02
 目が覚めた時、目の前には心配そうに俺を覗き込む相馬の顔があった。そばに行灯が置かれているらしく、その顔がはっきりと見える。相馬は心配そうな表情で、必死な目をしていた。

「三木組長――」

 不安気に揺れるその声に、どうしたんだと問い掛けてから、自分の身に起こった事を思い出す。勢い良く起き上がって自分の身を見下ろしてみたが、特に変わった所はなさそうに見える。

「組長、大丈夫ですか?」
「あぁ、特に何ともねぇと思うが、さっきのあれは……」

 そう言って相馬の方へ視線を向けた時、目の端に自分の髪が見えた。
 白い――?
 慌てて自分の髪を掴む。引っ張ってじっくり見たそれは、間違いなく白かった。

「何、だ これ…………」

 自分の声が震えているのが分かる。さっきまで蒼かった俺の髪が、何でこんなことになってんだ?

「組長、すみません……俺の、不注意で」
「何の話だ?」
「徳利の中の液体を、飲まれたんですよね?」
「飲んだが、あれはただの酒だろ? それで何でこんな事になるんだよ?」

 俺の問いに相馬は苦しそうな顔で一度俯いて、「それは……」と言葉を濁す。その姿に、何故か酷く腹が立った。

「お前、何か知ってんだな? 説明しろよ!」

 気付いた時には相馬の胸倉を掴んでいた。苦しそうに歪められた顔が、随分高い場所にある。こいつ、そんなに軽かったのか? いや違う……これは、俺の力が強くなっている……?
 慌てて相馬から手を離した。床に落ちた相馬がげほげほと咳をしながらも、真っ直ぐに俺を見詰めてくる。

「それは、変若水というものです」
「おちみず?」

 相馬の言ったその名称に、聞き覚えはなかった。そんな酒、あっただろうか。

「お酒では無くて、何というか、薬……のようなもの、でしょうか」
「薬? 薬ってぇのは病気とかを治すもんじゃねぇのかよ? 何だ、俺のこの髪の色はよ」
「その薬は、人の力を強めるものなんです。髪の色が変わってる時には、強く、、なるんです」
「はぁ? 何だそりゃ?」

 強くなる? 何でそんなもんが必要なんだ?

「そんな薬があるってんなら、全員に飲ませりゃいいだろ、何でこんな隠すみたいに置いてあるんだ?」
「薬の力が、強過ぎて、、薬に耐えられない人も、いるからです」

 薬に耐えられない? どういう意味だ、そりゃ。まさか死ぬって事か? そんなもんをこいつは、こんな場所に置いてやがったってのか? それも徳利に入れて?
 余りのことに、何から質問をして良いのか分からなくなる。ただ腹の内に鈍い怒りが燻っているのは自覚していた。もしかしたら俺は、死んでいたかもしれないってことだろ? ふざけんなよ。

「お前が作った薬なのか?」
「……いえ、違います。俺は、」
「その説明は、私がしましょう」

 不意に聞き覚えのある静かな声が、俺達の会話を遮った。
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