安らかな寝息を立てるユキをシーツの上に寝かせ、漸く人心地がついた。とはいえシーツを捲れば絶対にまた自己嫌悪に陥る自信がある。

「はああああ」

 本当に、綺麗なものを汚すのは簡単だと思う。そして一度汚したものは完全に元に戻らない。それでも他人に見せられる程度には綺麗に戻すつもりだった。

『やだ、きるあ、やだ』

 それがなんだ、この有り様は。他人に見せられる? 無理だ。ここまで汚れたら絶対にもう見せられないし見せようとも思えない。
 オレだってここまで汚くなってるとは思ってなかった。それもこれもあいつが汚すから——帰りたいなんて、叶わない願いを口にするから。

「……くそ」

 あの時言った「ありがとう」は、オレを帰るところだと認めたわけじゃない。元の世界に帰れないとわかっていながらあいつは諦めてなかった。あいつにとってこの世界は、オレは、"あっち"よりも遥かに優先順位が下で、どう頑張っても敵わない存在で。

『きるあ、ねえ、はなして』
『……』
『ねえ……っ!』

 少しだけシーツを捲る。白い肩に真っ赤な歯形があって、罪悪感と征服感が襲ってきた。ごめん、と呟いてそこに口付ける。小さく反応したものの起きる様子はない。
 違う、本当はわかってたんだ。こいつが本気で帰りたいと願ったわけじゃないことは。最近たまに感じる視線には今までとは違うものが含まれていたし、それに悩んでいたことも知っていた。こいつが何を考えていたか、大体のことは把握していたのに。ただ一言「帰りたい」と言われただけでこんなことになるなんて。

「ごめん」

 一生かけて償うと言えば、元の世界を諦めてくれるだろうか。打算的な考えしか浮かばない頭に嫌気が差した。






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