03
夜は普通に過ごせる分だけ気持ちが落ち着いていたものの、また昼になると辛くて苦しくて、もういっそ死ねたら良いのにとまで思う。
皮肉なことに、その気持ちを打ち消したのは相馬と山南の存在だった。俺だけが死んで堪るか、あいつらも必ず道連れにしてやる。
この時も俺は激しく畳を掻き毟ったから、爪はぼろぼろになっていた。
夜になり、再び相馬が訪れる。
見れば何事も無かったかのように俺の爪は元に戻っていて、その話をすると、変若水を飲むと治癒力が上がるのだと言われた。
「へぇ、それに関しちゃ便利だな」
俺の言葉に、相馬は何も答えなかった。こいつのことだから、「人とは違う」部分に反応しにくかったのだろう。
この日の食事も美味しかった。
血なんて欲していない自分に安堵する。髪の色だって、最初の時以外は変わっていない。だから俺は、もしかしたらこのまま待っていれば、その内に元に戻れるんじゃないかと思ってしまった。
けれど次の日の昼も、日の光が辛い。明るさが怖い。息がまともに出来ない。苦しくて、部屋の中でのたうった。
誰も居ない、助けも来ない。圧倒的な孤独と壮絶な苦しさが、とうとう俺の怒りを限界へと到達させたのだ。
夜になって相馬が来た時、俺は相馬を怒鳴り散らしていた。
何を言われても相馬はひたすら謝るばかりで、言い返してくることはない。それがまた俺を苛々させる。
ふと思った。
あぁ、俺は一人だから辛いんだ。傍に人が居れば良い、どうして思い付かなかったんだろう。俺の秘密を守る為に、逃げようとしたら殺してしまえる奴がいい。
「俺に悪いと思ってんのが嘘じゃねぇなら女を寄越せ、居ないなら攫ってでも連れて来いよ!」
そうだ、女がいい。簡単に殺せるし、生きてる間は楽しめる。俺は本気だった。だが、相馬がこの時ばかりは反論した。
「治安を守る筈の新選組が、そんな事をしてはいけません!」
「何が治安だ! 裏でこんなおかしな薬を隠れて使ってるようなお前等が、偉そうな事言ってんじゃねぇよ!」
そう言ってから、俺自身もまだ新選組に属していることを思い出したが、俺や兄貴達と、相馬や山南達とは、同じ新選組でも違う存在だと思ったから訂正はしなかった。
相馬もそこは分かっているのか、流石に言葉を詰まらせてはいたが、少しして、「俺が」と小さな声で呟いた。聞こえねぇよと怒鳴ると、言いにくそうに言葉を続ける。
「……俺が、代わりをしますから、それで勘弁して下さい」
「はぁ? お前が?」
「はい」
「ふざけんな、俺を衆道だとでも思ってんのか? 俺は男なんかに興味はねぇんだよ!」
「では、目を瞑っていて下さい。そうすれば、性別は気にならない筈ですから」
何を言ってるんだ、こいつは。本気なのか?
だが俺は知っている、こいつが冗談を言うような奴じゃないことを。今だって真っ直ぐに俺を見ているし、その目には曇りが無い。
流石に断ろうとして口を開きかけたが、いや、こいつが俺に奉仕するのを見てやるのも悪くないんじゃないか? そうだよ、俺だけが苦しいだなんて納得がいかない。相馬にも相応の屈辱を味わわせてやろうじゃねぇか。
「なら、やってみろよ。俺が満足出来るまで、屯所には帰らせねぇからな」
「……分かりました」
頷いて、相馬が俺に近付いて来る。
すげぇな、こいつ。嫌じゃねぇのかよ? それとも相馬は衆道だったのか? そんな話は誰からも聞かなかったが。
目の前で相馬がしゃがみ、俺の着物の裾を捲った。それから失礼しますとご丁寧に断ってから、俺の下帯を解く。俺の下肢に、相馬の息が掛かった。
本当にこれから相馬が俺に奉仕すんのか? 目の前で起きていることなのに、現実感がない。突然相馬が上目遣いで俺を見た。
「これから、その……しますから、組長は目を瞑っていて下さい。俺は、女性には見えないと思いますので」
「そうだな、女には見えねぇな」
そう答えると、相馬は少しだけ寂しそうな目をして微笑んだ――その表情が、やけに綺麗に見える。だからと言って女に見える訳じゃないし、これまで相馬をそんな目で見たことなんて無かったのに。
それから相馬は俺が目を瞑ったと思ったのか、俺の顔を確認もせずに躊躇いなく俺のものに口を付けていた。それまで無反応だったそこは、相馬の熱い口内に含まれてどんどん反応を示していく。
形作られていくそれに、相馬の舌が絡められた。あー、すげぇ気持ち良い。
結局俺は目を瞑らず、俺に奉仕する相馬の顔をずっと見ていた。伏せられた睫毛の長さや、顔を動かす度に揺れる前髪が、何故か俺を興奮させたからだ。
我慢出来ず、相馬の頭を両手で掴む。突然の事に相馬が驚いて目を開き、俺を見上げた。その目にはきっと、熱っぽく笑っている俺が映っていることだろう。
「お前の動きじゃ、イケねぇな」
そう言って、俺は勢い良く腰を動かした。相馬の喉奥に、俺のものの先端が当たるのが自分で分かる。相馬は酷く苦しそうに顔を歪めて、俺から逃げようとした。
誰が逃がすかよ、てめぇがやるっつったんだろ。
「歯ぁ立てんじゃねぇぞ、立てたら斬るからな」
脅すように言って、むちゃくちゃに腰を動かした。相馬は涙目になりながらも、俺の言いつけを守り歯を立てることは無かった。
気持ちが良いし、気分も良い。涙目になった相馬を見ると、ぞくぞくした。俺から人としての人生を奪ったんだ、当然の報いだ。
「口ん中に出すからな、全部飲み込めよ?」
そう言った後、こいつはまた逃げ出そうとするんじゃないかと思ったのだが、相馬は俺に口内を犯されながら小さく頷く。その僅かな動きが刺激となり、俺はそのまま果てていた。
どくどくと、俺の中から熱が出ていくのが分かる。出し切ってから、相馬の口からずるりと引き抜いた。相馬は涙目のまま、必死でそれを飲み込んでいる。幾度かに分けて、ごくりごくりと。それはもう健気なほどだ。
飲み終えてから、げほげほと苦しそうに咳き込んでいたが、俺の熱は収まっていない。いやそれよりも、必死に俺の言う事を聞く相馬を見て、興奮が増すばかりだった。
咳が治まった頃合いを見計らって、相馬に近付く。それに気付いた相馬は、何を思ったのか謝ってきた。
「すみませんでした。俺は……下手、でしたよね」
「はぁ?」
ここで謝罪? どういう事だ? 無理矢理あんな事をした俺に、文句とかねぇのかよ?
「次は、もっと頑張りますので……」
けれど相馬は自分の不甲斐無さを反省するばかりで、俺を責めてくることは無かった。その態度に、別に悪く無かったと答えてやろうとして、止めた。
「そうだな、口だけじゃ満足出来ねぇな」
「……すみません」
「だから、お前の身体も貸せよ」
「え?」
俺の言葉の意味が分からなかったらしく、不思議そうに俺を見上げた相馬をその場に押し倒す。そうされてもまだ、何が起きてるのか分からないらしい。
相馬は、「あの、三木組長?」と俺に疑問符を投げ掛けているだけだ。もっと危機感持てよ、馬鹿が。
「お前を抱く、つってんだよ」