盲目の真実*
※三木×相馬前提の武田→三木武田から強張った声で好きだと告げられたのがつい先程で、はぁ? 何言ってんだお前、と嘲笑ったのがその数秒後だった。
打算しか無い男からの、何の得にもならない俺への告白が本気なのだと分かってはいたけれど、俺には相馬という恋人が居るから応える訳にはいかない。
今日だって相馬と時間を合わせ、夜の町へと繰り出している。
この俺が、わざわざ時間を作ってまで逢おうと思う他人なんて相馬だけだ。俺の数歩後を付いて来る相馬を、可愛いと思う。
賑わう町中を抜け、寂れた宿へと静かに入った。
金さえ払えば客になんて無頓着なこの場所は、狭苦しいのに俺を開放的な気持ちにさせる。
部屋に入るなり相馬を抱き締めて、三木さん苦しいですと言われるのはいつものことだ。
二人になれて嬉しかったんだよと言えば、俺もですと相馬が微笑む。俺だけに向けられるその笑顔は嘘みたいに綺麗で、いつもだったら見惚れてしまうのに、この時俺の頭を掠めたのは泣きそうな武田の表情だった。
頭を振ってその考えを振り払う。
どうかしたんですかと首を傾げた相馬はやっぱり可愛くて、何でもねぇよと目の前の腕を引いた。
再び胸に抱き込んだ相馬の首筋を、唐突に舐める。
高い声が上がり、な、何するんですかと驚く声がやっぱり可愛い。
「お前とする事なんて、決まってんだろ?」
「そ、そうですけど……」
「……抱きたい」
単刀直入に告げれば長い睫毛を震わせて、恥ずかしそうに視線を逸らす仕草は何度見ても色っぽくて、いいだろ? と訊ねる俺の声には自然と熱が籠っていた。
「い……い、です、けど」と素直に了承しない態度が俺を煽っているなんて、相馬本人は気付いていないのだろう。
「なら、もっとこっち寄れよ」
わざと楽しそうな声を出して、相馬の肩を抱き寄せた。
密着した状態で、ゆっくりと相馬の帯を解いていく。じわじわと脱がせていくと、相馬は酷く恥ずかしがるからそれが楽しい。
「あの、自分で脱ぎますから……」
とうとう相馬が音を上げたけれど、俺は駄目だと一蹴する。
何かを言いたげに薄く開かれた唇と、潤んだ目で俺を見上げるその表情が堪らない。
あぁなのに、どうしてまた武田の顔が過るんだ。
あいつのことなんて忘れようと相馬の首筋に噛み付いた。痛っ、と上がる高い声と立ち上る相馬の匂いに眩暈がする。
噛んだ場所をいやらしく舐め上げれば直ぐに相馬からは喘ぎ声が漏れて、肌蹴させた素肌に直接触れれば身を捩らせて悶え始めた。
その姿が、尋常でない色気を放っている。
普段の相馬は無駄とも思える程に真面目だから、誰にも注意などされていないのに着物はきっちりと着込んでいるし、余り肌を露出させない。
だから相馬の乱れる姿を連想する者など一人として居ないだろうし、知っているのは俺だけだ。
常との違いと、俺だけしか知らない背徳感がまたそそる。
堪らず敷かれていた薄い布団へと押し倒して、相馬の色んな場所を音を立てて吸い上げると、その度に震える高い声で抵抗された。けれど所詮は口だけで、相馬の手は、腕は、もっとと強請って俺を誘う。
こいつは案外、快感に弱い。
だからもしかして、俺以外の奴に誘われても相馬は乗るのではないかと不安になる。
例えば、近藤に取り入りたがっている武田とか……
そう思ってまた俺に好きだと言ったあいつの顔を思い出してしまった。
何なんだよ俺は、馬鹿じゃないのか?今は目の前に居るこいつのことだけ考えればいいだろ。
そう思えば思う程に気持ちは散漫になって、手っ取り早く気持ちを戻す為に俺は相馬の中心へと触れた。
既に熱を持ったそれは程良く芯が通っていて、いやらしい身体に笑みが零れる。
「もうこんなにして、何考えてたんだ?」
「言わな、、で、下さ……」
「今更恥ずかしがんなよ」
「……み、三木さんのこと、考えて、ました……」
相馬のこういう所を、可愛いと思う。
