「は、はい…、滝川くんにも買ってきたよ。」
「ありがとう。」
これまでの社内での殿村を見るに、こんな笑顔レアだろうからな…。騙されてるな。
「滝川くん、この後どこ行く?」
「どこへ行くのかな、滝川さん。」
「……。」
宇野ちゃんの質問に、何故か殿村ものっかり聞いてくる。
さっき家に来いって行ったのは、お前だろ!
いや、だから聞いてくるのか…。
「ど…どうしよっか…?」
「そうだね〜。ここからなら、品川の水族館か…上野の美術館も近くていいよね〜。」
「……。」
碧の回答が気に食わなかったらしい。殿村がすっと笑顔を引っ込め、片眉を上げるのが見えた。
「そう言えば今、上野で古代エジプト展やってるって。いいよね。ちょっと気にならない?」
「そ、そだね…。」
「…。」
もはや、じとりと俺を睨む殿村に気が気でない。チラチラと殿村を見てしまい、宇野ちゃんの話が頭に入らない。
動揺で震えそうだ。
「エジプトと言えば、現代と文化もかなり違うし、面白そうだね。流石宇野さん、いい選択するね。」
ところが、急に黙っていた殿村が口を開いた。碧は冷や汗を垂らし、殿村の声に耳を傾けた。
「ふふ、そうですよね〜!その辺りって神秘的な世界で面白いですよね!」
「そうだね。古代エジプトは色々な文化発祥の時代だし…。特に美意識が強い時代で、より人間が人間らしくなった時代だよね。」
「へー!そうなんですか!」
「そうそう。あと、美意識から脱毛文化が発展したのもその時代かららしいよ。」
「脱毛?」
「眉毛以外は全て処理とかも割と一般的だったらしいよ。アンダーヘアも全部。」
「あはは、本当ですか。」
…嫌な予感がする…。
碧は縮こまって黙り、必死で平静を保ちコーヒーを啜った。
「欧米でそこの処理は一般的だけど、日本人にはちょっと不思議な感覚だよね。」
「そうですね〜。あはは、脱いでそこの毛がないと…ちょっとびっくりですね。」
「ははは、そうだね。びっくりだね。」
「…。」
「びっくりだって。滝川くん。」
「!」
「え。」
突然話を振られて、碧は一驚を喫すした。うのちゃんも、急な展開に目を丸くしている。
「…うっわ!ごめん、宇野さん、会社から連絡が入ってる!本当ごめん、俺、ちょっと抜けるね!本当にごめん!」
「あ、う、うん。大丈夫だよ。」
何処と無く、宇野さんが不審そうに俺を見る。しかしもうこれ以上は無理だ。碧は逃げる様にその店を出た。
————
ツカツカツカツカ…
「よく出来ました。」
「…。」
宇野ちゃんと別れ、駅のホームで電車を待っていると、後ろから来た殿村に急に引き寄せられて頭を撫でられた。
「今日はいっぱい気持ちよくしてやるからな。」
…何故、急に雄感だしてきた?
殿村にそう言われても、恐怖しか感じない。
もはや死んだ魚の目になっている碧の手を引き、殿村は電車に乗った。
———-
「碧くん、準備出来た?」
「…出来た。」
「じゃ、行こっか?終わったら一緒に風呂入ろうね。」
やる事やったらとっと解放して下さい。百歩譲っても風呂ぐらい一人で入らせてくれ…。
殿村なりの優しさなのか何なのか、前処理は一人でさせて貰えた。殿村はバスルームから出て来た碧の手を強めに引き、寝室に引き摺り込むとどさりとベッドに碧を寝かせた。 なんか、手荒じゃない?
