運命の音

俺、三木さんと会う為に生まれてきたのかも……。
突然背中に投げられた言葉に驚いた俺が、はぁ? と言って振り返ると照れたように笑う相馬と目が合った。

「こう言うと、何だか運命みたいに感じないですか?」
「いや、何とも思わねぇけど」

そう答えると傷付いたような顔をされ、次いで三木さんは鬼なんですかという言葉が聞こえたけれど、お前たった今俺と会う為にどうとか言ってなかったか?

「それより突然どうしたんだ? 疲れてんのか?」

こっちが心配してやったら返事は「別に、そんなんじゃありませんけど」だった。頬を膨らませてぶすっとしている。何だこいつ、いつからこんな生意気になったんだ?

そうかよ、と言って俺はまた歩き出した。半歩後ろを黙って相馬がついてくる。
先を歩いてる俺からは見える筈の無い相馬の顔が、容易に想像がつくのはそれだけ密な時間を過ごしてきたからだろう。
こいつは今、間違いなく項垂れて暗い顔をしている。

ちらりと目線だけで確認すると、案の定相馬は下を向いていた。
視線を戻して俺はまた歩く。
深夜の道をてくてくと歩く俺達は、傍からは友人か知り合いにでも見えるのだろうか。まさか恋仲だと気付ける者は居ないだろう、男同士だしな。

いや、分かってはいるんだ。
お前は疲れてるんじゃなくてただ不安なんだろう? 今だって俺の返事に傷付いたんだろう?
俺がそういう甘ったるい会話に乗らないって分かってるくせに、何でこういうことを言ってくるんだろうなこいつは。

それでどうせ、そんなお前を俺が可愛いって思ってることにも気付いてないんだろう。
お前はそういう奴だ、変な所で自信が無いんだ。

「相馬」
「何ですか?」
「そこの曲がり道を過ぎたら、手でも繋ぐか」
「え……えっ? な、何で……ですか?」
「嫌ならしねぇよ」
「つ、繋ぎます! 繋ぎま……あ、でも誰かに見られたら……」
「こんな夜中に歩いてる奴なんざ居ねぇよ、ここら辺は民家も無ぇしな」

今歩いてるのはそれなりに幅のある道ではあったが、周りには何も無い。
先程まで新選組の連中と一緒に居た賑やかな町からも、もう随分と離れている。
そんなことはこいつだって分かっている筈なのに、相馬は「でも」とか「もしかしたら」などと心配をしている。しょうがねぇ奴だ。

だから曲がり道を過ぎるなり、俺は無理矢理相馬と手を繋いだ。
痛いです三木さんと言われたけれど、無視して歩く。数歩進んだところで、相馬の手が俺の手を握り返した。繋がった先から相馬の緊張が伝わってくる。もしも誰かに見られたら、ということが気になって仕方ないのだろう。

「相馬」
「何ですか?」
「その次の曲がり道を過ぎたら、口付けするか」
「え、……えっ! な、何言ってるんですか!?」

予想通りの反応に俺が笑うと、やっぱり三木さんは鬼だ最低だ俺のことを揶揄って遊んでるんだと震える声で責められた。
おいおい必死過ぎだろ、お前は子供か。
呆れてる内にもう次の曲がり道まで来てしまった。
曲がった先にも人影は無い。だから、道端に立っていた木の幹に相馬を押しつけて顔を近付ける。
緊張と期待とに震えてこくりと喉を鳴らした可愛い男に、俺は賭けをしようと提案した。

「賭け、ですか?」
「今から十秒以内にこの道に誰かが来たら、屯所に戻るまで口付けは我慢してやる」
「十秒って早くないですか?」
「あほかお前、こんな所に一分も居られねぇだろ? だったら早く帰った方が良いしな」
「あ、そっか、そうですね」

ちょろいなこいつは。そこが可愛くもあるんだけど。

「なら今から数えるな、いち、に……」

こんな時間、こんな場所に誰も来る筈がないと俺は高を括っていたのだが、さん、と言った時にガサリと草を揺らす音が聞こえた。
音の遠さと草音がしたことから考えるに、これから俺達が進もうとしている方の道に人が居るらしい。また道は曲がっているから姿こそ見えはしないが、そいつはその内必ずここを通ることになるだろう。
それに気付いたらしい相馬が目の前で怯えているが、俺達の居る道では無いのだから賭けは続行だ。

……ろく、まで数えた所で考える。さっきの草音から考えるに、そんなに遠い場所に居る訳ではないだろう。少しまずいかもしれない、けれどあと少し、ほんの数秒後には約束の十秒だ。
だが道端に散らばっている小石を踏みしめる音まで聞こえ出している。

はち、
運命の音が近付いている。

きゅう、
もう足音はそこまで迫っていた。


――だが、俺の勝ちだ。

じゅう、の瞬間に俺は相馬に口付けた。
それからぱっと離れて歩き出す。さっさと来いよと小声で言うと、慌てて相馬が付いて来る。

それから僅か数秒後、向かいからふらつく足取りの男が歩いてきた。
どこかで飲んで来た帰りなのだろう、通り過ぎる瞬間にぷんと酒の匂いがした。
その男の足音が聞こえなくなった辺りで、相馬が「卑怯です」と呟いた。

「あ? 何がだよ?」
「こっ、こんなことされたら、余計好きに……な、なっちゃうじゃ、ないですか」

俺の口からふっ、と空気のような笑いが漏れた。
何だそれ、可愛過ぎだろ。

「しょうがねぇだろ?」
「何がしょうがないんですか?ずるいですよ、ほんと……」
「だって俺は、お前に会う為に生まれてきたんだからよ」

そう言って笑顔を向けると、相馬は驚いた顔をしたまま言葉を失っていた。
大分遅れてから「やっぱり卑怯です!」と騒ぎ始めたけれど、それが照れ隠しだってことくらいお見通しなんだからな。
お前はいい加減、俺に愛されてる自覚と自信を持てよ。

2016.06.17
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