本当は言いたくなんか無いくせに、根が真面目だから人からの質問を無視なんて出来ないんだ。
まだ取り去っていなかった下帯の上から相馬のそこを擦ると、更に芯が硬くなった。びくびくと震える身体がそれだけでは足りないと言っている。
「おい、手で触んのと舐めんの、どっちがいい?」
一応質問はしてやるが、相馬の答えは分かっている。
こいつは絶対手が良いと言うんだ。舐められるのは恥ずかし過ぎて耐えられないらしい。案の定、相馬は短い息を一つ吐いてから、手で……と小さな声で呟いた。
いつもだったらそうしてやる所だが、今夜はもっと乱れる相馬を見たくなった。
きっと、こいつの声の所為だ。今の恥ずかしそうに掠れた声がやけに耳に残って、じわじわと俺の内部から欲望が増していく。
下帯を外せば、隠しようの無い男の欲が露わになった。
「すげぇ濡れてんな」
揶揄うように言えば、相馬が息を詰める。
もう何度もこんなことをしているのに、未だ初心な反応を示す所が愛しくてしょうがない。
相馬が腕で顔を隠す。その手を無理矢理どけてみれば、薄らと涙を浮かべていた。
その表情を可愛いと思う……思うのに、この時の俺はまたあの野暮ったい男を思い出していた。
その考えを振り払いたくて、直ぐに相馬のものを咥える。驚く相馬の声と、それに続く「舐めるのは止めて下さい」という懇願は無視した。
俺だって、相馬のだから舐められるんだ。他の奴のなんか冗談じゃねぇ、考えただけで吐き気がする。
それを相馬は知っているのだろうか。
いや、それだけじゃない。
俺は相馬の感じる場所も知ってるし、どうすれば悦ぶのかも知っているけれど、相馬は俺のことを知っているだろうか――
いつも我慢出来ずに挿れていたから、俺のどこが弱いだとか敏感だとか、相馬はもしかしたら知らないかもしれない。
それ以前に多分、俺自身も知らない。
ふと考える。
もしも相馬が居なかったら、俺は武田の告白を受けていたのだろうか。
いや、無いだろう。あんな奴全然好みじゃねぇし、話をするのさえ面倒臭そうだ。
だから相馬のことがなくたって、俺はきっと断っていた――筈、だよな?
正直に言うと自信は無い。
恋愛感情は無いにせよ、俺を好きだと言ってくる奴を無碍には出来ないだろうし。
そういや武田が相手だったらどっちが上になるんだ?
俺……だよな? 根拠は無いが俺の方が巧いだろうし、それが当然だよな。
だけどあんなでかい男を抱けるか? そもそも抱きたいと思うだろうか。全く想像が付かない。
むしろ俺が下になって、案外しつこそうなあいつに身体中を舐め回されて、俺自身も知らなかった性感帯なんかを発見されてる方が簡単に想像付く……。
いやいや、何考えてんだ俺は。
目の前にこんな可愛い相馬が居て、俺の舌の動きに合わせていやらしく喘いでいるのに、何で他の奴のことなんか……
いい加減武田のことは忘れよう。
そうだ、どうせ振ったんだからもう関係無いじゃねぇか。
そうは思うのに、俺はこの日幾度と無く武田のことを考えてしまって、忘れようと相馬を必要以上に求めて、泣かせて喘がせて初めて気を失わせてしまった。
そうして起きた相馬に「何かあったんですか?」と掠れた声で問われた時、恐ろしい程の罪悪感に苛まれた。
武田を好きになった訳じゃない、だけど相馬以外の奴のことを考えていたなんて、その所為で相馬の身体に負担を掛けてしまったなんて……そんなことをした自分が嫌になる。
気付けば俺は相馬を抱き締めて、「悪い、やり過ぎちまった……。これからはもっと加減するし、お前のことは大事にするから」と早口に告げていた。
相馬はふふ、と小さく笑って
「俺、三木さんの嘘が下手なところも好きですよ」
と言った。
嘘じゃねぇ、嘘なんかじゃねぇよ。
お前のことが好きで、大事にしたいって気持ちは、誓って本当なんだ。
例えお前が信じてくれなくても、やっぱり俺はお前のことが大好きなんだよ。
2016.06.09