そんな不満を感じて殿村を見上げ、碧は絶望する。
殿村はまだ何も始まっていないにも関わらず、息は既に乱れ明らかに興奮している。獣感が凄い。
殿村は碧に乗り上げ、余裕のない手つきで碧のバスローブを脱がした。
毎度、洒落臭いもん支給してと心の中で罵倒していたバスローブが…こんな恋しくなる日が来るとは。
「碧くん…はぁ、はぁ…く、口開けて。べって、舌出して。」
「…っ」
いつもの数倍キモ怖い。
しかしここまで来たら大人しく殿村に従い、なるべく酷くされない様にさっさと終わらせてたい。暴れてまた縛られたら、そっちの方が何倍も恐ろしい。
舌にざらりと殿村の舌が合わさり、そのままぐじゅりと口内に押し入られた。
「はぁっ…美味しい…。碧くん、美味しいっ‼︎」
「…。」
顔は綺麗なのに。本当、言動が気持ち悪いなこの人。
「…あっ‼︎」
そんな白けた目で殿村を見ていると、殿村が急に後ろに指を入れてくる。
「…っ、ふっ、」
「大丈夫だよ、碧くん。大丈夫大丈夫‼︎また、碧くんの良いとこだけ触ってあげるから。」
ハァハァ息を乱した殿村が言う。はっきり言って全然大丈夫ではない。殿村の目は血走っておりめっちゃ怖い。
「…ぅっ」
しないと一ヶ月後に血を見ると脅され、散々殿村に色々と突っ込まれ開発されただけあり、痛みはないが恐怖が大きい。
何より興奮した殿村が獣じみており怖い。
「…っ、ん!」
「ふふっ、ここ好きだもんね。あ〜めっちゃ可愛いぃ…‼︎」
「か、楓くん…」
「ん 何?」
「せめて、電気消して…恥ずかしぃっ。」
「…。」
煌々と光の灯る室内では、情けない顔と、哀れに剃られた局部が丸見えだ。顔を腕で隠し、縋るように殿村に頼んだ。しかし殿村の反応はない。
「か、楓く…ふっ‼︎」
どうしたのかと薄目を開けた瞬間、ガバリと殿村に襲われキスされる。
「はー、はー、碧くん、可愛い!あぁ、可愛すぎる‼︎はぁ…、抑え効かなくなったらごめん。てか、無理!自制できん‼︎なるべく気をつけるから、きつかったら言えな?」
「え?じゃ、じゃあ、もうこの状況がきつ…あ!」
ハァハァと酷く激して、殿村は一気に碧の中へ突き入れた。
もうキツいと自己申告したのに!
内心罵倒して、異物感に鳥肌が立つが、直ぐに良いところを突かれて快感が押し寄せてくる。
「うっ…はぁっ…あっ、き、やだ…〜っ!」
「はぁ、はぁっ、碧、碧っ!」
「ふっ、ん」
殿村はもはや獣だった。烈烈と動き、碧に荒いキスをしてくる。殿村の行為の衝撃が激しくて、碧の体がガクガクと激しく揺らぎシーツにシワを作る。
怖い。同時に酷く気持ちが良い。頭が混乱する。
「あっ、やっ、ちょ…っ、んんっ‼︎」
あ、出た。
碧は呆気なく達する。しかし殿村は未だなようだ。一向に動きの激しさが治らない。
「ねっ、か、…んっ、〜〜っ、うぅ、楓くん、気持ちいい…っ」
「碧…!」
「やっ、から、やめ…っ!」
何でだよ!
