しあわせの香り

三木さんがこちらへと寄ってくる。
その姿をどこか他人事のように見詰めていた俺は、同じく目を開けたまま俺に口付けをする三木さんを見ることになった。

勿論焦点なんて全く合わなくて、表情とかそういうのは全然分からなかったけれど。
直ぐに離れた三木さんが相馬、と言って溜息を吐く。

「お前何で目ぇ開けてんだよ」
「だって、三木さんが近付いてきたから……」
「だから! 俺が近付いたら何するかくらい分かんだろ?」
「でも、三木さんのこと見てたかったですし」

そう言うと三木さんは少しだけ困ったような顔をする。
これが彼なりの照れている表情だと知っているのは、新選組の中でもきっと俺だけだ。
いや、伊東さんはもしかしたら知ってるかもしれないけれど、出来たら俺だけであって欲しい。

「俺が瞑らなくても、三木さんが目を閉じれば良くないですか?」

思い付いた提案を口にすれば、俺もお前を見てたかったんだよと言われて言葉を失う。
普段は冷たいくせに、二人きりになった時だけこんなことを言うのは止めて欲しい。心臓が持たない。
黙ってしまった俺を、不意に三木さんが抱き締める。

「えっ、三木さん?」

じんわりと伝わってくる彼の体温を喜んだのも束の間、次の三木さんの言葉で俺の心は一瞬で冷えた。

「やっぱ俺、駄目だわ」

駄目?
駄目って何の話だろう……もしかして、俺とこういう関係でいることが? やっぱり男同士なんて無理だと思ったのだろうか。今更そんなことを言われても、俺の方は気持ちを切り替えられそうにないのに……。
不安に胸を締め付けられている俺の鼓膜を、三木さんのうんざりしたような声が震わせる。

「やっぱ俺、相馬無しじゃ駄目だわ」

え? と思う間も無く、三木さんがもう一度口付けを落とす。

「お前のことなんか、好きになるつもりなんて無かったのによ」

離れた唇からは舌打ちが漏れてきた。三木さんのこれは、怒っているのだろうか。それとも照れているのだろうか。
三木さんの表情は分かってきたつもりだったのに、今の状況はよく分からない。俺は一体どう答えるのが正解なのだろう。

「えっと、あの、三木さん……?」

疑問符付きで名前を呼ぶと、あー苛々すんなぁと三木さんが呟く。それから俺の鼻をちょっと抓んで、責任取れよと怒ってきた。責任? 何の……

「お前も、もっと俺のこと好きになれよ?」

俺ばっかりなんて冗談じゃねぇ、と腹立たしげに言われてやっぱり胸が締め付けられる。幸せ過ぎてどうしたら良いのか分からない。

俺の方が絶対三木さんを好きですよと伝えたかったのに、三木さんがまた力強く俺を抱き締めてくるから、苦しくて言葉が出せなくなってしまった。
俺も三木さんの背中に腕を回し、縋るように抱き付いてからゆっくりと息を吐く。
吸い込む時に三木さんの匂いがして、どうしてだか泣きそうになった。

2016.05.17
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