止まれと言ったつもりがまたキスされる。ちゅっちゅっとしつこいので、碧の言葉が意味を成す間がない。
全然止まらないし。
あぁ、また一つ、新しい扉をこじ開けられてしまった。
————
「碧くん、気持ちよかったね〜。やっぱり、愛のあるえっちは違うね!」
「愛…あったの…。」
「なかったの?あれ?伝わらなかった?」
「ありましたね。感動しました。」
愛のあるって…。お前がハァハァ言っていたのは覚えている。
事後、殿村と碧は結局一緒に風呂に入っていた。というか、後ろが痛過ぎて一人で入れなかった。殿村が湯船で足を伸ばして座り、その間に座る。差し詰め、人間ドーナツクッションだ。この人はただの椅子。自分に言い聞かせるが、腰にゆらゆら当たるものに先程の行為を思い出して妙な気分になる。
「はぁ〜、晴れて俺たちは恋人だね。」
「そうでしたね…。」
満足気な声を出す殿村に、抱きしめられて、もはや諦めの境地だ。
レッドカード、早かったな。
「楓くんは、付き合うと何かルールとかあるの?」
「ルール?」
「そう。これはしちゃダメとか、こうしよう、とか。」
こうなったら、ルール内でなんとか上手くやりくりするしかない。
何にしても、コンペが終われば殿村ともおさらばだ。
「うーん。パッと思いつかないけど、俺以外と浮気は禁止、男又は女と二人きりで会うの禁止、メッセージは無視しない、嘘はつかない、俺第一に行動する、金曜日から日曜日はどちらかの家に泊まる。週に数回は夕食を一緒に食べる。可能な限りセックスはする。とか?」
「け、結構多いね…。」
つらつらと述べる殿村に、碧は顔を硬らせた。
抜け道どころか、全部塞がれている。道がない。パッと思いついただけで多すぎだ。
「じゃ、湯冷めしてもだし、お風呂上がろっか!」
「あ、いって。」
「ごめん!抱えてあげるね。」
碧はどこか嬉しそうな殿村に抱えられ、風呂を出た。
「碧くんの髪も、俺が毎日乾かすね!」
風呂から上がると、殿村が碧の髪を乾かしながらまた嬉しそうに話した。
「…会った時はな…。」
「ふふ、そうだね。」
ニコニコと笑って、殿村は碧の髪を乾かした。長い指が碧の頭皮を傷つけないように優しく乾かす。トリミングされる犬みたいな、大事にされている恋人みたいな。いや、犬だ。またうっかり流されて、絆されるところだった。
あぁ、それにしても、ふわふわと暖かくて、心地良くて…眠い。
———-
超えてはいけない一線というもは何にでもある。
殿村との一線はあの日だった。
「ふっ、ん」
「あぁ、可愛いっ!今、碧くんのがきゅんってなった!」
「あっ、ちょっ、〜〜っ!」
一回やってから、殿村は遠慮をなくしたらしい。しつこい。泊まりに行くと、というか無理矢理連れ込まれると、大体いつも襲われる。
「もう、やだっ、はっ…っぅ、やめて…っ!」
「無理。」
「〜〜っ!」
そして碧の体も徐々に慣れて、最近やたら気持ち良くてそれが怖かった。
自分の中にある、今までの自分が塗り替えられていく。
ベッドの上、後ろから碧を攻めていた殿村は、逃げる碧の体を強引に引き戻してまた律動を強めた。その刺激に碧の腰が砕けると、殿村は引く腰を引き上げこれ幸いと更に好き勝手に動く。
「はぁっ、好き!碧くん、碧、碧…!好きっ!」
「うぅ〜っ‼︎もう、やめて…っ」
殿村は腰を打ちつけながらも、器用に碧の項に口付ける。
「あっ、やっ、あっ、あ、また、く、くるっ〜〜っ!もう、むりぃ…っ」
「ふふ、碧くん、無理じゃないでしょ。はっ、気持ち良い時はっ、ほら、教えたでしょ?」
「〜〜っ!」
「ほらっ、言えって。」
心持ち声を低くした殿村がぐりぐりと碧の一番弱い所を攻めた。
「っ‼︎‼︎あ、ごめっ、あっ、ごめんなさっ!あ、気持ち、良い、気持ちいいですっ〜〜〜っ!」
不味い事に、殿村による碧のメンタル支配も確実に進んでいた。
満足気な殿村の吐息が聞こえ、へたり込んだ碧の腰を再び抱え直す。殿村はまた続けるらしい。碧はその快感に歯を食いしばり耐えた。
「碧、幸せだね。」
殿村はそんな碧にまた挿入し、震える背中にキスを落とす。
殿村は幸せらしい。